第70話「次の一手」
「ブルゥゴァァァ!!」
「こっちも本気で行かせてもらうよー!」
まるで新幹線が交差する時のような速度でコウの剣とエイプの拳がぶつかり合う。
尋常ではない速度同士で交わったコウとオーバーエイプを中心に衝撃波が辺りの赤い土を巻き上げた。
「ックッソッ!!」
赤い土煙に紛れてコウがふっ飛ばされる。
オーバーエイプもこの衝突で、振り下ろした拳を後ろに弾かれてよろめいている。
あの圧倒的なコウの力でも、よろめかせるまでか・・・・
吹き飛んだコウは猫のようにしなやかに着地すると、両手に持っていた剣の一方を鞘へと収め、再び地面を蹴り出してオーバーエイプへと向かう。
二刀流のコウが一刀にしたということは・・・・
「兄ちゃん!」
「任せろ!」
呼び合うだけでコウが何を欲しているか分かる。
ただ双子だからではない。
長年の親父の修行を乗り越えてきた“戦友”だからでもある。
「
俺の声を合図に俺の周囲をスライムのように蠢めいていた銀色の液体。俺が今しがた抽出した水銀だ。その一部が飛び出す。
「ゴガァァァァァァ!」
飛び出した三発の水銀のうちの一つがオーバーエイプの目にクリーンヒットした。
「サンキュー!」
オーバーエイプは片手で目を抑えながら喚くと、空いている腕を無闇やたらに振り回し始めた。
コウはそのまま飛び上がると上手に剣を振り上げる。
硬化の魔法陣が刻まれている剣が、コウの魔力を注ぎ込まれて刀身が淡く紅色に輝く。
「最上流剣技“
コウの剣が
人の筋肉の構造上、柄物を振る際に一番力を込めることが出来るのが上からの振り下ろしである。
この剣技は最上流でも1、2を争う威力。それ故多大な隙を生むことになる挙動は、言わば“肉を切らせて骨を断つ”を体現した技だ。
それが今、オーバーエイプの頭頂へと振り下ろされ、オーバーエイプの体が地面へと叩きつけられた。
コウは着地すると、もう一刀を抜きながらすぐ様オーバーエイプとの距離を取る。
巻き上がる土煙と衝撃音で傍から見るとかなり効果があったように見える。
だが油断はできない。
案の定オーバーエイプは痛みを堪えているかのように震えながら立ち上がった。
その顔には頭から流れた紫色の血がベッタリとついている。
「グゴガァァァァァァ!!!!」
ドスドスと地団駄を踏みながら、怒りを表したような咆哮を上げてオーバーエイプが再びコウへと駆け出した。
「
頭から流れている血により、既に水銀は流されてしまったため、再び水銀を射出する。
だがオーバーエイプも先程の目潰しで俺を意識したせいか、放った三発全てが片手で防がれた。
オーバーエイプの振り出した拳がコウへと放たれる。
コウはそれをサイドステップで躱し、二刀流を同サイドに構えると、放たれたオーバーエイプの腕を拳から撫でるように振り上げた。
ごっそりとはいかないものの、その一太刀でオーバーエイプの毛が宙を舞う。
オーバーエイプは拳を戻し、反対の拳をボクシングのフックのようにつき出す。
「
コウは振り上げ直後であったため距離を取ることが出来ず、オーバーエイプの拳がコウへと迫る。
放たれた水銀が拳とコウの間に入り衝撃は緩和されたものの、コウはそのまま後ろにふっ飛ばされた。
「無事か!?」
「サンキュー!あー・・・肋骨一本持ってかれたー・・・・・」
コウは直ぐに立ち上がり、構え直す。
だが額からは出血しており、片手で腹を押えている。
「でも、何となく分かってきた。」
「すまん、なら少し頼めるか?」
「オッケー!」
コウは
オーバーエイプがコウに掴みかかろうとした所で一気に加速しオーバーエイプの股下を通ると、体を回転させながらまるで竹とんぼの様にオーバーエイプの背中を切り刻んだ。
その攻撃により、背中の毛がごっそりと剃り取られた。
少し離れた俺の位置からでも青白い毛が赤い荒野とのコントラストでしっかりと見える。
俺も考えていた事を実行に移す事にする。
「インデックス・・・・」
赤い荒野に緑の光が伝う。
コウはそのまま着地すると、今度はオーバーエイプが振り向く前に再び宙へ駆け上がった。
振り向いた先にコウがいないと見るや感が良いのか、直ぐに上へと顔を向ける。
コウはそのタイミングでオーバーエイプの顔を足場に踏み込むとオーバーエイプの顔が地面を向いた。
「貰ったぁぁぁ!!」
毛が刈り取られた背中が天を仰ぐ。
そこに向かいコウが剣を突き立てた。
「グゴガァァァァァァ!!!!」
直ぐに振り飛ばされるも剣を放したコウは、転がるようにして地面へと逃げる。
同時に緑の光が俺の元へと戻った。
「よかった。届いた!」
俺は直ぐに目次を確認すると安堵の声が漏れた。
コウの状況を見ていた俺はオーバーエイプがコウに振り向くタイミングを狙い水銀を射出する。
「
だがオーバーエイプはそのまま海老反り、水銀弾を全て避けた。
「ブルゥゴァァァ!!」
オーバーエイプの咆哮と同時にオーバーエイプの手に赤い石が握られているのが見えた。
オーバーエイプは海老反った体を元に戻しながら石を拾い、俺へと投げつけて来たのだ。
「
直ぐ様水銀を
パワーショベルの様な腕から投げられた石は、放たれた瞬間に砕けていた。
クソっ!見誤った!
ショットガンさながらの無数の小石が水銀の壁を波立たせる。
だが壁を球体にしたため足を無数の小石が通り抜けた。
立っていられず、その場に崩れてしまう。
「・・・・っ
次弾を放つ可能性を鑑みて壁の形状を板状にし、端に穴を開けて向こう側を見ると、オーバーエイプは既にコウへと向けて拳を放っていた。
コウも負傷し、オーバーエイプの攻撃を避けるので精一杯の様だ。
もう時間がないな・・・・
そう思った俺は次の一手へと進む。
頼むぞコウ。もう少しだ。
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