第8話「聖女を守るは無謀な孤独の剣。」

恐らく本気で走ってきたのだろうヴェルダーさんの額には汗が滲んでいる。


「西門に青い髪、双角の魔人が現れました!攻撃の様子はありませんが、異界の戦士を連れてこいの一点張りで、引きそうにありません!」


魔人?異界・・・・俺たちか!?どうゆうことだ!!?


「まさか・・・・!?」


青褪めた顔でナタリーが立ち上がり、こちらも青褪めた涙目のアリアスと顔を見合わせ急いでその部屋を出て行った。


「兄ちゃん!俺たちも行こう!なんだかヤバそう!俺たちが出ないと村に迷惑かかっちゃう!!」


「そうだな・・・・」


わからんことだらけだが今はコウの言う通りだ・・・・


そして俺たち二人も席を立ったのだった。


[アリアスサイド]ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


村を囲う丸太の塀。西門と呼ばれるそこには左右に家屋より少し高い櫓が組まれている。


門の外には一人の魔人が立っていました。青髪の長い髪を後ろで括った切れ長の赤い目。

若年の魔人は品のある顔立ちですが、頭から生えた2本の角が異様な雰囲気が漂っていました。

こんなところで会うなんて・・・・・


魔人は金色の糸の高級そうな装飾の白い外套をなびかせながら口元に笑みを貼り付けていました。


「案内ご苦労です。魔女の使者。」


「ハステル卿!!!」


「尾行に気づけないとは、本当に間抜けですね、独剣のナタリー。それでは聖女アリアスも可哀想です。クックックックック・・・・」


「ッ!!」


魔人の言葉にナタリーは顔を歪め、悔しさと恥ずかしさを押し殺して剣に入れる力を強めてるようです。

ナタリーは知っている方なのでしょうか・・・・


「それで、『異界の戦士』を出してくれませんか?私は魔女の糞には用はないのです。『異界の戦士』と話がしたいだけなんですがね。」


漂ってくる異様な雰囲気が私の足を震わています。覚醒魔人と対峙するのはこれで2度目。

どうにかこうにか持っていた短い杖を構えてると、すぐさま私を隠すようにナタリーが前に出ていきました。


「アリアス!私はいいので、お二人を連れて逃げてくれ!」


このままでは帰還すら困難です・・・・

私たち二人では覚醒魔人には歯が立たないかもしれません。出来ても数時間の足止めでしょう・・・・


「あいつは2ヶ月前、魔人へ覚醒し王都兵士50人を一人で消した賞金320万ダイトの男。『奴』の配下だ。分かるな?逃げるんだ!」


「ダメです!私だけでは守りきれません!ナタリーも一緒でないとダメです!!」


エスティナ様に仰せつかったのは「1人」の護衛。

でも1人ではダメだと思うんです。

あの2人は同時に納得させないと動かせないと思うんです。だから二人とも守らないとダメなんです!


私たちの様子を蚊ほども気にしている素振りのない魔人は、門の奥を見て微笑んでいた。


「お!来ました来ました。・・・・・あれが双聖ですかね?」


ナタリーは門の奥から先ほどの二人が現れたのを横目で確認すると、私に後ろ手に指示を出しました。

ナタリー、わかりました。私が盾になります!


私はすぐさま双聖と魔人の間に入り、杖を構え直しました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「初めまして。ウォルター・フォン・ハステルと申します。主人の意向でお二人をお迎えにあがりました。」


青髪の男は映画に出てくる貴族のように右手を左胸に当てて一礼した。

やけに礼儀正しいな・・・・


「来ちゃダメです!!逃げてください!!」


アリアスが俺たちに向けて放つ言葉が草原に響き渡った。


どうゆうことだ?アリアスとナタリーの敵?

それより、何だあの髪と角は!?目も赤くて気持ち悪い・・・・人間じゃないのか?

だが自己紹介されたんだ、知性はあるということか・・・・一応、返すのが礼儀だな。


「最上 モガミ コウだ!」


「最上 モガミ アキラ。なんの用なんだ?」


「クックックック・・・・その加護・・・コウ君、貴方が『異界の戦士』ですね。」


何?『異界の戦士』?


するとハステルは俺に向けて右手を前に突き出し光を集めだした。

え?なんだ!!!?


