第39話「三人寄れば文殊の知恵だと言うけれど指揮系統は一つがいいね」

ミストラル王国首都ミッドエルス西側ーーーーーー


平原のど真ん中に固まった50体程の異様な群れがあった。

首都を一周囲う壁を背にした十数名の同一の鎧を纏った集団が様子を伺うように突進よけの柵を前にし大盾を構えて規則正しく一列に並んでいた。


その後ろで守られるように集まっているのは統一感のまるでない男たち。

何かを描いた地面を囲み、座り込んで話している。


「ここまで開けた場所で50体ものオークパーティー・・・・・・やっぱり物量的に厳しいな・・・・隊長が動ければぁ・・・・・いや、待てよ・・・・ここに油を撒いて・・・・いや、それとも穴を掘るか・・・・・」


20代前半頃の体躯の良い黒髪の男は整えられていない髭を日々の鍛錬を感じ取れる大きな分厚い手で撫でながら、ぶつくさと呟いていた。


大盾を構える者達とは違い、彼の纏う鎧は薄い。

革の鎧が申し訳程度に胸と腰を守っている。その下は驚く事に素肌だ。

決して安心出来るとは思えない装備の上に茶色の毛足の長い毛皮のベスト。

傍から見れば山賊にしか見えない。


「ハルズマン!ここは隊を3つに別けて挟むのが上策!はい!完璧っ!」


「うーむ、キャリコの案も捨てがたいなぁ・・・・だがここは落とし穴に落して・・・・・」


山賊の様な男に話しかけたのは、山賊と関わりのまるで無いような印象を与える品の良さそうな男だ。

綺麗な装飾が施された紺のロングジャケットを白のドレスシャツに羽織っている。貴族と言ったほうがしっくりくる。

キャリコは地面に描いた円の周りに3つの石を囲む様に置くと、誰もが気分を悪くしそうな、この上ないドヤ顔をカマしていた。


「よ、4日間もあのままっておかしいと思うんです・・・・ぼ、僕はこのまま動きが無ければそのままでいいかと・・・・・」


「リオ!お前は非戦闘員だろうが。末席は黙っとれい!」


「ひっ!テオ爺ごめんなさい!」


リオと呼ばれた気弱そうな少年は鎧すら纏っておらず、その辺の店で直ぐに買えるようなベージュのシャツに茶色のベストを着ていた、リオは横にいた髭も髪も抜け落ちたようなツルツルの顔で骨と皮しか無いような正にヨボヨボと言ってもいい高齢者に叱咤を受けて小さくなっていた。


そんな統一感のない男たちだが、ただひとつだけ揃って身につけている物があった。


少杖ワンド

余程己の魔法に自身のある者でない限り魔法使いなら使うことになる樹木でできた魔力を増幅させたりする道具だ。


一人は腰に短いものを、一人は長いものを座した側へ、一人は飾りほど小さな物をキーホルダーの様に腰にぶら下げている。


各々どれも大きさは違えど全て同じ形、同じ色のワンドを携えていた。限りなく白に近い樹木、先をパチンコの様に二股にしたようなY字のワンドは統一感のない男たちの中で異様なほど存在感を醸し出している。


この男達こそ時の魔女エスティナ率いる対魔人抑止国家中立集団ワンド。ミストラル王国担当三番隊である。


意見が入り乱れる中、山賊の様な風貌の男ハルズマンは、1人集団から離れた男に体を向けると胡座をかいた足の上で頬杖をつき、話しかけた。


「確かに現れて4日間あのままってのはなぁ・・・・ウィルはどう思う?」


ハルズマンが話しかけたと同時に男たちの目線が一点に集まった。


「別に何でもいい・・・・・・・・」


一見、使い古された様に見える男の鎧には傷一つついていない。腰にはおまけ程度にワンドが携えられていた。

急所のみにプレートメイルを使用し、下には鎖帷子を着込んだ防御と動きやすさの両方をバランス良く組み込んである鎧。

ナイフで切ったような残切りの茶髪を首まで伸ばしたウィルと呼ばれた男はハルズマンの問いが面倒くさかったのか、気の抜けた声で答えた。


「まあそう言うな。今はアリアス副隊長もナタリーも極秘任務でいないんだ。ナタリーのいない今、近接の実力で言えば、お前がテッペンだ。同時に無くてはならない前衛の要でもある。元帝国士官の意見を聞かせてはくれないか?」


ウィルと呼ばれた男はハルズマンを一瞥すると、そっぽを向いて寝転んでしまった。


「若いものは礼儀がなっとらん!その根性、一度叩き直してやるわ!!!」


テオ爺がウィルの態度に憤慨しツルツルの頭に血管を浮き立たせて立ち上がった刹那、ウィルから声が発せられた。


「まず、前提として兵の数が足りない。それだけじゃない。リオの報告が確かなら、アレはゴブリンファイターだ。ヒュージオークまでいやがる。この人数でまともにぶつかったら、必ず怪我人がでるぞ。4日間動かなかったのが御の字だ。」


発せられたまともな意見に、たたらを踏んだテオ爺は鼻を鳴らしてその場に座り直した。


「ならどうする?陽炎のウィル。」


「目的は恐らく足止め・・・・・俺なら、もう待たない。夜明けに朝日を背に奇襲する。後衛のオッサン達の半分は合図と共に放てる最大限の火系魔法を。ツインキャストの放てる残りの半分はクアグマイア(泥沼)をオークパーティーと前衛の間に放っておく。足止めを受けて火系魔法で多少数が減る。クアグマイア(泥沼)を抜けた敵が突っ込んで来たところを俺やハルズマン前衛組が正面から各個撃破。これが俺が考えるだけの案だ。」


男たち間を暫くの沈黙が通り過ぎる。


「よし!決行は明朝!リオは監視を怠るなよ!他は大盾の兵士に伝令!時間まで交代で休憩を取らせろ!その後、細かい配置を決める!さぁ!一発で終わらせてエスティナ様の朝飯を作りに帰るぞ!!」


「「「おおーーーー!!」」」

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