第60話「組織内での見栄って無意味だ。財布は同じだからね」
「ほほう。中々面白い街だな。」
そのまま公久と明日菜の所在に行くのは流石に国王に失礼になるということで、俺たちは馬車を進めてモリアナ王国の
国境トンネルから首都まで近くはなかったので、今は空も赤くなっている。
元々明日が謁見予定だったため今日は城に言伝だけをして予約している宿に泊まることになる。
「だろ!魔法陣師からするとここは聖地って言えるほど魔道具が流通してるんだぜ!」
馬車が大通りに出ると街並みはミッドエルスと似ているのだが要所要所に魔道具が使われており、より魔法に特化した街に感じれた。
ルーイのドヤ顔は置いといたとしても鼻息が荒くなるのは分かる。
日が沈み始めたタイミングで《ミリア》に入ったことで大通りの脇に規則正しく並ぶ街灯が、夕日に照らされた王城の方から外壁側の俺達に向けて波のように点灯し始めていた。
その街灯もミッドエルスとは違い、台座の上の球体が浮き上がり、ゆっくりと光を放つようになっている。
大通りに並ぶ店も看板がボヤッと光を放ち始めた。
ベラデイルやミッドエルスで感じた様な中世ヨーロッパの雰囲気とは少し違い、ここ《ミリア》は本当に魔法の世界にいるのだと感じさせてくれる。
「確かにミッドエルスよりも魔道具が多い。だがそこまで大きな国ではないと事前に聞いていたんだが、何で発展しているんだ?」
「《ミリア》には魔法大学があるでの。モリアナは国を挙げて魔道具の研究開発や新魔法開発などが盛んじゃ。それにあやかってモリアナ支部の《ワンド》は大学で教鞭をとっておる。発展しておるのはミッドエルスは古い建物の残る街じゃからじゃ。魔法推進国という事もあるが、モリアナは大戦の爪痕が大きかったんじゃ。故に作り直した建物が多いのも理由じゃろうて。」
「魔法大学・・・・実に興味深いな。是非一度研究を見てみたい。だが疑問が残る。魔道具は魔力が無ければ起動しないはずだよな?魔道具に魔力を流しているのは誰なんだ?」
「大学の学生じゃて。小遣い稼ぎが出来るからの。大学から
「モリアナの《ワンド》には接触しないのか?」
「そのうち会うことになるがモリアナの《ワンド》である二番隊は高慢な奴が多いでの。この儂にさえ『一世代前の魔法使い』と上から目線で言いよるからの。まぁ小僧なら鼻を圧し折ることは出来るじゃろうが、わざわざ腹を立てるような事せんでもええじゃろ。」
テオの説明でキャリコのあんな性格の理由が少し理解出来た気がした。エリート大学出のあるあるだな。
「そっか。《ワンド》も面倒くさいな。キャリコにでも聞くことにする。」
魔導線・・・・・たしか
だが人が魔力を送るとなると安定しないんじゃないだろうか?
間に
想いを巡らしていると、入口にベルボーイが立っているような佇まいの中々豪華な宿の前に馬車が停まった。入口は回転ドアが設けられており階層は無いものの映画で見た事のあるアメリカのホテルのようだ。
「宿に着いたぞ。儂は城に連絡を入れてくるでの。」
「ああ、宜しく頼む。」
今回はモリアナ側の《ワンド》が宿を用意してくれたらしく、テオの話からも二番隊の見栄が見て取れる。
まぁこちらとしては見栄のお陰で良い宿に泊まれるのなら有難い事だ。
俺とルーイが馬車を降りるとテオはそのまま城の方へと馬車を進めた。
すでにコウ達は馬車を降りておりチェックインのためにフロントへと向かっていた。
俺達に気付いたアリアスが笑顔を作ると両手で手招きをして、そのまま両手を広げていた。
「こっちです!こっちです!」
なんで両手なのだろう・・・・・何故両手を広げたのだろう・・・・心の奥から湧き出てくる嬉しさに恥ずかしくなってしまう。
俺は犬ではない・・・・・はずだ!!
