進捗03:論文を書こう

和奈「ぬ~~わ~~!!まわりっっっっっっっくどすぎる!!」


論文。

論じる文。

論理的に書き記した文章。


和奈「論理もクソも、読みにくかったらただのゴミだろこれ!!」


表題、アブストラクト概要、はじめに、関連研究、手法、評価実験、コンクルージョンまとめ

大まかな論文といえばこれだとさ。

その中でも、書き言葉がうざすぎる。

な~にが、『●●について表す』だ!な~にが、『●●に示す』だ!

と言うか、一つの物事を説明するのに話があっちゃこっちゃ行き過ぎなんだよ!!


和奈「あ~……もっとこう、『あらまし:衣服推薦します!』みたいなのだったら楽なのになぁ……ねえ、呉羽?」


呉羽「…………」


和奈「呉羽?え、ちょ!?ダウン早くない!?」


呉羽はパソコンのキーボードに突っ伏して寝ていた。

LaTeXラテフ(※1)エディターがすごいことになっている。

(※1)テキストベースの組版処理システム


和奈「悠里は……」


悠里「……………………」


あ、LaTeXのコマンド見て固まってる。


悠里「…………ワードなら、ワードなら使えるのに!!何で、何でこんな!!コマンド!?ナニコレ、イミワカンナイ!?」(※2)

(※2)LaTeXはタグで図形や文字の描写を行います


と言うか、プログラミング大得意な呉羽と、論理的思考の悠里を足して二で割ったら最強だよね……

あれ?私はにも出来て無くね?あれ?


悠里「えっと、改行がバックスラッシュ……え?バックスラッシュって何処にある!?え、りんごさんのキーボードなにこれ!?」


和奈「Option+¥だね、バックスラッシュ」


悠里「え?……お、おおお!でた、出ましたよ!!よし、一旦タイプセット(※3)……え、何?何でハテナが表示される(※4)の!?」

(※3)LaTeXのタグや文章をPDFに変換すること

(※4)LaTeXはエラーが出ると、『行番号?』と表示される


悠里「えっと……画像の表示は……まず、GhostScriptゴーストスクリプト……?で、画像をepsに変換して……?…………は?」


悠里の肩が震えだす。


悠里「もーや~だ~!!なんで!?論文本体に辿り着く前に、めちゃくちゃ時間かかるやん!もうやめるー!帰るぅ~!」


和奈「はいはい、どーどーどー……落ち着こうね~」


とりあえず背中を擦る。


悠里「うぅ……ぐずっ……和奈ぁ……エラーわかんない……」


和奈「えーっと……84行目でエラー……あ、画像表示タグの閉め忘れだね」


悠里「……え?……お!おおお!!タイプセット通った~!!」


和奈「さ、続き頑張ろう!」


悠里「うん!!」


和奈「ほら、呉羽!起きなって!!」


呉羽「……んむぅ?……はっ!?LaTeXのエディタに大量の『っ』が!?」


和奈「キーボードの上で寝るからでしょ。さ、続きを書きましょ?」


呉羽「……ムリ。文章書きたくない」


和奈「プログラムだって文字じゃん」


呉羽「アレは緻密な計算式と美しき文法が交わって出来ている芸術。これは違う。駄文」


和奈「書き上がってもないのに駄文言うな」


呉羽「……と言うか、こんなの読む人いるのかねぇ……いたとしたら相当な変人じゃない?」


和奈「いや、それは言いすぎじゃ……?」


呉羽「でも考えてみて?論文があるということは、スライドないし、ポスターでセッション発表をしたってことでしょ?ならそのまとまったスライドをみれば良いだけな気がする。ようは結論ですよ、結論があればこんな駄文書く必要がない!Q.E.D証明終了!!」


和奈「あんた、今全世界の研究者を敵に回したわよ……?っていうか無駄に饒舌になってない?」


呉羽「あー……早く出来ないかなぁ……論文を自動で書いてくれるAIプログラム。いや待てよ?自分で書けば良いのでは――」


和奈「はいそこまで!!あんたそんなことしだしたら、そっちにかかりっきりで一切論文書かなくなるでしょ!?」


呉羽「……元々に書きたくないからね……」


和奈「はい、良いから書く!!」


呉羽「えー…………」


とにかく手を動かさねば、絶対に先へは進めない。

だから私たちは必死に書いた。

書いて書いてタイプセットして、convertコマンド(※5)をバッシュ(※6)で叩いて叩いて叩きまくった。

そしてまたタイプセットする。

(※5)GhostScriptというものの機能で、画像を変換できるんです

(※6)Windowsで言う『コマンドプロンプト』みたいな。ハッカーが使うやつみたいな


和奈「……で、出来た!!」


悠里「……これでやっと!!」


呉羽「……解放される!!」


始めたのは15時。

途中、なんやかんやあって、気がついたら23時。

先生はいつの間にか帰っていた。


和奈「とりあえず、先生にメールで提出しよ!」


悠里「おー!」

呉羽「おー!」


………………………

………………

………


和奈「よっし!夜もかなり遅いし帰ろっか!」


悠里「だね!」


呉羽「むしろエンジニアはこれからが本番……!」


3人で帰る用意をしていると、3人の携帯が次々に震える。

そしてその通知画面を見て、三人で言葉を失った。


『わかりにくいので、再提出です』


………………………

………………

………


呉羽「……進捗、ダメでした……」


夜中の1時の研究室で、呉羽はそのまま机に突っ伏して動かなくなりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る