第6話「なんでも不思議で済むなら学問なんていらないと思う」

「ありがとうございます。ごちそうさまでした。」


「おかわり!!!・・・・・・・え?ダメ?」


俺とご飯を持ってきたエルフのお兄さんからの冷たい目線に諦めたのか、コウは食器をまとめてエルフのお兄さんに差し出した。


夕食は芋っぽい何かと豆っぽい何かのスープとフランスパンのような硬さの丸いパンだった。

本当に質素・・・・・・

食料のことも知識として手に入れなければと決意させてくれる食事だった。


あー・・・・・ブラックコーヒーとクッキーが食べたい。


ちなみに俺たちは今は牢屋の中です。

まぁ牢屋と言っても村の家を改造したような簡易的な牢屋で、暗かったりジメジメしてたりすることもない。

エルフの兄さんに教えてもらったが、主な使用用途は酔っ払いの反省や俺達みたいな素性の知れないものを一時的に入れておく所らしい。

そのため4畳半の牢屋が2つしかない。見張りはこのエルフのお兄さん一人で、硬いがベッドもあるしトイレもある。

中がキレイなのはエルフの性格上なのかな?


ここまで来る間、俺達を見つけてくれた4人に世界の事を漠然と聞いた。

まぁ1時間くらいしか話せなかったから本当に漠然な情報だが。

具体的も何も、この世界の子供でも分かることすら分からないので外堀から埋めていくしかなかった。

彼らも漠然と世界の事と聞いても答えれないようだった。

そりゃそうだな、別の世界から来た奴にこの世界について聞かれてもどう答えていいか分からないよな。

その代わりに、この国の事や森の事、生物の事を教えてくれた。


ここは《ミストラル王国》《ベラデイル領》。

王権制の国で首都は《ミッドエルス》。国王アスライル・レイム・ミストラルの治める国である。

その南南東に位置するのがエリオット・ライン・ベラデイル侯爵の領地ベラデイル領

《ミストラル王国》でも《アラディスマの森》は南東の国境に位置し、その深さから国境の代わりに不可侵領域として位置している。


《アラディスマの森》の北。正確には北東だか、そこに《エステルマ領》がある。

《エステルマ領》は《モリアナ王国》の領地であり、《アラディスマの森》に入るのは《エステルマ領》の狩人くらいなものらしい。

因みに《アラディスマの森》は東に抜けることもできるが、そこには霊峰オルムの角があり、その山を越えなければ入れないらしい。森から歩いている時に聞いたので、ふと森を振り返るとバカでかい山が見えたのを確認している。


ここからでも見えるほどのデカい山を越えるような冒険野郎はいないらしく、東からの侵入はほぼない。

南は《世界の瞼》とゆう深い崖があるらしいので空でも飛べない限り侵入できないとのことだ。


また、俺が気になったのは「双聖」。

決して三体合体で「気持ち良い」と叫んでいる訳ではない。


話が逸れた。


「双聖」とは対になった同じもの。この世界では双子はほとんどいないらしい。

そのため奇跡の産物となっている。ただ、地域によっては、片方が聖なるものとして、もう片方が悪しきものと見られたり、二人共が不吉の象徴となっていたりすることもあるのだとか・・・・・


俺が悪しきものになりそうだな・・・・・


とりあえず、エルフの皆さんは双聖に対して思うことがないらしい。

そのついでに、この村のことも少し聞いた。防犯上、多くは語ってはくれなかったが。


《新緑の里》世帯数30ほどのエルフの村。

西にあるエルフの陽光の里の分村らしい。

人間もいるが商人のオッサン一人とのこと。

《新緑の里》は《アラディスマの森》の《双壇の大樹》を御神木とし守っていて、そこで狩りや儀式などを行いながら慎ましく暮らしているようだ。

そういえばコウを《双壇の大樹》に登らせてしまったな・・・・・


緊急事態だったし、しかたないよな!俺も感謝して拝んでおこう!


