第7話「よく考えたら選択肢なんて、何かを捨てろってことだよね」

俺たちは朝食を食べ終わるとヴェルダーさん指導の元、魔法の練習を開始した。


ミラディエラさん達が昨日の状況を確認するため《アラディスマの森》の《双壇の大樹》に行っている間、俺たちはやることがない。

その為の暇潰しもとい勉強である。


昨日は使えなかった魔法が今日は発動した。

恐らく昨日の夜の寝苦しさは魔素が体を巡っていたのだろう。


「うお!すげー!俺なんかワクワクすっぞ!!俺もやる!!!」


ここに戦闘民族がいます。


俺が炎を出したのを見てコウがテンションMAXだ。


魔法・・・原理がわからないな。魔素を見ることができればまだ何か違うのだろうか。

気体にも液体にも個体にも含まれると言うことは電子の類か?


そんなことを悶々と考えているとコウが呪文の詠唱を始めた。


そういえば呪文の詠唱の意味も分からないな・・・

言葉・・・いや波か。声色が人それぞれ違うのに同じ現象・・・・


あれ?何か暑いぞ。


「うおぉ!!」


ヴェルダーさんが目を剥いて惚けている。

熱の先に目線を動かすとコウの手の上から檻をはみ出るサイズの炎が燃え上がっていた。

俺やヴェルダーさんのより数倍デカイ・・・・


「コウ!!止め!止め!!」


「うん!」


ヴェルダーさんが焦っているのが分かったのか、コウが集中を切った。

コウの炎が消えたのを見届けたヴェルダーさんがそのまま椅子に座り溜息を吐いた。

いや、本当にすいません・・・・火事になりますよね・・・・


「今練習しているこの魔法は火炎系の下位魔法トーチ」だ。昨日俺が使ったのが《フレイ》」


ふむふむ。ランクがあるのね。


「呪文詠唱の内容はトーチのだが、コウのトーチのサイズは異常だ。」


「すいません!俺、何か間違えてました?」


ヴェルダーさんは机の水差しから水を注ぎ、一気に喉に流し込み言葉を続けた。


「根本的な部分だ。体内の魔素を池とするなら、魔力はそこから流れる川。上位の魔術師は同じ魔法でも、川幅を調整して威力を変えることができる。ただ川幅も、基本のサイズがある。多分だが、コウの川幅は大きすぎる!恐らく池に当たる魔素の総量も異常かもしれん。」


ふむふむ。魔素が貯水タンクで蛇口の幅が魔力と言うことか!バルブを開けたり閉めたりできるが、全開しても蛇口の幅以上の水は出ない。出すためには貯水タンクの水量が多く、水圧を上げなければいけない。

いや〜実にわかりやすい!


って!おいおいおいおい!!!!!ックッソ!!!またこいつのチートパワーか!!


・・・・・・今に始まったことじゃないか・・・・


「コウは一度、魔素計量を受けに《ミッドエルス》に行った方がいい。魔素総量によっては良い職に就けるぞ。」


魔素計量・・・・まるでスカウターのようだな・・・・


ホッホッホ・・・わたしともあろう者がドキドキしてきました。


「アキラは・・・・・」


俺は触れられなかったので通常枠っと・・・・・


《ミッドエルス》と言うと《ミストラル王国》の首都か。

職は置いといたとしても、金は要るな。

金策か・・・・・頭が痛い!

コウはあまり嬉しそうではないが誇って良いんだぞ!弟よ!!


「ところでヴェルダーさん。お金って持ってます?」


ヴェルダーさんは「ああ、そうだった」と懐から革の袋を出して中身を俺たちの前に並べてくれた。


「本当に何も知らないんだな。これが《ミストラル》の通貨だ。」


並べてくれたのは硬貨3枚。青銅色、銅色、銀色の3枚。


「この青いのが青貨。1ダイトだ。この一枚で買い物はできない。これが銅貨、安い果実やパンを一枚前後で買える。価値は青貨の10倍。10ダイト。そして銀貨が100ダイト。今は持ってないが金貨が1000ダイトだ。見ることもないとは思うが、大金貨10000ダイトも存在する。」