「お疲れ様です。アキラさん、ルーイちゃん!この後テオ爺が戻ってきたら、皆さんでご飯を食べませんか?」
「兄ちゃんに聞きたいこともあるし、俺はサンセー!」
「コウ様が賛成するのであれば私も賛成しよう。」
「俺も賛成だぜ!旦那も行くよな?」
「ああそうだな。」
俺達がチェックインを済ませるのを待って、皆が割振られた部屋へと向かった後、しばらくしてテオが帰ってきたタイミングでアリアスのオススメのお店に向った。
「うふふ〜楽しみです〜」
加護は解除しているはずなのにと思ったのだが、元来アリアスは食道楽のようだ。
もちろん食べる量は減ったらしいが、美味しいものは止められないらしい。
アリアスは常に持ち歩いているカバンからアリアスメモと呼ばれるグルメ情報を書き連ねたノートを見せてくれた。
《ワンド》にいると、いろんな場所に行く事が多いらしく任務の楽しみらしい。
俺達は夕食を取りながら翌日のスケジュールについて細かく決めたのだった。
まず王城へ行き謁見。
公久と明日菜がいない事は分かっているのだが国王への謁見の予定を簡単に反故にはできない為である。
謁見は昼の鐘が鳴るまでの予定なので、俺はテオに見張られながら買い物を楽しむ予定だ。
その後、国王から二人の居場所を聞き公久と明日菜に会いに出発。
討伐を手伝い、終ればミストラルへの帰路に着く予定だ。
コウ達が聞いた話では魔物もそこまで多くはないとの事だ。ナタリー曰く俺達が行けば2日程で終わるのではないかとの事のなので、俺は皆の謁見のタイミングで野営物資を調達する手筈となった訳だ。
「楽しみだぜー!!何買おうかな?・・・・・・ニャんだと!!!!?」
ルーイは魔道具を買うのだと嬉々としていたが財布の中身を見て愕然としていた。
そういえばお金は出さないと言うことで契約していたが化粧水で懐も暖まった訳だしルーイに給料を出そう。
「ルーイ、ほら給料だ。」
「ニャ!!?ニャンと!!お金はくれない約束だったよニャ?・・・・っニャ!!!?こ、こんなにもらっていいニャか!!?」
「裸で悪いな。まぁ常にと言う訳にはいかないかも知れないが、魔道具を買って技術を磨いて還元してくれ。」
「ありがとニャ〜!アキラに付いてきて良かったニャ〜」
和気藹々と予定が決まって行く中でコウに新作の武器の事を聞かれたが、楽しみは取っておいた方がいいだろ?とはぐらかしておいた。
ずっと腰にぶら下げていたのだが、流石にこれが武器だとは分からないか。
食事が終わり宿に戻ろうと店を出ると何やら兵士達が慌てて城の方に向かって走っていく。
「何かあったのかなー?兵士だけっぽいし、まいっか〜」
一番に疑問を投げかけたのは考える事をあまりしないコウである。
「おい、そこの兵士!何があったんだ?」
コウの疑問に応えるべく、ナタリーが走ってきた兵士に声をかけた。
「南の魔物が大量発生した地点で《エイプ》の群れが現れたらしい!お前らも近くに知り合いがいるなら避難させたほうがいいぞ!」
「おい!南には討伐隊が出てるんだろ?まさかそんなにマズいのか?」
「お前聞いてたのか!?《エイプ》だぞ!いくら《波動騎士》と《幻影嬢》でも二個小隊だけでなんとかなるわけがないだろ!こっちは招集で急いでるんだ!くだらん質問をするな!」
《波動騎士》と《幻影嬢》?
公久と明日菜のことなのか?
気になって聞こうとしたが兵士は俺の質問に苛立ったようで、言うなり走っていってしまった。
「小僧、どうするんじゃ?行くのか?」
「ああ、行く。戻ったばかりで悪いが、テオは《ワンド》の馬車で王城へその旨を伝えてきてほしい。コウ、アリアス、ナタリーは出立の準備を!ルーイは俺と一緒に
「うむ。」
「オッケー!」
「はい!」
「了解した。」
「任せろだぜ!」
「さぁ、飛ばすぞ!」
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