まぁ聞けたのはこんなものだ。その後、すぐに投獄され食事を運んでもらった訳だ。

この付近の大体の地理は分かった。だが生物についての知識はこの後も必要だ。


「エルフのお兄さん!俺たちが戦ったトロールってやつとリザーヴォルフ以外にあの森で危ないやつっているの?」


「ヴェルダーでいい。」


エルフのお兄さん、もといヴェルダーさんは椅子に座り机に向かって筆を走らせながら答えてくれた。最初に遭遇したエルフ4人の内の一人だ。

肩くらいまでの直毛の金髪でエルフの中では少し男らしい顔付だ。ヴェルダーさんは恐らく会話の内容や言動をメモしているんだろう。小さい村ながら管理がしっかりしてるな。


コウは「食後の運動だ!」と言って筋トレを始めた。

絶えまぬ努力か・・・そりゃ強いわ。脳筋だわ。

だが今やらなくても・・・・


「《アラディスマの森》の魔物は他にゴブリンやエイプ、オークなどか・・・数は少ないがベラドルスもいる。」


おお!聞いたことあるような有名どころはいるのね。ただこちらの概念とズレている可能性もある。

詳しく掘り下げておきたい。それに気になる言葉・・・魔物。

他の生物との違いがあるのか?


「すいません、面倒かと思うのですが一つ一つ生態と対策。あと魔物と普通の生物の違いを教えてもらってもいいですか?」


ヴェルダーさんは面倒くさそうな顔をして目を細めたが、一つ一つ教えてくれた。

そりゃ面倒だよね・・・・ありがと。


「まず魔物と生物の違い。簡単なのは血の色。紫が魔物でそうでなければ生物だ。そして魔物は魔素が多いため狩っても食べれない。」


血の色?確かにピンク巨人もリザーヴォルフも紫色だった。進化の元からして別物なのか?


「ゴブリンでも紫色と赤色の血がある。魔素の濃いところで長いこと生活したりすると魔物になる。そうすると凶暴になる・・・・魔物でないゴブリンは人族を見ると逃げたり隠れたりするが魔物化すると襲ってくる。魔物化していないものと魔物化したものは同じ群れにはいない。仲間割れが起きる。」


ほほう。同じ生物なのか。魔素・・・・食べれないことも含めて毒なのか?精神に異常をきたす毒か?


「魔物化したゴブリンも基本的に群れで狩りをして生活している。知能は低いが武器を持ち、囲まれると危険だ。知能が低いので纏めて罠に嵌めるか。走りながら弓で一匹ずつ減らせばなんとかなる。だが魔物化したものは身体的にも強化されているから気をつけないといけない。」


俺はヒップポーチからノートとペンを出しメモって行く。一瞬それを見たヴェルダーさんは目を剥いて腰に手をかけそうになるが、ペンと紙だと分かったらしく。そのまま続けてくれた。


「エイプは魔物化前なら群れだが、魔物化すると単独行動の場合が多い。魔物化して群れを組んでいた場合は非常に厄介な個体だ。単体ならできる限り広い場所に行って避けながら傷と疲労を蓄積させればなんとかなる。狭いところや木が多い場所は行動が変則的になるから避けるべきだ。群れの場合は逃げろ。以上だ。」


見た目を聞くとエイプはデカい猿みたいなやつらしい。

ここの進化はどうなってんだ?

ヴェルダーさんはペンとノートに興味があるらしく、チラチラ見ながら他の魔物も続けてくれた。


・オーク

醜い顔の二足歩行の魔物。

基本的に魔物化した者しかいないらしい。

なんでも食うので、ゴブリンや人を襲い、武器を持っていることがよくあるらしい。

単体での行動が多いが、偶にゴブリンを従えていることもある。

木登りが苦手なので木の上や高台などからの攻撃が比較的に安全。


・リザーヴォルフ

結構素早く、毒持ち。

魔物化してもしていなくても襲ってくるらしい。面倒な奴だな。

または弓、槍などリーチのあるものでの攻撃。

ただ、一撃で仕留めないと厄介らしく、エルフの皆さんも仕留めるのは困難なようだ。

コウの倒し方は異常らしい。脳筋万歳!


