第37話閑話「ロイからの手紙」

見送ってやらなくてすまん。

あの別れ方じゃあ、どうにも恥ずかしくってできねー。


この手紙も柄じゃねぇが、あのまま離れると伝えれねーことがあるから筆を取ることにした。


実はお前が俺の元で働き始めたころから、お前はここから出ていく奴なんだろうと思ってたんだ。


俺が大戦の生き残りってのは知ってんだろ?

俺は大戦前にケンバン族のザナルの村にいたんだ。

職業柄、他の村との交流もあってな、実は俺はお前の父親の事知ってんだ。


お前の親父は黒い毛並みのキネマ族で黄金のような黄色い目の優しい男だったよ。

そいつは若い頃に無断で旅に出てたらしくてな。旅先で出会った女と結婚するからと村に戻ったと言っていた。


結婚の準備で金がいるからと、旅の途中で手に入れた魔道具を売りにきてな。

その魔道具を何処で手に入れたとか嬉しそうに語ってた。

その後もちょくちょく来ては、売ったり買ったりしていたよ。その度に魔道具の話で暗くなるまで盛り上がって嫁に怒られてたらしい。


ある日な、そいつが持ってる魔道具を全部売りに来た時があったんだ。

流石に量が多かったんでな、不思議に思って聞いてみたら子供が出来たと喜んでた。


堅っ苦しいケンバン族に自分の事を話すキネマ族なんて珍しくてな、その喜び様がすげー微笑ましくて印象に残ってたんだよ。

聞いちゃないのに子供の名前を教えてきてよ、自分の《ルーニー》と嫁の《ラライ》から文字を取った《ルーイ》だって惚気けてたわ。


大戦の後、ベラデイルに流れ着いて何年かした後、店の前で腹減らして倒れていたお前の名前を聞いて驚いたよ。

親父と同じ黄金のような黄色い目のキネマ族、持っていた魚をやった時の面影のある笑顔を見た時、俺はお前を育てることに決めたんだ。


今まで言わなくてすまん。

親の記憶が無いやつに話してやるのは酷だと思ったんだ。無いものの話を聞いてもピンと来ねぇなんて親も子も辛れぇー

お前が親について悩んでなかったのが幸いだった。


でもお前が旅に出るなら別だ。

自分が何処の誰で、誰の子か知らなきゃならねえ。

自分を見失わないように自分を卑下しねぇようにしねぇと犯罪に手を染めやすくなっちまう。

そんな奴を何人も見てきたからこそ俺は伝えなきゃならねぇ。


お前を大切に思っていた奴がちゃんといたんだって。


俺も大戦で色んなもんを失った。

家族、友達、村・・・・・

思い出の場所すら、もう更地だ・・・・


多分、俺はお前に思い出の拠り所を探してたのかもしれん。


お前の親父は旅好きだった。

だからお前もいつか出ていくんじゃねーかと思ってたんだ。


だから旅に出たならせめて、楽しんでこい。


旅先で色んな物を見てこい。


旅先で色んな奴に会ってこい。


旅先で色んな事を学んでこい。


そんでお前が一回りか二回りか大きくなったら、俺が驚くような魔道具持って店に来い。


茶の一杯は出してやる。


その時はまた喧嘩でもしようや。


ルーイの友  ロイ・トロス



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