第38話「生きてる限りバタフライエフェクト。」
沈黙の荷台の中、出発の合図に合わせて車輪が地面を掴む音だけが響いていた。
コウが敷いてくれた毛布が衝撃を吸収してくれているのか、それとも慣れたのか、《キグナル》までの道の様な叫び声は聞こえなくなっていた。
ここからはミッドエルスまで直行だ・・・・
手紙に何が書いてあったかはわからない・・・・
俺は手紙を渡したあの時のルーイ顔を思い出し、この旅に誘ったことを少し後悔し始めていた。
本人が望んだとは言え保護者から引き離してしまって良かったのだろうか。
本当は自棄になって付いてきただけでロイさんのところに居たかったのではないのだろうか。
そんな思いが頭の中をグルグルと巡っていた。
すると急に荷台が大きく揺れ荷台が浮き上がった。
「ごめーん!窪地を通っちゃった!大丈夫!?」
コウが心配して荷台に声をかけた。
俺はルーイの声が聞こえないものかと耳を澄ましていたが返ってきたのはアリアスの声だけだった。
「はーい!大丈夫でーす!!」
ダメだ!こんな精神状態ではこの後に差し支える!
それにルーイが降りると言うのであれば戦いが始まる前でなければならない。
「コウ!ちょっと止めてくれ!」
「え?トイレ!?それともルーイちゃんかな?」
「ルーイだ!頼む!止めてくれないか!」
「おっけー!」
《ガンドーベル》から見る景色が徐々に遅くなり、街道の脇に停車した。
辺りには誰もおらず、遠くの方でキャラバンが二組ほどいるだけだ。
俺はすぐさまサイドカーを降りると荷台へ向かい、ドアをゆっくりと開けた。
「何かあったのですかアキラさん?」
「ルーイだ・・・・ちょっと歩かないか?」
「・・・・・旦那?・・・・お、おう・・・・」
アリアスとナタリーに挟まれて俯いているルーイに声をかけると二人で街道から少し離れた場所にある大きめの木の下まで歩き出した。
「ルーイ・・・・さっきの手紙なんだが・・・・」
「俺さ・・・・・・」
「・・・・・・」
俺が全てを聞く前にルーイが喋り始めてしまい、なんと返せばいいのか分からなくなってしまった。
俺は無言でただルーイの横を歩むだけになっていた。
「最初は自棄だったんだ・・・・」
「・・・・・・」
「でもさ、旦那のアイディアが俺の手で形になっていくに連れてさ・・・・・自棄とかそんな感情は吹っ飛んでたんだ・・・・・・試行錯誤が楽しくて、ワクワクして・・・・・」
「・・・・・・・」
「でもさ・・・・オッサンのことも大事だったんだ・・・・・・」
ルーイの言葉が胸に刺さった。
自分の胸から聞こえる鼓動が耳まで届いてくるほど膨れ上がり、額が急に冷たくなった。
自分のしたことがルーイにとってはとても迷惑なことだったのかもしれない。
「すまない・・・・俺は自分のわがままでお前を連れてきてしまった・・・・今なら危なくないルートで・・・・・」
「ちょっと待った!!」
ルーイが俺の言葉を遮り、俺の正面に仁王立ちで立ちふさがった。
「違うんだ旦那!旦那達といるとスゲー楽しいんだよ!旦那の突拍子もない行動や、アリアスの笑い声や、ナタリーとコウのやり取りとか・・・・でも手紙を読んで思ったんだ。楽しいだけじゃ俺、何にも成長しないんじゃねーかって・・・・・だからロイのオッサンのためにも、俺は・・・・いつか・・・・・いつか絶対に、旦那を唸らせるような大発明するよ。・・・・それでロイのオッサンにスゲェって言わせてやるんだ!それが俺とロイのオッサンの約束だ!だからさ・・・・・」
差し出された右手に自らの右手を重ねると、頭の中にあった重くのしかかった後悔がゆっくりと霞んでいくのを感じた。
「これからも宜しく!!」
「・・・・・ああ!楽しみにしておく!」
笑顔に戻ったルーイを見て、俺は彼女を旅へと連れ出した事、それによってもたらしてしまった彼女の転機を作ってしまった事を深く噛み締めた。
大切な人と別れて寂しい筈なのに、成りたい自分を定めたルーイが自分より大人の様に感じれた。
自らが与えた他人への影響の大きさ。
ルーイやロイさんに与えてしまった転機。
責任の大きさを感じた俺は、ルーイをロイさんから預かったと認識しなした。ルーイは絶対に守らないといけないと改めて心に刻みつつ、笑顔で待つ皆の元へ二人で踵を返した。
急ぐ車輪の揺れの中、再び走り出した車上から空が赤から黒になるまで他愛もない話しをしているのが荷台から聞こえていた。
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