吹き抜ける。


何度、何度突っ込んだことか。


どれだけ女子マネに飢えていたんだろう、一頻りお祭り騒ぎで全員がはしゃいだ。


女子バレーの方を見て、助けを求めたがにっこり笑顔のブイサインを返されただけで後は放置だった。


「めちゃくちゃ怖いんやけど...」


ひきつりと青ざめた顔を元に戻すことが出来ず、暫く放心している一を他所に、バレー部男子達はテンションマックスで練習を始めたのだった。


「まずは、部員の名前覚えてね?仕事はその後からでもゆっくりでいいから。できれば最初に俺、キャプテンの浩介くんから覚えてくれたら顔も立つんだけどなぁ」


部員名簿なるものを渡され、先に部員から覚えてほしいともっともな仕事初めではあるが事あるごとに軽い。


「あー、はい。努力しますけど...キャプテン、めっちゃ近いです」


そしていちいち距離が近いので落ち着かない。


肩と肩が触れるところまで近づいてきて、しっかり目を見て話をする。


男子に免疫が強いわけでもなく、この至近距離で会話するなんて滅多にない一は名簿を二人の間に滑り込ませて距離を取った。


「うっそマジ?テレてるとか?ヤバイっ、うっぶっ!!」


かっこいいのに色々残念な人や....それが浩介並びに部員全員への印象だった。


きゃっきゃ騒ぎながらコートへ戻る浩介を見送ってから、名簿に目を落とす。


名簿だけで写真はないので、今日一日で覚えるのは無理なことは分かっていたが、自己紹介を思い出してはコートの部員と重ね合わせる。


キャプテンと副キャプテンの名前は問題なくすぐ覚えられた。


しかし、こうも印象が同じな男ばかりを特徴もなく覚えるのは困難を極める。


全員キャラが同じ種類で濃いというのも考えものだ。


そうやって名簿と睨めっこしていると、背後でカタンと音がして、それと同時に部員たちが一同に挨拶した。


「おー、すまん、遅れたな」


入ってきたのは長身の.....これまた男前。


三十半ばかそれ以上か、髪を短く切り揃えた凛々しい顔つきの男前は見るからに監督兼コーチだ。


浩介と何やら話をして、そしてこっちをがっつり振り返った。


「女子かっ!!女子マネかっ!!」


一を認めて、第一声の大音量に体がびくつく。


「ただの女子マネじゃないっすよ、諏訪さん」


「なにっ!?」


ちっちっちと、指をピラピラする浩介にマジ驚きの諏訪。


そして、二人でこっちへ近付いてくる。


「はじめちゃん、この人監督で諏訪保(スワタモツ)さん。諏訪さん、彼女が今日から新しくマネとして入部してくれた及川一さんです」


「こんにちは、初めまして。二年の及川一です。至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします」


監督、大人用の挨拶をして、かしこまって頭を下げた。


一の自己紹介が終わり、あんぐり口を開けた諏訪が浩介に向き直ると、何故かどや顔の浩介がゆっくり数回頷いて見せた。


「関西弁じゃねぇかっ!すっげなまってんじゃねえかっ!んだこの子!つか可愛いじゃねぇかちくしょーっ!たまんねぇなっ!」


目をランランさせて、他の人が聞いたら速攻で通報される可能性のある怪しい台詞を大音量で叫んだ。


お前もか...うっかり声に出してしまうのを寸でのところで堪え、この監督にしてこの部員有りなんだなと肩を落とした。


名監督と聞いてどんな人かと楽しみにしていたのに、まさか同じテンションだとは思いもしなかった。


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