第69話「オーバーエイプ」
「ゴグァァァァァ!!」
怒り狂ってるかの様な雄叫びを上げながら巨大なエイプがゴリラの様に四肢を使ってこちらへと向かってくる。
思ったよりも早いな・・・・
それだけではない。これに便乗して、拳を砕いたエイプまでもが俺へと走り出した。
直ぐ様、
「
目の前にあったアリアス達を守った鉄の塊が、まるでスライムのように形状を変える。
既に純度の高い塊があるため
だがエイプの速度は思うより速く、あと数十歩程で俺へ岩石の様な拳を届かせる事が出来る距離にまで近づいていた。
この速度ならもう数秒でここまで来る・・・・
俺の体力では逃げても無駄だ。
だが俺には“これ”がある。
一本一本と出来るだけ速く、そして強く。
俺の周りには太陽の反射で煌めく無数のピアノ線を張り巡らせていた。
切れないにせよ、絡ませて巻いてしまえばどうにかなる。
コウもこちらへと走ってきていたが既に真反対の方向から来た二体のエイプが首を動かさずとも視界に一緒に捉えれる程の距離へ近づいていた。
掛かったな・・・・
ほぼ同時に二体のエイプが拳を振り上げる。
「アキラさん!!」
「最上!!」
「アキラ君!」
「兄ちゃん!!!」
アリアス達の声が耳に届いた瞬間ーーーーーー。
「ゴギャァァァァァァァァ!!」
《ブラド荒野》に響き渡ったのはエイプの叫び声だった。
「おい・・・・・マジかよ・・・・・」
コウと対峙していたエイプが、拳を砕いたエイプを殴り飛ばしてマウント体勢を取って殴り続けていた。
俺は目の前で起きている不意の状況に混乱していた。
「兄ちゃん!」
「
コウの声でふと我に返り、ピアノ線を取り払う。
「無事で良かった・・・・でもあれはどういうこと?」
「ああ・・・・俺の予想とは違うことを願うが・・・・」
すると、殴られていた方のエイプの動きが次第に鈍くなってきて、遂にはピクリとも動かなくなってしまった。
殴っていたエイプの背に隠れて、拳を砕いたエイプの顔は見えないものの、呼吸の為の体の動きすら垣間見えなくなっていた。恐らく、そこで息絶えたのだろう。
そこでようやく俺とコウは我に返り、身構える。
ターゲットが息絶えたのだ。
殴っていたエイプが次に何を仕出かすか分からない。
《ブラド荒野》に重苦しい沈黙が訪れていた。
「ゴアッ・・・・ゴアッ・・・・」
微かに聞こえるエイプの声とともに、まるでシールを剥がすかのような音が聞こえる。
次第にそれが止んでいくと、荒野で聞こえるはずのない水が滴る音が聞こえてくる。
「まさか・・・・・」
コウ達が何故同時にエイプを倒そうとしていたのか考えていた時の仮説が頭を過ぎった。
無いだろうと踏んでいた方の仮説・・・・
ゴクリと喉がなり、額から冷や汗が吹き出してきた。
ドゴッ!ドゴッ!と体を殴られた時のような低い音が鳴り始め、エイプの体の一部が歪に飛び出したりとエイプの体に変化をもたらし始めていた。
「最悪だ・・・・・」
「兄ちゃん・・・・・あれって・・・・」
「ああ、喰ってる・・・・無いと思っていたが、あれが《魔装の肉》なのかもしれん・・・・」
《魔装の肉》を研究しても、それが何の肉なのか分からなかった。
だが、ワンドの無数にある研究道具で一つだけ分かったことは《魔装の肉》には膨大な魔素が含まれていたことだ。
一匹の魔物には到底含まれていない程の魔素が《魔装の肉》に凝縮されていた。
その量は測定用の魔石を一瞬で割るほどだ。
だが魔素自体、気体なのか個体なのか液体なのかすら誰に聞いても調べても分からない。
そのため、どうやって精製しているかなんて到底解らず仕舞いでいた。
「じゃあ・・・・」
それが目の前で共食いなんてしないだろうと踏んでいた魔物が同族の肉を喰らい、その姿が変わっている。
