第59話「地位や名誉はお金の後からついてくるはずだ!!多分・・・・」

「この先が国境なのか?」


「うむ、いかにも」


鬱蒼と繁った木々が街道の左右に広がっており、緩やかな上り坂となっていて先が見えない。


この街道は山と山の間の比較的標高の低い部分に設けられており、繁った木々の向こうには登るのが嫌になるような高い山が右にも左にも連なっていた。


ミストラルを出て4日。

俺たちはミストラルを出てダリル付近まで南下すると聳え立つ山々が見える東に向けて進んでいた。

街道を自作魔導二輪車ガンドーベルで駆け抜ければ早かったのだがそういう訳にもいかなかった。


現在ワンドの三人は別の馬車で俺たちの前を走っている。


そう《ワンド・・・》の三人は。


そう、俺のワンド少杖は仕上がったものの申請に間に合わなかったのだ。

俺は自らの武器の調整で手が回らなかったのだが、当日の朝にはルーイとテオ、カミラの三人でどうにか完成までこぎ着けたのだ。

だが、いざシェーバスの所まで持っていったものの申請を通す時間が残っていなかったのだった。

大口を叩いたくせに間に合わなかった訳だ。


シェーバスがせっかく間に合わないだろうからと用意してくれていたワンド少杖を無下にしてしまったため、出立の際に平謝りをする羽目になった。

コウのワンド少杖が良品であったことでルーイが意地になるのも分かる。気持ちは嬉しいのだが間に合わなければ意味がない。


仕方なくシェーバスに仕上ったワンド少杖を預けて出発しようとしたが、俺がモリアナに入るとなると《ワンド》としての入国ができない為、別口で入国しなくてはならなかったのだ。


そのため俺は《ワンド》の用意したエンブレム付の馬車に乗ることが叶わず、こうして自作魔導二輪車ガンドーベルを馬に引かせながら進んでいる。


別に俺でも動かすことは出来るのだが、魔素量が心もとない状況なので緊急時以外は馬で引くことにしたのだ。

俺とルーイで自作魔導二輪車ガンドーベルに乗りながらの旅になるかと思っていたのだが、出発時にシェーバスからまた注意嫌味を言われ、お目付け役としてテオの爺さんを付けられたのだった。


出発して直ぐにルーイが「ごめんなさい」と謝った以降、テオもルーイも「ワンド少杖が間に合わなかった」という結果に思うところがあったのだろう、無言だった。

どうなることやらと思っていたのだが、道中にルーイが自作魔導二輪車ガンドーベルの調整をしていた際に魔法について訪ねたのがきっかけでテオとの魔法議論になったのだ。

魔法を一から勉強していない俺にしてみればテオの語る常識やら理論がとてもためになったのだった。

だが同時にテオもそのように感じたようで、ここまでの道中で大分打ち解けたのだった。


俺はこの3日間でテオから基礎をみっちり聞くことができた。

まず、すべての魔法の基礎は風魔法ウインダスだそうだ。風を起こすだけの魔法だが一番使用魔力量が少ないので風魔法が使えなければ何もできないらしい。


確かに微小な原子や分子が動かせなければ何も始まらない。


風魔法・火魔法・水魔法・土魔法・光魔法(同列で闇魔法)の順に難易度が上がる。

一般的には水魔法くらいまでが使えるらしい。土魔法まで使用すれば魔法使いを名乗れるということだ。


因みに光魔法は対象を強化または回復する魔法、闇魔法はその逆で状態異常だ。

他にも色々と学んだ訳だが、お陰で有意義な旅路となった。


「小僧、そろそろじゃ」


坂を越えると馬車や大きな荷物を背負った者が山と山の間を通る石煉瓦造りのトンネルを行き交う姿が見えてきた。

トンネルの出入り口には小屋が設けられており、出てくる者を兵士が止めて検閲しているようだった。


「おい、テオ。あれでは山を越えれば国境を越えれるんじゃないのか?」


「いかにも。じゃが山を越える馬鹿はおるまい。山や森は魔物の巣窟じゃからの。この辺は新人兵士にも狩れる程度の奴しかおらんが中腹や深い所にに行けばトロールやエイプなんぞが仰山おる。それに馬車一杯の大きな商売をするとなれば必ず身分証が必要になる。山を越えて入国するとなれば犯罪者か逃亡者くらいじゃの。まぁそこまで国境越えは厳しくはないからの。あくまで所在確認に使われるくらいじゃ。」


「俺もロイのおっちゃんと通った事あるぜ!全然厳しくないから大丈夫だ!」


「ほう、そんなもんか。」


そうしていると前を走るコウたちの馬車が小屋の前で止められたのが見えた。

一人はニキビ跡の残る優しそうな男、もう一人は長髪を後ろで括った目つきの悪い男だ。

2人の兵士が馬車に寄っていくと一人が御者と話をし、もう一人が馬車の中を確認している。


検閲はすんなりと通ったようで、そのままトンネルへと進み始めた。

俺たちも続くようにトンネルの前で止められて兵士が寄ってきた。

目つきの悪い男は停車すると直ぐに荷物の確認を始めた。


「入国理由、あと身分証または名前と住んでる場所をお願いします。」


なっ!!入国理由なんて考えてなかった!

