第9話「無知は罪じゃなく死だそーだ」
「はい、水魔法の水は魔素の塊といってもいいものです。飲んだら魔人になっちゃいますよ!また、術者の練度によってですが不純物が混ざります!」
「ほほう。水魔法の水は飲ま無い方がいい・・・・では水ではない液体を出す魔法は?」
ハステルとの戦いの後、どうにか時間を確保できた俺はアリアスを起こして2人を回復してもらった。
回復魔法は自己治癒力をあげるもののようで、2人は傷は癒えたものの体力の消耗が激しく、ベットで今は寝ている。
俺は明日の準備のため知識の足りない部分を補うべくアリアスに質問しまくっていた。
「あります。ですが魔物が使う魔法です!ヌルヌルの液体を出す魔法です・・・・ですが人族は真似ができません。」
「うーん・・・なら、そうゆうことかもな・・・・・・・なら容易か・・・?」
魔人の情報は押さえておきたかったので一通りは聞いた。まぁまだ未確定要素満載だが、参考にはなるか・・・
魔人とは。
魔素を取り込みすぎて暴走した人間。
魔人化すると体内の魔素ではなく、外部から魔素を取り込めるようになる。
わかりやすい違いは頭部に角が生えること。
他にも魔法陣や武器の類の話などをしていたが、夕方になる頃にはコウが起きてきた。
「コウ、もういいのか?」
「ごめん、ちょっと先走っちゃた・・・・」
コウはバツが悪そうに頭を掻きながら微笑んでいたが、少し元気になったようで安心した。
本当に心配した。トロールの時と違う知性体との殺し合い、殺意。それは今まで経験のない恐怖だった。
「アリアス、昨日のハステルの話をコウにもしてやってくれないか?」
俺はコウとナタリーの治療が終わったタイミングでアリアスに事情を聞いていた。
ウォルター・フォン・ハステル伯爵。
そして2ヶ月前、魔人へ覚醒し王都兵士50人を一人で消した賞金320万の男。
小さな領地を持っていて、そこでしか作れない特産品で財を潤わしていた資産家。
若くして家督を継ぎ、独り身だったため、王都では独り身の淑女の狙いの的として有名だった。
もともと『奴』と繋がりがあると噂されていたが、生き残った王都兵士の証言により確定。
現在、王都の精鋭『王宮聖騎士団』が追っている。
「その『奴』って何?」
「え、えーっと・・・・」
「勇者だ。魔王を倒した後、反旗を翻したらしい。」
「勇者!?」
アリアスが言い淀んでいたのはこのためだ。
魔王と言われるものはこの大陸に3名いたらしい。
残りの2人は不可侵を守るのなら何もしないと話が通っているらしいが、1人の魔王が侵略を続けた。その魔王を倒したのが『奴』。勇者であるとのこと。
その勇者が今は魔王の座を乗っ取ってしまい侵略を続けている。
侵略、蹂躙、性奴隷・・・・
勇者とは呼べず、いや呼びたくないから『奴』と呼ばれている。
その『奴』を抑えるべく立ち上がったのが《時の魔女エスティナ》。
エスティナは協力者を募り《ワンド》を結成。
今は《ミストラル王国》など主要国の公認で『奴』の討伐に向けて活動している。
アリアスもナタリーも、その《ワンド》だそうだ。
そしてコウは、その『奴』に対抗すべく《時の魔女エスティナ》に呼び出されたらしい。
なんとも身勝手な話だ・・・・
そして移転座標の範囲などの問題で俺と公久と明日菜も巻き込まれた。
その危惧はしていたため、同時に来た者を保護し、『異界の戦士』が事を終えて帰るタイミングで一緒に返すつもりだったとのこと。
コウの移転先は予定していたので移転の儀式前にここに向かったそうだ。だから俺や公久と明日菜の存在は知らなかったらしい。
事情を話し終える頃にはコウの眼差しは明らかにハステルに対する敵意へと変わっていた。
「兄ちゃん。剣が欲しい。」
こいつ、あの力量差でもまだやる気があるのか!?
