吹き抜ける。
ごみとなったラップをレジ袋に入れ、マラソンマン(さっきの青年の事)が上ってきた道を今度は一が勢いよく下った。
ボブの髪が無惨なほどはためいて、額も全開で一気に降りる。
帰りは違う道を兄と通るので、帰りにここを登るなんて事を考えて気が重くなることもない。
「きぃもちいぃぃぃぃーっ。あははははっ」
童心に返って実に楽しそうである。
このテンションをキープしたまま、一日を過ごすこの子はタフと言えるだろう。
「おはようございまーす」
自転車置き場にいた教師に声をかけ、施錠してその場を離れる。
学校に着く頃には時間もちょうどいい具合で、登校ラッシュでもなければ早すぎてまだ誰もいないと言ったふうでもない。
ほどよく人も集まりかけ、余鈴の十五分前というベストタイム。
いつもと同じ時刻に教室に入り、疲れた体を労るべく机に突っ伏した。
「おはよー、一ちゃん」
すると、隣の席で最近よく話をするようになった
「おはよう、千夏ちゃん」
体を起こし、この癒し系に向き直る。
千夏を見ているといつも癒される一は、彼女のことを勝手に癒し系としてポジショニングしていた。
パーマを当ててふんわりした髪を片方で緩くお団子にまとめ、どういう作りなのかそこからふにゃふにゃっと垂れている髪の束は指を通したくなる。
薄塗りだがちゃんとメイクされていて嫌味じゃない顔には、二重ラインが綺麗な涼やかな瞳と筋のとおった上品な鼻が配置されていて実に美しい。
大きいわけでも小さいわけでもない切れ長の瞳がクールさを醸し出すのに、口許はぽってりしていて可愛らしいためふんわり見える。
それに、話し方もゆっくりでおっとりしているからとても穏やかに感じるのだ。
美少女癒し系なのである。
「もう慣れた?」
見惚れてしまう笑顔に文字通りうっとりしながら、それとは対照的な凛々しさで腕組みした一がうーんと唸る。
「んー、どうやろ。通学には慣れたけど、学校もおっきいし教室の場所もイマイチやから微妙かも」
以前通っていた高校はというか、住んでいた場所が今よりうんと田舎だったので学校自体も大きい規模ではなく、今の学校の方が数段大きい。
四月の頭に転校してきてまだ二週間、移動教室の際は千夏がいなければ迷って辿り着けないこともしばしばである。
「そっかぁ。でもそうだよね、すぐには慣れないよね」
「ボチボチ頑張ります。あ、今日から部活も始めるし、より高校生活満喫できそうな気がするねん」
小さくガッツポーズをして、これから始まる新しい世界に心を踊らせた。
「あ、そうだねっ、バレー部だよね?」
「そうっ、正確にはバレー部のマネージャーなんやけど....しかもなぜか男子」
小中とバレーボールをやり、前の高校でも転校するまでバレーボール部だった一はこの高校でもバレー部にはいるつもりだった。
だが、前々から気になっていた腰痛をしかと調べて貰ったところ椎間板四番辺りがヘルニアだということが判明して、入部は叶わなかった。
とはいえ、プロを目指していたわけでもなく、楽しいからしていたという感覚だったのでとくに落ち込むこともなく、新しく部活を始めるべく部活探しにいそしんでいた。
ら、
たまたま体育で軽くやったバレーの試合を見ていたサボリ中の三年女子生徒が、放課後声をかけてきたのだ。
バレーやらない?と。
椎間板ヘルニアですがいけますか?と返したところ、酷く残念がってNGを出された。
のだが、ちょうど男子バレー部にマネがいないということでそっちを勧められたのだ。
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