吹き抜ける。
正直引いた。
ちょっと引いたどころの話ではない。
ドン引きだ。
女が来たといってこんな反応する部活に、何も考えず勧誘されたからと言ってふらふら入部するなんて危なすぎる。
別に女にモテないわけでもなく、女に不自由しているわけでもないのに、こんなにまで騒がれるとなにか裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
「じゃあ、なにか困ったことがあったらいつでも言ってね?あんたら、一が可愛いからってちょっかいばっかり出さないようにねっ?いい?わかった?」
「へ、ちょっ、あのっ」
背中を押され、ポーンと前へつき出される。
えぇっ!
ほったらかしかっ!
頭の中で叫ぶ。
バランスを崩し、よたよた前のめりになりながらなんとか踏ん張るも助けを求めた先輩は爽やかな笑顔と脅しを残して去っていった。
名残惜しく、その後ろ姿を見送る一の背後に男子バレー部が一気に距離を積めて迫ってくる。
「ぅっ!!」
遠慮無く歪む一の顔。
「初めまして、キャプテン三年の
一番一に口を開いた浩介と呼ばれていた男前がキャプテンらしく、爽やかな笑顔を見せて自己紹介した。
付属にチャラい一言をつけ添えて。
「どうも、副キャプテンの
続いて副キャプテンの猛が自己紹介を引き継ぐ。
キャプテンと副キャプテンの挨拶が終わったところで、うずうずしていた他の部員が一同に押し寄せてきた。
さすがに怖くて、後ろの壁にへばり着く勢いで後ずさりした。
「リベロの
「WS《ウイングスパイカー》です中山です。三年です。マネ可愛いっす!」
「同じくWSの
爽やかに見える男前でさえ、可愛いを付け足してくる。
男前の礼儀にでもなっているのか。
テンプレートで可愛いを付け足す礼儀がこの部での掟かのように、未だかつて直接聞いたことのない“可愛い”が連発されている。
次次と、口々に挨拶されるが顔はおろか名前ですら頭に入ってこない。
「あ、俺二年の
そして、ようやく三年が終了したところで二年と交代。
若干何が心配なのか理解できない自己紹介ではあるが、流れから言ってその流れのままの心配を示唆しているのだろう。
結局そのまま二年が自己紹介し、一年まで回る頃にはすっかり頭がふらふらで自己紹介もくそもない状態になっていた。
一年生、最後の木村君が「先輩、可愛い」を言い終えた辺りではもう、呪詛にでもかけられたのではないかと不安になる量の“可愛い”をお見舞いされて腐と化していた。
「....あの、はい、どうぞ宜しくお願いします...」
ふらっふらの頭を下げ、どうにかそれだけ返して頭を下げると、また館内が沸いた。
「やっべっ!!めっちゃ可愛いっ!関西弁喋る可愛い二年マネっ!!たまんねぇっ!それだけで全国行ける気がする!!」
キャプテンの、この、あまりに酷い発言に一が目眩を引き起こす。
行けやんっちゅうねん。
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