・トロール

《アラディスマの森》で出会う一番厄介な魔物。

基本、全部魔物。ごく稀に魔物化していない奴もいるらしいがヴェルダーさんは見たことがないらしい。

耐久力が高く、エルフの弓では追い返すのが関の山とのこと。

一体いると結構縄張りが広く、森での狩猟や採取の量が減る。

対処法は俺らが示したらしい。ただ、リザーヴォルフを狩るのはリスクが高いとのことで実用化はできないんだそうな。


「最後にベラドルスだが、こいつは火炎魔法を使えば簡単だ。」



っぷ!魔法だってーちょっとー、ふざけないでよー


「虫の類で甲羅が硬いが、火炎系の魔法が使えれば焼けば終わる。」


「え!魔法って誰でも使えるの?兄ちゃんも俺も使える?」


あー、なんか食いついてきた・・・・

まぁ確かに少し気になる。

だが、そうでも今は順番に情報を整理したい。

少し黙っておいてもらおう。


「コウ!まだ懸垂終わってないんじゃない?」


「あ、そうだね!!」


「それで、ヴェルダーさん。魔法とは?」


ヴェルダーさんは盛大に溜息をついて項垂れてしまった。


「魔法がわかんないのか?体内の魔素を使って出す力!見たことないわけないだろ?」


ヴェルダーさんは片手を上げて指を開き、手のひらを上に上げた。

「赤き揺らめきは熱き波紋を、理の外にて現れよ。フレイ。」


「ッボ!」っとマジシャンのように火を出してくれた。


マジか・・・・・


はいはい、ファンタジーと言うことですね・・・・


「うわ!マジックみたい!マジで不思議な力じゃん!俺達もできるかな!?」


不思議で済むなら科学なんていらないんだよ!!!!

懸垂を止めて、檻を両手で掴んでガタガタ揺らす脳筋に苛立ちを覚えたが、ここは押さえて不思議を解明しようではないか!!


あくまで科学的に!!


「ヴェルダーさん、本当に今見たのが初めてです。魔法を使ったことない子供に教えるように原理から発動過程までを説明してはもらえないでしょうか?」


あくまで科学的に!!


ヴェルダーさんは額に手を当てて俯いてしまった。

これは面倒だったかな?明日、別の人に聞いてみるか・・・・・


「・・・・ならそのペンを少し使わせてくれるか?」


それくらいいいに決まってんじゃーん!

二つ返事でヴェルダーさんに使い方を説明して俺の三色ボールペンを貸すと、目を見開いて「これはいい!!インクに浸さなくていいなんてすごい!どの角度からも書けるなんて!」と赤や青などに変えるたび歓喜の声をあげていた。


なんかかわいいな・・・・いや、女の子が好きですよ。


しばらくして満足したのか、俺にペンを返すと上機嫌で話してくれた。


纏めると、この世界には魔素とゆうものが存在する。

魔素は大気、土、水などの全ての物に宿るが濃度は様々らしい。

魔眼持ちの人や魔道具を使えば見ることができるらしいが数が少ないとのことだ。


魔眼・・・・・ちょっと欲しいじゃないか。


植物などは土地の影響を大きく受けるらしく、魔素の濃いところでしか育たないものもあるとのこと。

その魔素を含んだものを食べて魔力に変換し魔法を使うのだそうだ。

魔素は取り込みすぎても魔物化、人の場合は魔人化となるらしい。そういったデメリットもあるとのことで過度の取りすぎは禁物らしい。

だが魔素の濃い食べ物を食べ続けたり魔物を食べたりしない限り魔人化は殆ど起きないと言う。魔法を適度に使い、体内から魔素を出せば防げるようだ。

それにしても魔人化か・・・・どうなるんだ?


途中、コウが「マジ奇跡!」とか「不思議!」やら叫んでいたが・・・・・


不思議なんてない!!!全ては科学的に解決できるのだ!!!

不思議でや「なんとなく」とか学問はこの世界にないのか!!!

この謎、解明してやる!!!!


ん?そういえば大学があると言っていたな・・・・

明日、他の人に聞いてみよう。魔法に対する考えの違いがあるかも検証せねば!

いや、むしろ学問の存在を明確にせねば!!


俺達もレクチャーを受けて恥ずかしい詠唱を口に出しながら試してみたが全く反応がない。

それにはヴェルダーさんも驚いていたが、本当に移転したのであれば今は魔素が体内で処理されてるのかもしれないとのことだ。


よく考えたらこちらに来て食べたのは黄色の果実と夕食か。

消化も考えると明日には使えるかな?


明日はトロール討伐の証拠を探しに行っている間、時間があるとのことなので、もう少し練習してみよう。

ついでにキミヒサとアスナの捜索もしてもらえるらしい。

戻る方法も見つけないとな・・・・

あとは、森に来てから気になっていた事の検証。


そんな事を考えながら寝床につくと、ふと疑問が生まれた。


そういえばこの世界ってお金あるよね?


その日の夜はとても寝苦しかった。

熱い何かが体を巡っていく感じ・・・・

コウの唸る声も聞こえる・・・


それでも、疲れに負けて意識を手放した。

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