ほほう。1ダイト=10円かな?さぁ!本題だ。


「俺たちが稼ぐ方法はありますか?」


ヴェルダーさんは髭の一切生えていない顎に手を当てて虚空を見ながら唸った。


「兄ちゃん、その首都で俺が稼げばいいんじゃない?」


「お前、バイトしたことなかったよな?仕事に就くまで結構物入りなんだよ。交通費とか給料日までの生活費とか・・・・それにこの格好で首都に行ったらどうなると思う?」


「あー、この格好は確かにまずいね・・・あと、剣が欲しい!また襲ってこられてもいいように持っておきたいな!」


そんな俺たちの会話に何か気付いたのか、ヴェルダーさんは目を細めて、口の端を上げ悪い笑顔を作っている。


「アキラとコウの昨日の話が本当なら、お前らの強さなら魔物狩りで直ぐ儲かるぞ。村からの依頼をやるのなら最低限の装備は貸し出す。まぁこの村で受けれる仕事はトロールより簡単なものだ。」


出来る可能性はあるが、デメリットがやばい。

待てよ・・・受けれる仕事?職安でもあるのか?


その後、散々話を聞いて傭兵職について学んだ。

ギルドに登録して実力さえあれば、その日暮らしはできるらしい。お使い程度のものから、輸送や討伐などがあるので仕事を選べばリスクも少ない。ただ依頼で出す以上、絶対安全ということはないのだそうだ。

そりゃそうだ。


ヴェルダーさんは話し疲れたのか、ぐったりしてたけど。昼食の準備をしに行ってくれた。


俺たちは少し安心して、必要なものなどを纏めて購入リストを作ることにした。

後でヴェルダーさんにメモを渡して相場を聞いておこう。


そんなことをやっていると扉の開く音が聞こえた。

コウはすでにお腹の虫が叫んでいる。俺もお腹すいたなぁ。


「アキラ、コウ!ミラディエラ様がお戻りになった。出ていいそうだ!だが少し妙なことになっているようだぞ。」


手ぶらのヴェルダーさんにコウが顔を顰めてしまったのを笑いながら「お昼もそこで」と言うと笑い合っていた。

あーもう打ち解けちゃったのか〜・・・

何が人を惹きつけるんだろうか?


それより「妙」・・・・?


まあいい。キミヒサとアスナが無事ならそれでいい。

俺は気持ちを切り替えて牢屋を出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「結論から申し上げますと、お友達は見つかりませんでした。」


挨拶を済ませ、村で一番大きい屋敷に案内された。大きいと言っても精々2軒分くらいのサイズだ。

そこで昼食が用意された机につき、報告を聞いている。

ただ、俺とコウとミラディエラさんの合わせて3人ではない。

俺たちよりも先に座っている女性2人を合わせた5人だ。


片方が赤毛のショートカットでブラウンのローブ。色白でタレ目の困り顔で可愛らしい顔つき。幼さがまだ残っている。もう1人は長い黒髪を後ろで束ねたポニーテールで、いかにも性格のキツそうな美人顔だ。腰には帯刀していて胸部と腕部と脚部に鎧をつけている。動きやすさ重視か。ってか胸でか!!


そして二人ともエルフではない。


「その他は確認が取れました。トロールの件、ありがとうございます。」


「いえ、友人を探して頂きありがとうございます。」


「さすがに森全体を捜索はできませんので、私たちの守る範囲の捜索です。すでに森を出ていればわかりませんので、お気を落とさず、諦めないでくださいね。」


何この人!!!美人な上に超優しいんですけど!!

・・・・・ってそんな人ほど裏があるんだ。学生生活で実地で学んだよ。


「はい。お優しいお言葉ありがとうございます。これからも探そうと思います。」


「ミラディエラさんって美人な上に優しいんだね!みんなが様付けしてるのも納得だ!」


っちょ!おま!超恥ずかしい!俺の顔でそんな発言しないで!!!

まぁ、「様」が付いているのは村長だからだし。


「いえ、そんなことは・・・・」


赤くなってる!!!!可愛いです!!でも俺には恥ずかしくって言えない!

コウも口説いてるわけじゃないのは分かるけど、なんか俺、居づらいっす!!