「アリアス!」「はい!!」


ナタリーが走りハステルに切り掛かると、ハステルはそれを避け、光の収束が止まる。

ナタリーが剣を振り下ろした先の土が水面を叩いたように跳ね上がった。


そのままナタリーは振り抜いた先から切り上げるように2撃目。


だがハステルは微笑みながらそれを後方に避けると、即座に突進しナタリーの胸部に蹴りを放った。

ナタリーは衝撃により、ワイヤーアクション並みに後ろに吹き飛んだ。

バック転のように受け身を取ったが、膝をついて立ちあがれないようだ。ナタリーの胸部の鎧が凹み苦痛の表情を浮かべハステルを睨み上げていた。


「ックックック。独剣のナタリーなどと言う二つ名が泣いていますよ」


「ナタリー!」


ナタリーが攻撃している間に詠唱していたアリアスの杖が青白く光りナタリーを包むと、ナタリーは再び立ち上がり構え直した。


「良い連携ですね。ダメージは計算済みですか。でも魔女の糞に興味はないんです。」


「はぁぁあああああああ!!!」


ナタリーは再びハステルに向かい一太刀、また一太刀と浴びせるが、ことごとく躱され一切当たらない。

先ほどからアリアスも後方から攻撃魔法を行っているが当たる気配がない。


速い。あの男、やけに速い。

ハステルの周りは穴ぼこだらけになっている。

完全に遊ばれているじゃないか・・・・


「そろそろ黙ってもらいましょうかね・・・・・フンッ!」


ナタリーの剣を横に避け、体を一回転させてナタリーの脇腹に掌底を放つと、アリアスの放った火炎魔法を水魔法で押し返した。

蹲ったナタリーを回し蹴りで吹っ飛ばし、アリアスにナタリーがぶつかると、その場は打って変わって静寂が訪れた。


「お、おい!大丈夫か!!」


ハッと我に帰り、俺とコウが2人に駆け寄るとアリアスは気絶し、ナタリーは口から血を吐き息も絶え絶えになっていた。

これは酷いな・・・・・女の子にこんな・・・・・・


「ックッソーーーーーー!!!!」


コウの叫びが静寂を突き破った。

今までコウが怒ったのは2回しか見たことがない。

葵を虐めた同級生とコウの目の前で女子高生を殴ったチンピラ。

確かにこれは無い。人道的に無い!

だがあの速さ、どうしたものか・・・・・・


「ナタリー!剣を借りるよ!」


「コウ!待て!」


コウが俺の制止を聞かずに走り出し、すでにハステルに斬りかかっていた。

ハステルは笑いながらそれを避けると、そのままコウに回し蹴りを放った。


「同じ手は喰うかよ!!」


「っな!!?」


コウがしゃがんで避れると、下から斜めに切り上げを放ち、軸足を切りつけた。


だが浅い。かすり傷程度・・・・

速いんだ。動きを止めないことには・・・・・


ハステルはそのまま体制を戻し、一気に詰め寄るとコウの顔面にナタリーに放った掌底を浴びせた。


「コウっ!!!!!」


その瞬間、コウが小石のように吹き飛んだ。

地面の草を巻き上げながら転がり、バタンと音を立てて動かなくなってしまった・・・・・


車に轢かれたような尋常じゃない吹っ飛び方。

最悪の展開を想像し、冷や汗と吐き気が一気に押し寄せた。


「あれ?魔力を込めて爆散させようと思ったのですが・・・・さすが『異界の戦士』。魔女の加護は偉大ですね。」


やばい!!!!!やばい!やばい!やばい!やばい!!

殺すつもりだ!考えろ!!考えるんだ!!!


「『異界の戦士』を殺して私の力を『勇者様』に誇示するのもいいですね。今なら仕留めれますし、クックックック・・・・」


吹き飛んだコウに一歩ずつ近づくハステル。


「待て・・・・・・・・・・・待てぇぇぇぇぇ!!!!!」


コウに到達する4歩前。


「どうしたのですか?双聖の絞りカスさん。」


「明日の夕方まで待て。逃げないから。」


「クックックックック・・・・・面白い!いいですよ。でも明日は拒否すれば村ごと全員殺します。」

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