進捗04:ポスターを作ろう

華「初めての論文だっただろうから、イジメるのはこれくらいにしてやろう」


先生が、精神状態ボロボロの私達の論文を受け取ってくれる。

って、イジメるって…………


華「悪いところの修正案は私が作ってやるから、キミらはそれをLaTeXで修正し、タイプセットしたものをメールで送ってこい。」


悠里「は、はい……」


華「では、次はポスターセッション用のA0のポスターを作ろうか。」


呉羽「う……まだあるんですね……」


華「当たり前だ。論文が採択されたら、発表しなければいけないだろう」


呉羽「でも、査読(※1)に落ちたら発表はできませんよね……?」

(※1)学会発表は論文のチェックに通らなければ出ることが出来ません。


華「……あのなぁ……良いか。今回発表する学会の委員長は私だ」


呉羽「なぬっ!?」


華「つまりだ、キミらが落ちることはないんだ」


呉羽「そ、それは流石にチートすぎやしませんか……?」


華「なーに、社会はいつも不条理なもんさ。じゃ、ポスター作っとけよ。」


そう言って、先生は先生の部屋に戻っていった。

私達も生徒研究室に戻っていく。


呉羽「……も、もうダメかもしれない……」


扉を閉めた瞬間、呉羽が倒れる。


和奈「わー!呉羽!!しっかり!!!」


呉羽「…………Zzzz」


和奈「……やば、完全に寝ちゃった」


悠里「……と言っても……私達も流石にちょっと限界来てない……?」


和奈「……だね……」


とりあえず椅子を並べて呉羽をそこに寝かせる。


和奈「……私達も寝よう……」


同様に椅子を並べてそこに寝そべる。

そこそこいい椅子を購入しているので、クッションが効いていて寝やすい。


悠里「……おやすみ」


和奈「おやすみ……」


疲れきった脳を休めるため、私たちは夢の世界に落ちていった。



………………………

………………

………



和奈「…………んぁ……?」


目が冷め起き上がると、外が少し暗くなってきている。


和奈「……げ、もう17時じゃん……」


3時間ほど寝てしまっていたらしい。


和奈「……あれ?」


自分のデスクの上を見ると、私の論文を印刷したものがホッチキス止されたものがおいてあった。

ダメな部分がすべて赤ペンで、どのように修正すればいいかを書いてある。


和奈「……先生、すごいなぁ」


同様に、悠里と呉羽の席にも論文の修正が置いてあった。


悠里「……んんっ?」


和奈「あ、悠里、おはよ」


悠里「……おはようございます……って、ええええ!?もう17時過ぎてる!?」


和奈「あ、だね!呉羽も起こして、早速ポスターに取り掛かろ!!」


悠里「ですね!呉羽、起きなさい!呉羽ー!!」


呉羽「……ムリ……もう無理……それ以上文章考えたら、オーバーフローしちゃう……」


悠里「論文は終わったから!!起きなさいよ!!」


呉羽「スタックオーバーフロー…………はっ!?」


悠里「やっと起きましたか」


呉羽「……おはようございます」


悠里「おはようございます。ポスターを作りましょうか」


呉羽「……おやすみ」


悠里「ダメに決まってるでしょ!!」


呉羽「……もうヤダ。プログラミングしたい……」


悠里「……研究なのですから、それは諦めなさいな……」


呉羽「……はぁ……また、あの『分からない』地獄が始まるのね……」


悠里「うぐっ……あんまりそういうマイナスな話はしないでいましょ……」


呉羽「……はぁ…………」


和奈「ほ、ほら!とにかく作らなきゃ!もっと怒られるよ!!」


悠里「それも嫌だよね……取り掛かりましょうか」


呉羽「はーい……」


和奈「とりあえず、論文先生が直してくれたし、それを先にLaTeXに入力し直して、その論文をスライドにまとめ直せばいけるはず!!」


悠里「やってみましょ!」


………………………

………………

………



呉羽「……和奈……」


和奈「……やめて言わんとって……言いたいこと解ってるから」


呉羽「……修正多すぎて終わらない」


和奈「言うなって今言ったとこー!!!」


論文の修正が全ページに渡り、事細かく赤ペンで書き込んであるため、

ポスター製作に入ることが全然できない。


和奈「……え……図の作り直しってなんですか……」


呉羽「…………ジャッカード係数(※2)の説明……ジャッカード係数って何……?」

(※2)比べる2データ集合の中で、どれだけ同じものがあるかで類似度を測る物!


悠里「ジャッカード係数はですね!集合A,Bがあった際に、分母に集合AとBのカップ、分子に集合AとBのキャップを持っていって――」


和奈「わ、また呉羽が寝ちゃう……こともない!?真剣にメモをとってる!?」


呉羽「……私、気がついたんだ!悠里の説明を全部そのまま論文に載せれば完璧だって……にししししし」


和奈「わ~……呉羽がすごい悪人の顔をしてるよぉ」


悠里「――で、具体的には、袋Aに1,3,5,7,9、袋Bに1,2,4,6,8が入っててこのジャッカー度係数は、分母に袋Aと袋Bの要素のカップ、分子には袋Aと袋Bの要素のキャップなので、1/9となるわけ!」


呉羽「…………」


カタカタとテキストエディタに一心不乱に文字を打ち込む呉羽。

っていうか、聞き言葉を全部打ち込むのってすげーな………


呉羽「……よし、これを整形してLaTeXにコピペして……にししししし……」


あ、また悪い顔をしていらっしゃる。



………………………

………………

………



和奈「お、終わった!!!」


呉羽「……もうやだ……帰りたい」


悠里「これはいい感じになったと思います!」


なんとかポスターを作り終える。

気がつくと案の定、日付は変わっていた。


悠里「とりあえずメールで提出しましょうか!」


和奈「だね!」


呉羽「…………送信完了」


和奈「はやっ!?」


呉羽「……早くふたりとも送って!返事が来る前に逃げるよ!!」


悠里「た、たしかにそうね」


和奈「……っし!送信!!」


悠里「んなっ!?わ、私も!!………………送信!」


和奈「よし帰ろう!!」


呉羽「明日までスマフォとかメールとかみたらダメだかんね」


悠里「それが一番……ね!!」


今しがた、悠里のスマフォが震えた気がしたけどこれはもう気の所為。


呉羽「――っ!?」


和奈「~~~~!?」


呉羽と私のスマフォも震える。


和奈「とにかく研究室から出ましょ!!」


荷物をまとめて、研究室を出る。


呉羽「……よし、勝った!!」


悠里「……もう、修正嫌だしね……」


和奈「……うん」


これだけやったんだ、一回休んでもいいでしょ……


和奈「……今日の進捗は、オシマイにしましょう」


悠里「それが良い」


呉羽「……うん」


三人でトボトボと、明日の修正の山を想像しながら大学から出ていくのでした。







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