ん?今思ったんだが何歳なんだ?


「あ、皆さん召し上がってください。食べながらでお話しましょう」


「ヤッホー!!いただきまーす!!」


ミラディエラさんも恥ずかしかったのか、話を切り替えてきたな!


未だ二人の女性は無言・・・・

なんなだ?この二人は?


ミラディエラさんは手を組み食べ物への感謝の言葉を唱えていたので、それを待って聞いてみることにした。

儀式もあるようだし宗教関連の存在も後で調べておこう。


「それで、この二人は?」


待っていましたとばかりに食事の手を止めて姿勢を正す赤毛の女の子。

顔を赤く染める赤毛と対象的に、そのまま食べ続けるポニテ。


「ご紹介が遅れましたね。この方々は・・・・」


「あ、あ、アリアス・グラディルです!!こ、この度は大変な思いをさせてしまいゴメンなさい!!」


「ナタリー・コーウェンだ。」


ワッツ?大変な思いをさせた・・・

アリアスもナタリーもコウに向けて自己紹介をしたのも気になるが、「させた」とは・・・


「お二人とは《アラディスマの森》で会いました。お話を伺うと、状況的にあなた方を探しているとのことでお連れしました。」


「ではアリアスちゃんが俺たちをここに連れてきたのー?」


コウはすでに別の世界だと認識しているのか・・・・

確かにそう考えた方がいいかもしれんな。


「あ、いえ!エスティナ様がお呼びいたしました!私たちは『時の魔女』エスティナ様の使者です!つきましてはエスティナ様にお会い頂きたく、お迎えにあがりました!」


ほほう。そいつが元凶か?


「嫌だね。」


「兄ちゃん!?」


「ええええええ!!!?????」


「なにを!?」


赤毛が涙目になりながら手をワナワナさせてるが関係ない。さすがにナタリーも食事を止めた。コウも驚いて食事を止め、此方を見た。


「兄ちゃん、でもさぁ・・・・」


「待て待て、呼んだってことは何かさせる気だろ?それにキミヒサとアスナの話も出ないなんておかしくないか?ただの脅迫じゃないか。」


「脅迫!!!??そ、そんなことはありません!」


「それじゃあ、キミヒサとアスナはどこなんだ?そして俺たちはどうやったら帰れるんだ?」


「えっと・・・・・」


俯いて押し黙ったアリアスを放置し、そのままミラディエラさんに向いた。

まずはキミヒサとアスナを探すことが最優先だ。


「ミラディエラさん、ヴェルダーさんの報告は聞かれましたか?」


「は、はい、簡単にですが伺いました。」


ミラディエラさんも困惑しているが、キミヒサとアスナのために今後の動きを定めたいからな。


「俺たちは、本当に何も知りません。それに明日を生きていくお金もない。なので簡単な傭兵職をして、当座の資金と必要物資を集めたいと思っています。」


「明日、いや当座はなんとかなると思います。昨日のトロールとリザーヴォルフは村の商人に買い取らせていただければと思います。無駄遣いをしなければ、当座を過ごせる金額になると思いますよ。」


この後、精算のため商人のマルクスさんのアポイントを取ってくれてるらしい。

何から何まですいません!

因みに食事中、本棚があったので背表紙を確認しておいた。言語はやはり違ったようだ。


「ありがとうございます。ついでと言ってはなんですが、読み書きなどを教えていただける方などいらっしゃいませんか?」


「そうですね、大きな町に行かなければ難しいかもしれません。ですが教養学校の入学金には少し足りないかと・・・・」


有料らしい・・・・ケチくさいな。


「あ、あの!私が教えます!キミヒサさんとアスナさんも探します!ですからお願いです!ついてきてください!」


置物のようになっていたので気に留めてなかった存在が急に声を発したので目を向けると。

声を発した赤毛の少女は肩を震わしながら涙目で、グッとこちらに目を向けていた。


あーいつもの通りやっちまったらしい。

一言多いのは分かってるんだがな・・・・


数秒間の沈黙が流れると唐突に外が騒がしくなった。


「これは!!!???」


「ミラディエラ様!!魔人です!!魔人が来ました!!」

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