第49話「何も言わない善意こそが本当の優しさだと思う」

すぐ用意したとは思えないほどの料理が俺達の前に次々と並べられて行く。


彩りも綺麗に整えられた見た目にも美味しそうなものばかりだ。


メイド達の手際はとても良く、すぐに用意を終わらせた。


「いただきまーす!!」


アリアスの声を皮切りに各々が食事を始めた。

大皿から取り分ける形で出されたため毒などの心配も無い。

味方を巻き込むつもりが無ければだが・・・・


俺は用心してメイドが取り分けるのを止めて、自ら俺、コウ、ルーイの分を取り分けて食事を始めた。

まぁ気休め程度の抗いではあるが・・・・


大きな食卓は20人程座れるようになっていて、一番奥から《ワンド》の面々が片側に7人、もう片側に4人、合計10人が座っている。


俺たちは《ワンド》が4人奥から座っている片側にアリアス、ナタリー、コウ、俺、ルーイの順で座ることになった。


「旦那・・・・首都ってスゲーな・・・・」


因みにルーイはミッドエルスに到着してからというもの、ずっとガチガチに緊張していて俺の側を離れない。

いかんせん車酔い?で寝込んでいたので戦いを見ることは無かった。そのため戦闘についてのコメントは無い。

だが首都に入ってからというもの全てに驚きと憧れの篭った言葉を呟いていた。


俺の席の向いには、先程のテオとかいう爺さんが座っている。

先程からチラチラと見てくるせいで若干、居心地が悪い。

全く、何なんだ・・・・


「やっはり、はへなへたおはんがおいひーれすね!」


「副隊長ー口の中がなくなってから喋ったらどうだ?」


アリアスの頬張りに皆の笑いが溢れると顔を赤くして俯いていた。


「すいません、頬張りすぎました・・・・食べ慣れたご飯は美味しいですと言いたかったんです!」


そうか。アリアスは基本ここを拠点にしているのだものな。食べ慣れているのだろう。

だが、確かに料理が美味しい。

こちらの世界に来て外食生活ばかりの俺からしても、ここの料理はその辺の店より旨い。

取皿に乗せた料理を再び口に運び舌鼓を打っていた。


テーブルマナーに問題はなく、《ワンド》の連中も好き勝手に食べていた。

中にはマナーに忠実な者もいたようだが、周りが雑な事に対して何とも思ってないようだ。

恐らく烏合の衆である《ワンド》だからこそ諦めたのかもしれないな。

俺たちもそのお陰で気にする事なく食べ終える事が出来た。


「兄ちゃん、これ旨かったね!」


「ああ、中々のものだった。」


《ワンド》の連中も食べ終わったらしく、各々で話し始めていた。


「流石『異界の戦士』だったな!あの剣技を俺たちにも教えてくれないかの?」


「コウ様!私も教えて頂けませんか?」


「いいよー!こうやって、こうやって、こう!」


コウはハルズマン達に話しかけられて剣技指南を始めていた。

だが具体的説明は一切なく、ハルズマンたちは苦笑いで指南を受けていた。

ナタリーはコウの指南に慣れているのか、動きをトレースしている。


すると向いのテオも食事が終わったようで食器を置き、俺を一瞥するとアリアスに喋りかけた。


「甲斐甲斐しいの〜アリアス嬢。そろそろ、その坊主への加護を止めてもいいのじゃないのか?」


「て、テオ爺!!」


加護?

魔女の加護の事か?

ではコウに掛かっていた加護は時の魔女の加護ではなく、アリアスの加護だったのか・・・・


「目的地であるここに到着したのじゃ。そのアキラとかいう坊主への加護はいるまい。嬢が無理して太るとこは見たくは無いのでの。」


「え?加護って兄ちゃんに付いてたの!?」


なに?!俺?

加護が付いていたのはコウではないのか?

俺は驚きアリアスに視線を向けて真意を促した。

だがアリアスは真意を語ろうとはせず、苦笑いをしながら頬を掻くだけ。


それを見たテオは深い溜息をつくと、俺に目線を向けて話を続けた。


「二刀流の坊主、お前にはエスティナの加護がしっかりついておる。それとは別の加護じゃ。旅の途中嬢の腹の減り具合が酷くはなかったか?加護には多大な魔力を使う。嬢は加護のせいで腹を空かせておったんだ。」


確かにアリアスは事あるごとに腹を空かせていた。

だが、俺にコウの様な特殊な効果など無かったように思える。

俺が額に指を当てながら悩んでいるとテオが溜息を吐き話を続けた。


「坊主、分からんようだから教えてやるが、お主が自分の物だと考えておる魔素量の3分の1は嬢の加護のお陰じゃ。嬢はお主の魔素量を増やすために腹を空かせておる。嬢も嬢じゃ、魔力が多いからと簡単に加護をかけるもんではない。よりにもよって嬢が使える最大の加護なんぞ与えては事があった時に危ういでの。」


何・・・・・だと!?


俺は驚愕と共に申し訳ない気持ちが一気に膨れ上がった。


「アリアス、いつからだ?」


「す、すいません。ハステル卿との戦いの際からです・・・・あの戦いはお二人に託す他ありませんでした・・・・アキラさんの魔素量がどれくらいあるか判断がつかず、それでも思う存分にアキラさんの考えていた魔法を使ってもらいたくて・・・・黙っていてすいません!」


アリアスが席を立ち俺に頭を下げた。


俺は何回この子に頭を下げさせるのだろう・・・・


あの日からずっと俺に加護を与え続けてくれていたこの子に頭を下げさせるべきでは無い・・・・

魔素量の最大値を把握していない事もあるが、アリアスを食いしん坊だなんて考えていた自分自身の鈍感さに腹が立ってくる。

どれだけこの子は俺を助けてくれていたのだろうか・・・・


もしも加護が無ければ、ダリルの一件でもっと早くに魔素が切れていた。

そうなれば俺はあの場で倒れるしかなく、最悪の結果が待っていたかもしれない・・・・


「アリアス、俺は怒ってない。寧ろアリアスの優しさに感謝している。アリアスの加護がなければ、思うように戦えてなかったかもしれない。助かった、本当にありがとう。」


「そ、そんな!!こちらが無理にこの世界にお呼びしたのです!それくらい、どうってことありません!!・・・・本当に怒ってないですか?」


アリアスはアワアワと手を振った。


「怒るわけがない。今までありがとう。加護を解いてくれ。」


「少し寂しいですが、わかりました。では・・・・」


「お取り込み中のところ失礼いたします。皆様、エスティナ様の準備が整いました。大広間へ起こしください。」


何の気配もなく突然後から声が聞こえ、振り向くとシェーバスがそこに立っていた。

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