吹き抜ける。
午前中の授業も一応詰まること無く無難にこなし、千夏と昼食を終えてあっという間に前半戦が終了した。
それから午後は眠気と戦いながらノートを取り、午前中と変わらぬ流れで可もなく不可もなく過ごした。
六間目も無事に終え、さぁいよいよ部活に出陣というところで帰宅部の千夏が最後の激励をするべく一の両肩に手を乗せる。
「行ってらっしゃい!頑張ってね!」
「虐められないよう頑張りますっ!」
敬礼して答えた一に倣って千夏も敬礼し、軽やかな足取りで教室を去っていった。
後でメールする約束をかわして見送った。
貧乏だし経済的なことから携帯は要らないと言ったのだが、危ない自転車通学に加えて緊急なとき連絡を取り合えないのは不便なため兄のお下がりを譲り受けたのだ。
支払いも兄がやってくれると言われ、なおさら断ったがネットもなにもできないガラケーなので心配するなと押しきられて持っている。
たまに元カノだったりわけの分からない人からメールが来たりするのが厄介だが、それ以外ではありがたく使わせてもらっていた。
千夏との連絡もこれで取ったりできるので、とても重宝しているし女子高校生みたいで気に入っている。
まだ個人的にやり取りできるアドレスは千夏だけだが、これからどれだけ増えるのかなと思うと楽しみでしょうがない。
気分もテンションも申し分ない状態で初部活。
恵まれているなぁなんてほっこりしながら学校指定ジャージに着替え、バレー部専用体育館へ向かったのだった。
二階のフロアから非常階段まで移動し、そこからすぐの体育館へ走る。
吹奏楽やその他部活の活気溢れる声が飛び交う雰囲気はどこの学校も同じで、こういういかにも高校生な感じがして大好きだ。
ますます、一のやる気も刺激される。
体育館の入り口が見えたところで、バレー部のジャージに身をくるんだ女子バレーキャプテンと合流した。
「はーじめーっ!!」
両手をぶんぶん振って、明らかな歓迎モードの女子キャプテン。
初日自己紹介してから即名前呼びが定着していて、とても気さくな先輩である印象を受けていた。
「あ。先輩。ども、お疲れさまです。なんかすいません、付き添ってもらって」
初日にここで待ち合わせることにしていたのだが、流れも雑で入部の話になる方向性も釈然としていなかったため半信半疑だった。
まさか本当に待っていてくれているとは思いもよらず、生きていた約束に感謝と恐縮の混ざった会釈する。
「いいのいいのっ!同じ館内だしどうってことないから。それに一の関西弁聞きたいし。ははははっ」
「.....あー、はい、それはどうも」
肩を組まれ、がしがし叩かれながら体育館へ向かった。
さっきまではなんともなかったのに、やはりいざとなると緊張してしまう。
次第に早くなり始めた心臓を深呼吸して抑え、部活用シューズに履き替えてフロアに上がった。
バレーボールの跳ねる音、靴が床を滑る音、活気ある部員の声が心地よく耳に届く。
声優大好き声フェチの一にはこの段階でテンションが上がるが、ミーハーお断りを知っているので口にも態度にも出さない。
「おーい野郎共!!約束してた女子マネだよー!!」
なんという男らしい召集の仕方なのだろうか。
その一声だけで部活が中断され、全員が一斉に一達の方へ向けられた。
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