でも終わらなければ帰れない・・・・・・か・・・・
やるしかない。
このまま死んで終わりとか避けたい・・・・・
よし!買い物だ!俺も明日に向けて装備を整えたいしな。
「んじゃ買い物行くか!!ありがとうアリアス。少し休んでいてくれ。」
「あ、え、はい!すいません!こんなことになって本当に。本当に・・・」
戦いの後からずっと気にしているのか、ハの字眉毛の困り顔をもっと困らせて終始涙目。
事あるごとに謝ってくる。どうしたものか・・・・
見た目が可愛いくても、困ったり泣いたりされると、逆にこっちが困る。
まぁ、アリアスの反応のお陰でアリアスとナタリーは敵ではないと言う事は分かった。
まぁまだエスティナを信用していないがな。
2人は「異界の戦士」ではない俺まで守ろうとしてくれた。だから敵ではないんだと思う。
ただ、尾行されていたという落ち度もあるから、償いとして今日は徹夜で勉強と実験に付き合ってもらおう!
「・・・やっぱり、ハステル卿と・・・・戦うんですか?」
「俺の仮説が正しければなんとかなる・・・・まぁ夜は寝させないから、寝とけよ!んじゃよろしく!」
「ぅえ!?」
「兄ちゃん・・・・・」
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「はい、では全て買い取りで、41万8000ダイトでよろしいですか?」
座った腿の上にでっぷりとお腹の乗った髭のおじさん。
村で唯一の人族で、商人のマルクスさんだ。魔物の素材の内訳はすでに聞いていて、総額を計算してくれた。
円で考えても結構な値段だな。
マルクスさん曰く、外傷が目だけだったので皮が丸々使えるそうだ。
そうこうしているとヴェルダーさんが俺たちを見つけてついてきてくれた。
本当にこの人はいい人だな。
お店に入って、店頭に商品があまり並んでいないので質問したら盗賊対策で必需品以外のストックは最小限にして、必要に応じてに買い付けに行くらしい。
相場の変動は起きないのか聞いてみたが、《商業取引組合》通称:商人ギルドでは大きな変動があると店舗所有の商人達に伝達が来るらしいので、そこまで困らないようだ。
「マルクスさん。少しお話がありまして・・・」
マルクスさんに事前に考えていた取引を伝えると、快く受けてもらえた。
うんうん、商人ならやっぱりお金は持っておきたいよね!
41万8000ダイトを丸ごと貰うのではなく、マルクスさん必要な物品を揃えてもらい、41万8000ダイトから差し引いてもらう。その代わりに少しオマケしてもらう寸法だ!
まずは服!今の服はいかんせん目立つ。
特にコウは剣道着のままだ。時代錯誤?いや、世界錯誤か。
選んだのはベージュのシャツに緑のベスト。ボトムはブラウン。靴もスニーカーだったのでブラウンのブーツを購入した。占めて2万ダイト。
俺は靴だけでいいと思ってたら、マルクスさんが是非白シャツを下取りさせて欲しいと懇願してきたので上も全身購入することにした。真っ白な衣類は高貴な人に需要があるそうだ。
お気づきかと思うが、ここには地味カラーしかない。ベージュ、緑系、茶系。
コウが「なんか・・・イケてない・・・」とマルクスさんに聞こえないように限りなく小さな声で5回くらい呟いていた。
俺はコウが動きにくいと言ってやめた、深緑の外套とベージュのシャツ、ボトムはそのまま紺のチノパン。革の手袋に靴は、柔らかいブラウンの革靴にした。
それでも白シャツの下取り金額より下回るので合わせるように革のガンホルダーみたいな体に付けるバックを選択した。なんかサスペンダーみたいになってる。
これで俺は0ダイト!おっ得〜!!
実用的なのに、ちょっとカッコイイじゃんか・・・・ニマニマ
「なんか・・・それイケてない・・・」
ッチ!!
コウは「刀が無い!!ってか剣が7本しかないじゃん!!」と在庫を漁っていたが、首都に行けば種類もあるからとヴェルダーさんに説得され、普通の両刃剣に落ち着いた。
俺も策のための武器を買っておきたかったので、ヴェルダーさんに相談して鉄のナイフと銅のナイフを一本づつ購入。
あとは荷物を入れるリュックと野宿セットなどと岩塩を大量購入した。
そしてヴェルダーさんには感謝の印で短剣を一本!ヴェルダーさんは「明日のために使いなさい」と複雑な顔をしたが受け取ってくれた。
残金20万5000ダイト。
いや〜さすがに無いものもあったが、実にいい買い物だった!
「ところでコウ。お前に頼みたいことがある。」
「任せて!!」
いや、内容聞けよ!
「・・・・・・うん・・・・うん・・大丈夫!!取ってくるよ!!」
さて、下準備完了。さぁ始めるか・・・・・
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