経口摂取、膨大な魔素、そして敵よりも「強くなりたい」という意思。
状況がまるでダリルの人たちの時と重なった。
「魔人化だ・・・・・」
「え!?マジで!?」
コウの声に反応したのか、それとも変化が終わったのか・・・・
エイプが急に動きを止めた。
ゆっくりと、まるでフクロウのようにエイプの顔だけがこちらを向いた。
「・・・・・うげ、気持ち悪・・・・」
口周りから滴る紫色の液体。
そして、今むしり取ったであろう肉片を音を立てながら咀嚼していた。
振り向いた顔は先程とは違い、目が3つほど歪な形で増えている。
肌の色もピンクブラウンから鬼かのような真っ赤へと変わっている。
毛の色もクリームがかったグレーから青みの強い白へと変化していた。
石同士が擦れ合う音が聞こえ、足元を見ると俺たちは気づかぬ間にゆっくりと、後ずさっていた。
いや、ここで退いてはいけない。
逃げ出したい足をどうにか意志の力で押しとどめる。
ここで倒しきらなければキミヒサ達と対峙するエイプまでも喰らってしまうかもしれん・・・・・そうなると手が付けられない状況に陥ってしまうだろう。
俺はエイプ越しに見える森へと視線を動かす。
森には変化はない。
ならば・・・・
「コウ・・・・・やれるか?・・・・」
「これはやんなきゃヤバいよねー・・・・」
いつの間にかエイプのサイズは先程よりも膨れ上がり、下敷きになっているエイプとの差がはっきりと分かるようになっていた。
「コウ、キミヒサ達の方へ行かないようにできるか?」
その巨体がゆっくりと立ち上がる。
まるで人が乗れるようなロボットと対峙したかの様な大きさだ。
マンションの三階程の高さはあるだろう・・・・
仮にオーバーエイプとでも呼ぶべきか・・・・
「ゴガァァァァァァッ!!!!」
オーバーエイプの頬から首から体までも震わせた咆哮が辺り一帯に響き渡る。
「・・・・・・やってみないと分かんないけど、行かせたくないよねー。」
「だよなっ・・・・来るぞ。」
オーバーエイプはゴリラの疾走のように両手両足で地面を穿ちながら、こちらに向けて走り出した。
車でも落ちたかの様な地鳴りがオーバーエイプの巨体さを嫌ほど感じさせる。
「俺が引きつけるから兄ちゃんはサポート宜しくー!!」
「ああ。頼りにしている。」
そんな巨体が向かってきているにも関わらず、俺は先程よりも安心して敵を見ることができた。
恐らくコウが横にいるお陰だろう。
「行くよっ!」
コウが紅い湯気《バーシーク》を強めると一気に駆け出し、オーバーエイプへ正面から向かっていった。
俺も続いて
「インデックス・・・・・」
喰らう前より速いな・・・・先程よりも速く
こいつは倒さなければ、他の奴を喰らってより強大な“モノ”になるだろう。
そうなれば今の俺では対処の仕様がない。
化粧水の金を注ぎ込んで埋め込んだ魔石と効率化した魔法陣のお陰で魔力消費は極端に抑えられているものの、
距離があったからピアノ線を展開できたものの、正直なところ白兵戦では使い物にならないだろう。
また周辺の含有物質に頼った戦法。
まだ未完成とはいえ、周辺の物質をサーチ出来るのはいいが、その時の戦場によって含有物質が違うため、安定しない。下手すると何も出来ないかもしれん。
このままの身体能力では、接近されると自分の身すら守ることすら叶わない。反応速度、筋力、経験、どれをとっても未熟極まりない。
そんな奴が守りに入った所で状況は悪化するだけだ。
そして使った物質だってそうだ。
目の前の赤い荒野に水の様に流動させやすく、鉄の様に電流を流し、空気の中へと揮発する物質が大量にある事を何故考えなかったのか。
極めつけは相手が“生物”であることを失念していたこと。
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