第36話「別れた後の手紙ってなんか渡し辛い」
馬屋の出口から出て塀沿いを進むと村の入り口が見えてきた。
果たして今渡すべきなのだろうか・・・・
買い物が終わってからの方がいいの・・・・・か?
あー!!!分らん!!
中身は見てないがあの別れからの手紙とか絶対に大切な事が書いてあると思われる。
すっと渡せば良いのだろうが、いかんせん場馴れしてない俺には今ひとつ踏み込み辛い・・・・
とりあえず渡せる流れに持っていけるように話してみるか・・・・
「こ、この街は来たことあるのか?」
「あー、ロイのおっちゃんとなら何回か来たことあるぞ!旦那どうした?俺との買い物は不安か?」
「いや、そういうわけではないんだ・・・・」
ええい!ままよ!!
「ルーイ、実は・・・・・」
「あった!!あれが屋台市だぜ!この村は大きくないから新鮮な魚はないんだけどさ、草原が多いから羊肉が旨いんだ!!行こうぜ!」
っち!!
まぁあいい!とりあえず買い物を済ましてからだ!!
目ぼしいものを買い揃えると俺達の腕の中には食べ物でいっぱいになっていた。
アリアスの分が多い・・・・
そんな量の買い物も小学生程の身長のルーイに持たすわけにもいかず、俺は両手いっぱいに荷物を運ぶことになってしまった・・・・
これでは手紙が渡せないじゃないか!!
ルーイは俺の前を歩きながら羊肉の焼き串を加えて尻尾をゆっくり大きく振ってご満悦である・・・・
二人で買い物をしているときのルーイの言葉にロイさんが幾度となく出てきていた。
本当は寂しかったんじゃないだろうか・・・・
もっと二人でいたかったんじゃないのか・・・・
ロイさんは親みたいなもんな訳だし、どうしてあんなにあっさり・・・・・
まてまて!元はといえば原因は俺だ。悔んだらダメだ。
「でさぁー、ロイのおっちゃんがここの店でブチ切れてさ〜・・・・・・にゃ?どうした旦那?荷物持たせて怒ったのか?」
「いや、そうじゃない。馬屋に戻ったら渡したいものがある。」
「お、おう!分かった!怒ってないならいいんだ!」
アリアスサイドーーーーーーーーーーーーー
もの凄い揺れでした・・・・
頭の中が混ぜられた気分です・・・・
最初にバチバチと幌に何かが当たったかと思ったら、急に物凄い力で勢いよく引っ張られた感覚が襲ってきて、その後は・・・・・
「うぷっ!」
「だ、大丈夫か・・・・?」
思い出したら、また吐き気に襲われました・・・・
《ガンドーベル》を前に馬屋の塀にもたれて座っていたナタリーが横で冷や汗を流しながら腕組みで目を瞑っていました。
アキラさんとルーイちゃんが買い物に出かけて暫く経ってようやく私達は湧き上がる胃液も収まり始めたところでした。
「・・・・大丈夫です・・・・ナタリーは大丈夫ですか?」
「あの揺れ、早馬を凌駕する速度・・・・あの乗り物はイカれている。ピンピンしているアキラ殿は頭がおかしいのか・・・・」
そうですね・・・・無茶苦茶な乗り物です・・・・
通常ならここまで早馬を乗りついでも一日はかかります。
それを半日も掛けずに到着するなんて、あの《ガンドーベル》なるものが出回ったら世界の流通や戦争が変わってしまいます・・・・・
好んで乗ろうとは思いませんが・・・・
「でもこれなら早めに手を打てそうですね!」
「そうだな、伝言から早くて3日、遅ければ4日といったところか・・・・物量から鑑みるに、有利に戦うなら準備に2日はかかる。偶然の産物なら、臆病なオークのお陰でまだ戦いには至ってないだろうな。まぁその分、人側も避けてはくれぬかと手をこまねいているのだろうが・・・・」
「そうですね・・・・・ですが伝言にあった通り人為的なら・・・・」
「戦いは始まっているかもしれんな。」
ナタリーは腕組みを解くと腰の新調した剣に手をおいて鋭い眼光を虚空へ向けていました。
勿論、人為的でないことを信じたいのですがオークパーティー50体、ゴブリンが多くて4体にオーク1体の計算なら、オーク10体にゴブリン40体・・・・
そうなれば人為的と考えるのが妥当です・・・・・
普通、オークパーティーは森で遭遇するものですし、その際オークパーティーの集落を築いていたとしても50体もの集落は聞いたことがありません。
最悪ゴブリンの集落が押さえられたとしても、それほどの集落であればゴブリンリーダーが生まれているでしょう。
ゴブリンリーダーがいればオーク10体ならゴブリン40体で蹴散らすことは造作もない事です。
恐らく集落のゴブリンリーダーを間引きし、そこにオークを投入したか・・・・・
それともばジェネラルオークが率いた10体であったか・・・・
魔素を取り込みすぎたジェネラルオークが偶然森でもない所に来るはずがありません。
考えれば考えるだけ不安になってきました・・・・
「だとしても、私達の部下はそんな軟ではないだろ?」
ナタリーはそんな私の表情を見たのか、私の肩に手を置くと微笑んでいました。
「・・・・・そうですね!」
「それに最悪・・・・・」
魔力を使い果たしていたとしてもエスティナ様なら何とかしてくれるかもしれない・・・・
せめて戦いが始まっていなければ・・・・
そんな淡い期待を抱いているとコウさんが荷台から降りてきて水筒を投げてくれました。
「少しは元気になったー?」
「はい!ありがとうございます!」
「コウ様!私は最初から元気です!」
「嘘つけ〜!オエオエのゲロゲロだったじゃん!まぁ次は何とかなるかもよー今椅子のとこに野営用の毛布を畳んで置いといたから多少は緩和されるよ!多分!」
すると荷物を抱えた二人が馬屋の入り口から帰ってくるのが目に入りました。
「アキラさーん!ルーイちゃーん!ありがとうございます!」
「兄ちゃん、ルーイタンお帰り!!」
「アキラ殿、ルーイすまなかった。」
「ああ、いいんだ。食べたらすぐ出よう。コウ!食べる分以外を荷台に乗っけてくれ!」
「オッケー!」
アキラさんは腕いっぱいの荷物を荷台の側に置くと、すぐにルーイちゃんの側に行き、何かを渡すのが見えました。
手紙です!
ルーイちゃんは一瞬驚いた顔をすると直ぐに渡された手紙を開き読み始めました。
段々と表情が崩れていくのに気づいたのかアキラさんが幌で囲まれた座席に誘導すると、ルーイちゃんは食事が終わり、私達が乗り込むまで出てくることはありませんでした。
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