第48話「出来すぎた子供は引くよね?いや、子沢山て意味じゃないからね!」
「「おおー!」」
俺とコウは流石首都といえる町並みに《ガンドーベル》に乗りながら感嘆の声を漏らした。
俺達はアリアスの空腹を救うべく・・・・いや、魔女に会うべく《ワンド》達と一緒にミストラル王国首都「ミッドエルス」へと入っていた。
遠目から見ても高かった城壁が街全体を囲っており、平原に佇む存在感は異質と思えるほどだった。
俺達が門を通る頃には日は完全に登っており、行商や旅人、武具を装備した傭兵などが行き交っていた。
門の付近では、ミッドエルスに入れなかった行商などが検閲を待つ者たちに向けて露店を開いており、活気に満ち溢れていた。
アリアスに聞いたところミッドエルスに持ち込めなかった珍しいものがゴロゴロとあるらしい。その代わり詐欺も多いのだとか・・・・だが薬や魔装の肉の研究に使えそうな物もありそうなので落ち着いたら買物に行く予定だ。
検閲では馬のいない荷車である《ガンドーベル》に驚いていた兵士も《ワンド》同行ということもあり、声をかけるだけで入ることができた。
ルーイが兵士にドヤ顔をしていたのは言うまでもない。
だが、このことにより《ワンド》がミッドエルスにおいて、ある程度の力を有しているというのが分かる。
そして門を潜ると広がっていたのはベラデイルとは比べものにならないほどの街だった。
門の中の建物は屋根の色や使われているレンガが統一されており、さながらフィレンツェのようである。
まぁ行ったことはないのだが・・・・
またベラデイルでは石畳だったことに比べ、ミッドエルスでは赤茶色の均一なレンガで舗装されている。
そのため先ほどから揺れが少ない。
道には規則正しく街灯であろう物も並んでいた。
また建物の柱や壁には彫刻が所々に施されている。
さらに屋根の色が統一され、全ての建物が一つの絵画を作り出しているようだ。
そして門から一番奥に見える王城。
青白い石造りの塔に挟まれた純白の城がこの街の中でも特別存在感を醸し出している。
俺とコウはミッドエルスの景観に思わず声を上げてしまったのだった。
「アキラさーーん!コウさーん!ミッドエルスはどうですか?」
未だ走行中なのにアリアスが座席の横から顔を出して手を振っていた。
「綺麗な街だな!」
「ちょーキレー!レンガとかがキラキラしてる!」
俺達の感想に満足したのか満面の笑みで座席に戻っていった。
街に入ってから速度が出せずに街の人達の好機の目にされされていた《ガンドーベル》だったが、アリアスが顔を出した後は少し落ち着いたようだ。
恐らく《ワンド》は異質な物を持ってくる事が多いのだろう。
後から聞いた話だが、レンガの中に近くの鉱脈で大量に採れる鏡の様な小さな小石が練り込まれているそうだ。
それにより夜でも他の街より明るくなるらしい。
アリアスに興味深いと言うと少しもらうことが出来た。
言ってみるもんだな。
しばらく進むと街の様相がガラリと変わったのが分った。
言葉にすれば「無骨」と言っていいだろう。
屋根やレンガは同じなのだが装飾などがなく、金属のぶつかる音が色んなところから響いていた。
何やらこの辺りは武器屋や兵士の住居が多いようだ。
過ぎゆく建物の奥に武器がズラリと並べられていたり、同じ鎧を着た者達が行き交っている。
すると、前を走っていた《ワンド》の馬車が大きな屋敷の前で止まった。
ガタガタと音を立てながら《ワンド》の連中が降りてきた。
同時に後ろのアリアスとナタリーも荷台を降りる。
ここが目的地か。
「ようこそ《ワンド》へ!」
アリアスが屋敷の門の前で両手を広げてドヤ顔をかましていた。
「ハッハッハ!隊長の真似か!こりゃ告げ口しとかねーとな!」
それを見たハルズマンが笑いながらアリアスの頭を撫でると、門の中へ入っていった。
「あ、ちょっと!告げ口はやめてください!」
ハルズマンを捕まえるも止めることはできず、アリアスは引きづられながら門を潜っていった。
どういう関係なのか全く分からん。
アリアスの方が立場が上だよな?
少しほっこりした。
今度俺もアリアスをおちょくろう。
あの反応はまた見たい。
「さぁコウ様もアキラ殿も中へ。」
ナタリーが何時もの事のようにアリアスとハルズマンのやり取りをスルーして中へ案内してくれた。
屋敷は広く、門を潜った先に大きな庭園と広場があった。
広場には訓練用と思われる焼け焦げた的や切り傷だらけの木の人形などか置かれていた。
道中、ふと屋敷の窓に目が行くとカーテンがサッと閉められた。
あれが魔女なのか?それとも隊長?
そんな事を考えていると屋敷の扉に到着した。
入り口にメイド服のような物を着たアリアスくらいの歳の女の子四人と、燕尾服を着た小学生くらいの少年が立っていた。
「先ずは食事だな。空腹では話し合いも険悪になりやすい。」
ナタリーがそう言うと入り口にいた少年に声をかけて何かを言うと戻ってきて案内を続けた。
俺が喧嘩を売るとでも思っているのだろう。
売るかもしれないな。
中に入ると、そのまま大きなテーブルのある部屋に通された。
「兄ちゃん、マジでファンタジーだな。」
コウは部屋の装飾を見て声を漏らした。
俺はファンタジーではなく中世ヨーロッパだと思うぞ。
どこぞの魔法少年映画の様に何も浮いたり動いたりしてはいない。
既にアリアスやハルズマン達が席について談笑していた。
話題は俺達との旅路だ。
俺とコウが席に着くと直ぐに部屋の扉が開き、先程入り口にいた燕尾服の少年が入ってきた。
「皆様、大変お疲れ様でした。先ずは空腹を満たしていただければと思います。エスティナ様へのご報告はその後で。『異界の戦士』様のお口に合うかは分かりませんが、お食事をご用意させていただきました。何分、準備不足でありましたので粗相がありましたらお許しください。」
「何だこのクソ真面目少年は?」
「申し遅れました。私は時の魔女エスティナ様の執事をさせて頂いております《シェーバス》と申します。何かありましたらお申し付けください。」
少年は深々と頭をさげるとメイド達に料理を運ばせ始めた。
後でコウにシェーバスの爪の垢を飲ませるか・・・・・
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