第71話「大地の赤と空の茜とコウの紅」
「ゴガァァ!!」
俺が抽出を開始した途端、オーバーエイプの声と共に地面が揺れた。
何があったのかと思い、水銀の壁の端から顔を覗かせるとオーバーエイプの放ったスレッジハンマーをコウが受け止めていたのだ。
プロレスでよく見る拳を合わせて振り落とすあれだ。
計り知れない程の威力を受け止めたコウの足元は、地面がひび割れるだけでなくコウを中心に円形に陥没していた。
コウは潰れてはいないものの、苦しい表情のまま耐え忍んでいる。
「グォハッっ!」
すると急にコウの口から血が溢れだした。
コウの片膝が地面へと落ちる。
「コウ!!」
不味い!恐らく今ので折れた肋骨が内臓にダメージを与えたのかもしれない・・・・
オーバーエイプの投げた岩でズタボロになった俺の足は立っているので精一杯でコウのもとへ間に合いそうにない。
そう思った俺は直ぐに抽出を中断すると、壁になっていた水銀の一部を射出する。
「
そのままではダメージは殆ど通らないのは今までのパターンで分かっている。
だからこそ、オーバーエイプに油断が生まれるはず!
「
オーバーエイプが水銀弾を弾く寸前で膜状へと形状を変える。
これにより速度が落ち、水銀を弾こうと振り上げたオーバーエイプの片腕が空を切った。
それによりコウがスレッジハンマーから開放された。
だがオーバーエイプは拳を頭上で重ね、再び振り下ろさんとしている。
「
水銀はそのまま地面に落下する。俺は水銀を蛇の様に蛇行させながらコウの足元に入れこんだ。
そこで更に・・・・
「
コウの足元から勢いよく水銀の柱が二本飛び出し、片方がコウを押し上げる。
二股に飛び出したもう片方がオーバーエイプの顔へとへばりついた。
「ゴガァ!!??」
コウはそのまま後に飛び上がり、オーバーエイプから距離をとる。
「・・・・兄ちゃんサンキュー!」
「コウ、大丈夫か?」
「油断しただけー・・・・まだ行ける!」
コウは口から垂れる血を拭くと、こちらに笑顔を向けてきた。だが顔色が芳しくない・・・・その実かなりダメージを負っているのだろう。
「コウ、あと5分でいい!頼む!」
「オッケー!ルーイちゃんの肉球で手を打つよー!」
「交渉成立だ。」
俺とコウはサムズアップをすると再びオーバーエイプへと向き直る。
「よっしゃぁぁーー!!」
コウは勢い良く走り出した。
俺も同時に抽出を再開する。
「カテゴリー、
コウは地面を蹴り上げ、水銀を目に当てられ顔を抱えたオーバーエイプを踏み台にし、夕日に染まったオレンジ色の空へと舞い上がる。
オーバーエイプの背中に着地するのと同時に残っていた剣を背中に差し込んだ。
「ウゴォォォアア!!!」
痛みで暴れだすオーバーエイプから飛び上がるタイミングで既に刺さっていた剣を引き抜いた。
コウがオーバーエイプの背中から離れると同時に紫色の血が赤い荒野へと降り注ぐ。
ようやく視界を得たオーバーエイプがコウを視界に捉え走り出す。
青白かった毛は紫色に染まり、涎が垂れることも気にせず牙を剥きだしていた。
コウは怒りに狂った様なオーバーエイプの猛進を体格差で生み出された腕と足の間を転がるように抜けるとオーバーエイプへ向けて走り出す。
コウにすり抜けられたオーバーエイプは直ぐ様方向転換をすべく地面へ腕と足を突き出し、土煙を舞い上げる。
勢いが止まった瞬間に大地を巨大な四肢で踏み込み、コウへと再び駆け出した。
だが既にそこにはコウの姿は無い。
オーバーエイプが上を見上げようとした瞬間。
コウが空から再び“頭骨砕き”を放っていた。
「何回引っかかるんだよ!!!」
コウの剣がオーバーエイプの背中へと振り下ろされ再びオーバーエイプの背中から血が吹き出す。
よし!やった!
俺の作業も後一段階で終わる。
これで・・・・・・・
「ウゴァァァァァ!!」
だがオーバーエイプは止まることなく、体を捻りながらコウの着地した隙を狙い裏拳を放っていたのだ。
「コウ!!」
「ぐっ!!・・・・・っが!・・・・」
コウが尋常ではない勢いでふっとばされる。
ダメージを少しでも少なくしようと体を丸めた様だが、転がるたびに岩や窪み等にぶつかり、その度に声にならない声を漏らし、俺のいる場所付近でようやく止まる。
「大丈夫か!!?」
「・・・・・あー・・・・ちょい厳しい・・・・」
コウは剣を杖に無理やり起き上がりながら応えた。
服も所々破け体中に血が滲んでいる。
「直ぐにアリアスのところまで「あと一発!」・・・」
「あと一発ならいけるよ、兄ちゃん・・・・秘策・・・・あるんでしょ?」
コウの真っ直ぐな目が俺の目とかち合う。
満身創痍の状態で未だ諦めていない目だ。
何をやっているんだ俺は・・・・・
こんなになってまで時間を作ってくれたのに、これくらいの足の怪我が何だ。
「ウゴォォォアア!!」
オーバーエイプが情け容赦の無い追撃をかけるべく、こちらへ走り出した。
「兄ちゃん、生きて帰ろう。」
「当然だ!!」
コウが剣を構えるのと同時に俺はオーバーエイプへと血だらけの足から響く激痛を噛み殺し走り出した。
走るたびに足から血が噴き出すのが分かる。
「兄ちゃん!?」
コウの声など聞こえなかった。
痛い。
痛いがここでやらなければ!!
「そこだぁ!!!」
オーバーエイプの足元へクアグマイア(泥沼)を放つ。
途端、オーバーエイプの足が止まり、前のめりに倒れた。
総量の少ない魔力を一気に持って行かれた脱力感を無視し、オーバーエイプの頭へと走る。
「コウ!今だ!!」
コウは俺の作戦を既に読み取っていたのか、剣を逆手に持ち地面を蹴り出し高く舞い上がっていた。
「最上流っ・・・・・・」
「対象、
そこから懇親の力を振り絞り2つの物質を反応させる。
「頭骨砕きぃ!!!!」
「リアクション!!」
コウの剣が背中へと深く突き刺さり、痛みによりオーバーエイプが仰け反る。
絶対に外したくないし、飲んでもらわないと意味がない。ここで外したら終わりな気がする。
視界も段々と狭くなってきている。
こんな状況で
俺は意を決して仰け反ったオーバーエイプの口へと生成された塩化水銀を腕ごと突っ込む。
「喰らえぇぇ!!」
直ぐ様抜き出すも、筋肉が見えるほど牙で肉が抉れる。
「ゴガァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「もういっちょ!!」
コウが何回も切り刺さした背中へ、もう一本の剣を
深く突き立てた。
空はもう夜の闇が飲み込む前の真っ赤な色へと変わっていた。
ボロボロの血だらけだ・・・・・
俺は立っていられなくなり、そのまま仰向けに倒れた。
大地の赤と空の茜とコウの紅。
その瞬間、世界は紅く染まっていた。
オーバーエイプは地面を揺らし赤い荒野へと倒れた。
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