進捗02:それぞれの研究ミーティング

研究ミーティングは教員用の部屋で、先生と学生の1対1で行われる。



大吉 和奈おおよし かずなの場合


華「ふむ……洋服のレコメンド、か」


和奈「はい!私、ファッションが趣味なんで」


華「テーマ的には面白そう……だな。ではどのようにレコメンドしていくかを考えようではないか」


和奈「え?洋服の中から合う、合わないを答えていくんじゃ……?」


華「……あのな、端から合う合わないが分かっていたら、そもそもに『レコメンド』なんてあまり使わないだろ?」


和奈「な、なるほど……」


華「そもそもに、合う合わないの二択のアンケート……A/Bテスト、というのだが、服には膨大な種類があるのに、そんな二択のアンケートを答えきれるわけがない」


和奈「……うぐっ……」


華「というわけで、まずはデータを作るところからだな。服の種類を事細かく分けた表を作ろうか。」


和奈「……事細かく?」


華「例えば、半袖、タートルネック、ボーダー……そんな感じだ。で、どの組み合わせが流行っているのかなどが分かるだろ?」


和奈「なるほど」


華「そして、それらから身につけている組み合わせの統計を取ろう。ただし、確率の前提である『同様に確からしい』は成り立たないので、普通の確率ではなく、ベイズ確率を使っていこう」


和奈「……え?ええ?」


華「で、大吉」


和奈「は、はい!」


華「大学院に進学する気はあるか?」


和奈「え?!えっと……今のところ無いですけど……」


華「大学院はいいぞ!」


和奈「……え?」


華「とりあえず修士を出よう。初任給も高くなる事がある!キミの人生においての、ターニングポイントにもなりうるぞ!」


和奈「大学院が、ですか?」


華「ああ。こんな研究が、たった1年ちょいで出来るわけがない。研究の面白さを真に理解するには時間が必要だ!修士で2年……そのプラス2年がかなり大きい!何より、今までよりさらに考え方が身につく!!考え方、つまり、学び方。そう『学力』だ!人生におけるたった2年でさらなる成長が期待できるというわけだ!!どうだ?」


和奈「え~っと……」


華「分かる、金銭面だろ?それは大丈夫だ!院試の成績優秀者は、授業料が60%カットされる!試験は君たちの実力だが、面接……研究発表の時間もあるのだが、安心したまえ!キミたちはこれから学会に出るんだ!!そこでたくさん練習できる!私も練習に付き合うぞ!これで大丈夫だ!」


和奈「いや、あの……」


華「それとも、就活が心配か?大丈夫だ!この業界は今、人が足りていない!ブラックもホワイトもな!!だからこそ、大学院の生徒を取りたがる!!どうだ?」


和奈「ん~っと……」


華「なんだ?今の単位が心配なのか?どうだ先生に話してみろ――」


(以下、省略)




徳島 悠里とくしま ゆうりの場合


華「商品の推薦?」


悠里「はい。例えば、大手ECサイト(※1)である、Amazonessアマゾネスのレコメンドは、改善の余地があります。」

(※1)Electronic Commerce:ショッピングサイトみたいな感じ


華「ほう?」


悠里「例えば、マウスやキーボードを購入すると、別のマウスやキーボードをレコメンドされます。しかし、マウスはそう簡単には壊れません。買ったばかりなのに推薦されても、購買意欲こうばいいよく(※2)はそそられませんよね?」

(※2)消費者がその商品を買いたいと思うキモチ


華「ふむ」


悠里「だったら、例えばマウスを購入したらキーボドを、スマフォを買ったら充電器を推薦するべきだと思います」


華「よし、ならばクラスタリング(※3)の手法を作ろうではないか」

(※3)分類の枠組みを作る的な意味


悠里「つまりどういうことでしょう?」


華「分類されている物……例えば、マウスはマウスと分類されているし、キーボードはキーボードと分類されているよな?」


悠里「はい」


華「それを『PCの周辺機器』のような枠組みに変えてレコメンドしよう、という話だ」


悠里「なるほど、それならばマウスを買えば、マウス以外の物がレコメンド出来ますね」


華「ああ。そういった『思いがけない出会い』を作ることを、Serendipityセレンディピティというが……まずはそれを完成させるために、クラスタを作ろう。」


悠里「わかりました」


華「では、そのために案を出してきてくれ」


悠里「はい!」


華「ところで、話は変わるが徳島」


悠里「なんでしょうか?」


華「大学院に進学する気はあるか?」


悠里「え、えーっと……あまり考えてなかったのですが」


華「大学院はいいぞ!」


(以下略)




高岸 呉羽たかぎし くれはの場合


華「……で、テーマは決まらなかった、と」


呉羽「……はい」


華「何でなんだ?」


呉羽「プログラミングがしたいからです」


華「いや、よくわかんないけど……趣味とか無いの?」


呉羽「プログラミングです」


華「……いや、まあ……うん、そうかも知れないけど……なんか他に?」


呉羽「ご飯食べるの好きです」


華「メシ……メシなぁ……じゃあ、レシピでも推薦してみるか?」


呉羽「レシピ推薦しても、ご飯食べられないですよね?」


華「まあ、アレだ。注文するときとかに悩んだら、料理名で推薦とかでも出来るだろ。そんな感じのやつ」


呉羽「なるほど。確かにそれは良いかもしれません」


華「よし、ではレシピの特徴を抽出していこう。」


呉羽「特徴……?」


華「まずは、レシピサイトのスクレイピング(※4)からだな。特にレシピのタイトルには注意しろ?『こってり』とか『子どもに人気』なんてワードは、そのレシピの特徴を表しているのだから、それらを使わない手はない!」

(※4)Webサイトから情報を抽出すること


呉羽「なるほど」


華「それらの、特徴が現れているレシピを教師データとして、他の特徴が書かれていないレシピとの類似度を測る。類似度が高ければ、そのレシピは、教師の特徴を引き継、という手法だ。」


呉羽「…………?」


華「具体的には、おそらくコサイン類似度を使うのがメジャーではないだろうか。形態素解析器(※5)には……MeCab(※6)なんか使えばいいと思うぞ!」

(※5)形態素解析を行うツール

(※6)C++で書かれている日本語形態素解析システム(実在します)


呉羽「…………??」


華「で、教師データの名詞、動詞なんかを特徴ベクトルの次元にして、特徴不確定レシピから抽出した名詞、動詞を次元と比較し、次元に存在すれば1、存在しなければ0とした、二値の特徴ベクトルを作成だ。」


呉羽「……??……???…………????」


華「で、高岸」


呉羽「……は、はい?」


華「大学院に進学する気はあるか?」


呉羽「…………や、何も考えてないですが……」


華「大学院はいいぞ!」


(以下略)




………………………

………………

………



和奈「……思い返すと……大学院の話が一番記憶に残ってるんだけど……気の所為?」


悠里「……まごうこと無く私も」


呉羽「……右に同じ……」

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