第42話「2人の男、疾走す。」
月明かりに照らされてはいるものの、戦いの爪痕の無い平原の端は夜の闇に飲まれていた。
遠見の魔眼を最大限に発動したリオは、一見何も無いように見える闇に包まれた平原を凝視していた。
平原の中央のオークキングまでもが、群れを集めて闇の先の一点を見ていた。
誰も言葉を発することがない。
オークパーティーの息遣いすら聞こえてはこない。
正に異様な雰囲気である。
その様子にフィルやハルズマンは、少なくともオークパーティーの味方ではないと言うことは感じていたが、闇の奥から尋常ではない速度で近づいて来ているという“それ”は、味方かどうかの判断を下すことが出来ずにいた。
撃てども倒れない事により遠距離法撃をやめた他のワンドの面々も姿が現れるのを息を呑んで見ていた。
「ブゴァァァァァァァァァァァ!!!」
「っな!!」
最初に静寂を破ったのはオークキングである。
男達は地震とも取れる雄叫びに武器を構えるも、オークキングの目線は未だ平原の端を捉えていた。
雄叫びに呼応してオークパーティーも雄叫びをあげ、オークキングを“それ”から守るように武器を構えた。
「き、来ました!!!!」
リオの声に反応し、男達は一斉に闇を捉える。
「・・・・・な・・・・なんだぁ!!!???」
ハルズマンの驚愕の叫びが響き渡ると同時に、その場にいた全ての者たちが“それ”を視界に収めていた。
「・・・・・馬車・・・・・なのか?」
「・・・・・何という速度なんだ・・・・」
「馬がいない・・・・のか?・・・・」
漏れ出す声は、戦場に来るであろう移動物への違和感。
向ってくる“それ”は後方に土煙をあげ、馬車のものではない速度で向ってきていた。
「・・・・・・人が乗ってます!!2人!!」
先程まで麦粒ほどの大きさだったものが既に色が分かるほどに迫っていた。
唯一の遠見の魔眼保持者のリオの言葉に、魔物や魔人の類ではないと分かり多少の安堵感が男達の胸に生まれるも、その異様さにワンドの面々は武器を握る手を緩めてはいなかった。
「と、止まります!!」
リオの声が響き渡ると同時に“それ”の速度が落ちていくと、“それ”はオークパーティーの群れと男達から少し離れた所で完全に停止した。
2人は何やら話すと2人共“それ”から降り、牽引されている荷馬車へと向うと、中を確認した後、頭を抱えていた。
「何だありゃ?緊迫感なさすぎだろ・・・・・」
ハルズマンがボソリと呟くと顔を横に振り、我に帰った。
「いかん!あいつら殺られるぞ!!」
「ブゴァァァァァァァァァァァ!!!」
ハルズマンが気づいた瞬間、オークキングの雄叫びに合わせ、先程フィルとハルズマンを吹き飛ばしてきたヒュージオークたちが動き出した。
明らかに2人の男めがけて走り出している。
「どこの誰か知らないが自業自得です!構うと布陣が崩れますよ?ある意味いい囮となるでしょう。ここは退きましょうハルズマン!」
如何にも質の悪い貴族というキャリコの物言いにハルズマンとフィルの顔が引き攣った。ハルズマンは直ぐ様怒りの表情へと変わる。
「ハルズマン、やっぱり馬鹿だ。」
「腰抜けが!!目の前の奴が守れないで何が《ワンド》だ!!退きたいなら退け!俺だけで行く!!」
「ですがハルズマン!フィルですら倒せないヒュージオークを何とかできるとは思えません・・・・」
「五月蝿い!やっぱりお前は馬鹿だ!フィル!行けるか?!」
「ああ、逃がすくらいは出来るだろう。」
フィルはハルズマンの問に頷くとアイコンタクトを交わし、走り出した。
(たどり着きさえすれば、一撃は受けれる!何とか間に合ってくれ!!)
「こっちだ!豚野郎!!!」
フィルの罵声が響き渡るもヒュージオークはハルズマンとフィルを無視して走り続けていた。
(くそ!!間に合わない!!!)
フィルは間に合わないと悟ったが、このまま見過ごす訳にはいかないと速度を落とすことはしなかった。
先程のフィルの罵声により2人の男もヒュージオークに気がついたようで片方が腰に下がっていた二本の剣を構えた。
「馬鹿ぁ!!あんな細い剣で二刀流なんてしたら受けきれんぞ!!」
ハルズマンとフィルが間に入れるまであと十数歩の所で二刀流の男に変化が起きた。
紅い湯気のようなものが男から上がりはじめたのだ。
「魔法剣か!?」
ハルズマンもそれを捉えたらしく、フィルの後から声を上げていた。
フィルとハルズマンの全力疾走も虚しく、ヒュージオークの斧が男に向って放たれる。
「クソぉぉぉぉ!!!」
フィルとハルズマンはその場で走る事をやめてしまった。
別に諦めた訳ではない。
二刀流の男が殺られたとしても、もう一人は助ける事が出来るかもしれない。
そんな危惧や焦りを一瞬で吹き飛ばしてしまう光景がそこで起きたからだ。
二刀流の男が4体のヒュージオークを斧ごと切り裂いていた。
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