身分証がなくても入国はできると聞いていたが入国理由を聞かれるとは思わなかった・・・・

まあ適当に応えるか。


「《ワンド》三番隊テオ・ガガーランじゃ。入国理由は前の奴らの連れじゃ」


「八詩のテオ様ですか!お目にかかれて光栄です!では残りのお二人も《ワンド》の方ですか?」


「《ワンド》ではないが《ワンド》に世話になっているアキラ・モガミだ。こいつは俺の従者でルーイ・ローリー。入国理由は化粧水の材料の下見だ。」


「化粧水?・・・・・まさか貴方が魔学師様ですか!?貴族の女性がこぞって手に入れようとする化粧水の開発者の方にお会い出来るとは・・・・今日は聖女様と言い大物の方ばかりですね!」


「あ、ああ・・・・・」


「流石俺の主だな!」


「小僧はそんなに有名なのか?」


まさかここまで名が通っているとは思わなかった・・・・美に対する女性執念はすごいな・・・・


「魔学師様といえば貴族の方が血眼で探されてますよ!今じゃ一般市民にまで噂が広まっていて、肌を気にしてなかった私の嫁も一度でいいから使ってみたいと言うくらいですから!」


なに!!?守銭奴エリオットめ、シェアを拡大し過ぎたろうが。

金が入るのはいいが貴族に捕まってややこしい事になるのは避けたい。

ここは買収でもしておこうか。


「ならこれを1本やろう。その代わり俺の見た目を言いふらすなよ。」


「え!!凄く高いのにいいんですか!!?ありがとうございます!絶対言いません!!・・・・これで新しい剣を買う許可が貰えるかも!」


「おい!こっちは検閲終わったぞ!なにやってるんだ!遅いぞ!」


「すいません!どうぞお通りください!」


兵士はビシッと敬礼を向けると小屋へと駆けっていった。


トンネルはそこまで長くはなく、向こう側に光りが確認できた。中間の光が届かない所では規則的に松明が置かれ道を照らしていた。

俺たちはそのままトンネルを抜けたのだが、その先にある少し開けた場所にコウたちの馬車が停まったので、そのまま後ろに停車した。


「兄ちゃん!遅かったね〜」


俺たちの馬車が停車したのを確認したのかコウ、アリアス、ナタリーが降りてきた。

止まるほどでも無いだろうに何かあったのか?


「アキラさん!兵士さんから聞きましたか!?」


「な、何のことだ?」


アリアスが何故か真剣な表情で聞いてきた。

書庫での一件以来目を合わせるのがはずかしいのだが、どうもそんな雰囲気ではないようだ。

化粧水の事であれば面倒なだけで、どうってことはないのだが・・・・


「え?兄ちゃん聞いてないの?」


「化粧水のことか?」


「え?なにそれ?」


いや化粧水は覚えとけよ。お前の小遣いもそこから出してるんだぞ。


「どうもモリアナとベイアル帝国の国境で揉め事が起きたらしい。同時に南では魔物の大量発生がおきているとの事だ。」


ナタリーは前髪を掻き上げるように額に手を当てて溜息をはいていた。

帝国出身のナタリーからすると複雑な心境なのだろう。


「だが公久と明日菜は城にいるのだろ?なんら問題ないじゃないか。」


まぁ俺は《ワンド》という立場も無ければ貴族のような地位もないから謁見できないのだが・・・・・


いや、待てよ・・・・化粧水の魔学師と言えば王妃との謁見は可能じゃないのか?

よし!この手で行こう!これで俺も謁見に参加できるかもしれない。


「普通に考えればそうなんですが・・・・・」


「なんかさー二人共、魔物討伐の指揮を取ってるんだってさー笑えるよね〜」


「お二方とも隊長さんらしいです・・・・・」


「かなりのスピード出世のようだ。実力が伴ってのことだろう。是非手合わせ願いたいものだ。」


「じゃあとりあえず公久と明日菜に会いに南に行こうよ!」


「「はい!」」


三人が笑いながら南に行くことを決めているのを見ていると、そっと肩に手が置かれた。


「小僧、大丈夫じゃ。職や立場が無くても生きていけるでの。」


「職はある!化粧水の生産がな!金を生む立派な職業だぞ。」


「旦那・・・それでいいのかよ・・・・・」

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