第53話「先生に才能ないよって言われた子は迷わずオウム返し!」

「ダイケンジャー?何それヒーロー?てか《風の行末》ってことはエスティナちゃんの仲間だったんだよね〜?・・・・・・ああいうの止めさせてくれない?」


コウは理解したのかしていないのか、怒りを込めた少し強めの声が静寂を破った。


「そうだ。そもそも気になっていたんだが、勇者の仲間だったんだってな。説得できないのか?」


「アキラさん・・・・・」


何故かアリアスがとても悲しそうな目で俺を見つめていた。


「いいんじゃ、アリアス。・・・・簡単に言えば仲違いじゃ・・・・・奴は魔王討伐が終わったその日に姿をくらました。私も何処へ行ったのか、ずっと探し続けた・・・・じゃが、出会えたのはベイアル帝国へと魔人を引き連れての宣戦布告の時じゃった・・・・世界に望まれて魔人の王を倒した男が魔人の王となる・・・・盛大な皮肉よの・・・・」


確かに仲間だったのであろう。

だがそれは『只の勇者』であった時の話か・・・・

人間側に付いたか魔人側に付いたか。

エスティナは膝を抱えて虚空を見つめていた。


イグニスヘンリーは勇者が魔王討伐の為に集めた仲間の一人じゃ。勇者に心酔しておっての・・・・説得は・・・・無理じゃろう・・・・」


そもそも《ワンド》がエスティナの作った集団であるということは周知の事実の様だし、仮に説得が出来るほど大賢者イグニスヘンリーに信頼や影響力があるのであれば既に一度相まみえている筈か。

勇者に心酔しているのであれば尚更難しいだろう。


「無理かどうかはこの際、置いておこう。それよりも俺達は次回遭遇した際、殺されるかもしれない訳だ。イグニスヘンリーについて知っている限りの情報を出してもらおうか。」


「・・・・っな!・・・・まさかお主、イグニスヘンリーと殺り合うつもりか?!」


俺の言葉に先程まで視線を定めていなかったエスティナが目を剥いた。


「・・・・大賢者を・・・・」


「あの男、本気か?」


エスティナだけではない。《ワンド》の連中も動揺しているようだ。


「さぁな。だが、みすみす殺されるのはゴメンだ。手の内を知っていれば、・・は逃げることも出来るだろう。」


俺はそう言って《ワンド》の面々を見渡して見せた。


そう。・・はだ。

イグニスヘンリーが戦意を喪失するか寝返らない限り、いつか誰かが戦わねばならない時が来る。


俺達だけではない、今ここにいる者たちには生き残る為にも必要な情報だ。


「ふんっ・・・・・そうじゃの・・・・後でシェーバスを向かわせる。シェーバス、資料の纏めが終わり次第皆に配るのじゃ。他に質問はあるかコウ、アキラ。」


「ある・・・・まずコウの紅い湯気クリムゾンオーラの事、そして魔素に関する事も徹底的に知りたい。」


この際だから必要な情報を全て聞いておこうか。

俺の研究課題である魔素に関しては必須として、以前からずっと気になっていたコウの紅い湯気クリムゾンオーラについても果たして良い事なのか、それともコウにとって不利なものなのかを確認しておきたかった。


紅い湯気クリムゾンオーラ?なんじゃそれは?」


「これこれー!」


コウはそう言うとドンという音が発されたかと思うと紅い湯気クリムゾンオーラを発し始めた。


「おい、いつの間に自由に使えるようになったんだ?」


「んーベラデイルで特訓中に自由に使えるようになったよ!オークキングにも使ってたじゃん!」


一体どんな訓練をしていたんだ・・・・

親父との修行を思い出してしまった・・・・

どこぞの錬金術の師匠のように無人島で大人2人に追い回される修行や飛んでくるドリアンを果汁がかからないように切り続ける苦行・・・・

あんなこと子供にさせるべきじゃない。二度とゴメンだ!


「おお!それは《バーシーク》と言うんじゃ。使いこなせば身体能力が魔人を遥かに超える!それを使えるのは私の知っておる限り、お主と勇者だけじゃ!勇者のは緑色じゃったがな!お前を召喚して正解じゃった!!流石じゃコウ!!」


「え!マジ!やったぜー!」


ほほう。これが世に言う『チート』というやつだな。

今更驚きはしないが、これが『格差』と言うものか・・・・

俺は天井を仰ぎ現実を受け止める事しかできない。


「ねーねーエスティナ様!兄ちゃんには《バーシーク》のようなものはないの?」


俺にも何かあるのであれば、この先少しは有利に動けるかもしれない。

俺は一縷の望みをかけて耳を傾けた。


「多分無いぞ。私は強い力がお主達のいたあの場所に集まるのをずっと待っておったのじゃ。特別な力を持っている者なんぞ、こちらの世界でも稀、寧ろ少ないのじゃ。それに・・・・・そもそもアキラは・・・・呼んでおらんからな。」


そうだよな。


「落ち込むでないアキラ!仕方なかろう!諦めろ!その代わり《ワンド》所蔵の書庫を自由に使うが良い!魔素については私も一概には言えんしの!ハッハッハッハッハッハ!」


「ならついでに研究できそうな広めの部屋を貸してくれ。出来れば立ち入り禁止で。」


「良いぞ良いぞ!!好きに使え!!ハッハッハハッハッハ!」


エスティナはコウの紅い湯気クリムゾンオーラもとい《バーシーク》を見てご機嫌になったらしく椅子のに立つと俺に指を指しながら笑っている。


テンションのアップダウンについて行けない・・・・


だが魔装の肉の研究の為の場所と資料は揃いそうだ。

ルーイもいる事だし、ついでにこの魔素総量も少ない無能なワガママボディのために身を守るための武器でも作成しようか・・・・


「そうじゃ!お主らの仲間の2人は今、ミストラル南西の《モリアナ王国》におる。そういえばアキラ。何の力かは分からんが、召喚した残りの2人も何か特別な力を持っておるぞ!路銀は出すでの、一段落したら向かってくれぬかの?」


「マジで!!兄ちゃん!準備できたらすぐ行こう!!」


はいはい。


俺だけ無能だと言うことだな・・・・


「大丈夫です!アキラさんには私がついています!!」


アリアスの励ましで余計に心を抉られてしまった。

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