双顔の魔学師〜勇者討伐に召喚されたら弟がチートでした〜

第3話「外見のキモさより行動のキモさの方が引くよ」

俺たちは訳も分からず走り続けていた。

横目に見る草木は見たことないものばかり・・・・調べたい。なんだあの植物は・・・・

そんな好奇心を嘲笑うかの如く、蛇っぽい狼が追いかけてくる。

幸い1匹なので囲われたりすることはなく、どうにかなってるが、追われ続けている為インドアの俺にはそろそろ体力の限界である。

「兄ちゃん！スゴイじゃん！内緒でで走りこんでたの？もっと早くバテるかと思ったよ！」

はい？俺トレーニングなんか一切してませんけど・・・・とゆうか、そんなのはどうでもいい！

「コウ！そんなことよりヤバイぞ！このままだと俺のスタミナ切れだ！！」

「なんだー残念。鍛錬怠ってるからだよー」

マズイぞ！非常にマズイ！日頃の運動不足がここで悔やまれるとは！！

心臓のバクバクが体中を揺らしているようだ。

こんなことなら道場に顔を出しとくんだった・・・・

まあいい。後悔先に立たずだ。

このまま走り続けても直に俺の体力が尽きる。

選択肢なんてない訳だ。

・・・・一か八かやるしかない。これが夢落ちの可能性もあるが、そんな油断で死にたくはない。

考えろ・・・・・

蛇の皮の狼・・・・俺の体力を鑑みても武力行使は厳しい。スタミナ値が物凄く足りない。

こんなことなら肉を上手に焼いておけばよかった・・・・

そんな冗談はさておき、通用するかわからないが生物学的に攻めるしかないか・・・・

えーっと、蛇・・・・狼・・・・・単独行動・・・・見える牙は2本・・・・毒持ちの可能性も考えると・・・・・

よしっ！

俺は持てる知識を総動員して出した案を実行に移すことにした。

成功率なんて考えている暇はない。

俺は残るスタミナを振り絞り、近くの木に向かい駆け上がり後ろへ振り向き、そして・・・・

あれ？いないじゃないか・・・・

「兄ちゃん！仕留めた〜！！！！」

うぉい！！軽い！軽いぞ！弟よ！！

俺の決意を返してくれ・・・・

コウは長さ1mくらいの結構太い木の枝を片手に持ち蛇狼の体を踏みつけて抑えていた。

横たわった蛇狼の首にコウが持っている枝が、がっつり刺さってる。

うわ、親父に似て容赦無いな〜・・・・

「1匹だし兄ちゃんを囮にしたら簡単だったよ〜！」

非道い！！！！この子非道いよ！！！弱者を囮にするとか鬼畜！！！

枝の強度にも驚くが、なんかこいつ、動物より強いとか人間としてキモいんですけど・・・・

「爬虫類？やっぱりなんか変！こいつキモいわ〜」

お前がな！！

コウが嫌悪感を顔面に表しながら枝を蛇狼の首から抜き、そのまま枝でつついている。

こいつ、いつか「んちゃ！」とか言うんではないだろうか・・・・

はぁ・・・・なんでコウの周りには人が集まるのかわからん。強さ、友人、女性・・・男の欲しいもの総取りだ。遺伝子が同じなのに結果の違うことが萎える。

まぁ今更考えてもどうにもならんのだが・・・・

俺は恐る恐る近づき、謎の生物を改めて見てみた。

コウに同感。

確かにキモい。いや、異質さによる嫌悪が正しいか・・・・

刺された枝から滴るのはピンク巨人と同じ紫の体液。

死んでいることに安堵して近づくと、その異様さに余計に気持ちの悪い生物だと言うことがわかってきた。

サイズは尻尾を除いて1.4メートルほど。結構デカイ。よく見ると頭は蛇のそれではない。コモドオオトカゲっぽいな。コウの奴、普通にジャガーとか狩れるんじゃないのか？

全体的なシルエットは犬や狼のそれだが、部分部分に爬虫類の様子が見てとれる。表皮もよく見ると羽毛が申し訳程度に鱗の隙間から生えている。

そして、一番の特徴は・・・・足が6本。

生物としての特徴がおかしい。いや、地球の進化としては起きていないであろう進化だ。この手の異型を安定させるのは遺伝子組換えでも結構ハードルが高い。

いや、高すぎる。と言うことは新種？またはマッドな天才の道徳概念の無い研究の類か？

「コウ、よく倒したな。毒とか出さなかったか？」

「え？」

途端、コウの顔が一気に青褪める。

あ、こいつ可能性を考えてなかったな・・・

「全体的な特徴から爬虫類の変異の可能性が高い。基本的に傷を受けてなければ大丈夫だとは思うが・・・・」

みるみる顔が晴れていく。その様子で無傷なのだと安堵したが、同時にキミヒサとアスナのことを思い出した。

「とにかく1匹とは限らないな。アスナとキミヒサのこともあるから、一旦さっきの場所に戻ろう。道すがら蛇狼の末路を聞きたい。」

「そうだねー！行こう！」

俺も、もしもの為にと具合の良い枝を拾い、二人で元いた場所を目指して歩き出した。

蛇狼はコウから聞いた話では速度はそこまで早くなかったとのことだ。ただ反応速度は高く、茂みからの奇襲の初撃は避けられ2撃目で仕留めたらしい。

コウ曰く、最初から当たるとは思ってなく、初撃を避けた際の着地をめがけ突きを放ったらしい。

兄弟ながら頭がオカシイと思う。どんなネイチャージモンだ。

茂みに隠れていたことを気づかないと言うことは嗅覚はさほど高くないということか・・・・？

んー、そこもおかしいな。蛇は視覚と聴覚は弱いが臭覚は高いはずだ。まぁ蛇ではないのだが。

また蛇狼の容姿を見た限り、攻撃方法は爪と牙。歯が2本しか無かった所を見ると、丸呑みする狼といったところか。

そして群れで行動していない・・・だとすると毒持ちの可能性が高い。

機動力が高くない、反応速度が高い。

となると待ち伏せした獲物に突進し、牙で噛みつく。

やはり生物の戦闘方法は効率がいい。

群れていない以上、単独で狩るなら強靭な肉体か毒がいるだろう。

体の大きさ的に毒が無いと捉えてもいいが爬虫類の性質上、毒持ちの可能性も捨てれない。

そして、重要なのは他の個体との連携。

ただ群れから外れただけの群れの個体の可能性もある。

だが、一匹でいた所をみると毒持ちの可能性はどうにも捨てきれないな。

分からない・・・・調べたい・・・・

そのまま元来た道を戻ると、俺が落とし物をしていたので直ぐに元の場所だとわかった。

ここか・・・・

転がっていた俺のこだわり抜いた研究アイテムが入った黒の革のヒップバックにしまった。

日々のお手伝いやら自分の研究などで使う必須アイテムやら自作アイテムが入っている。

これは俺の宝であり武器だ！無くすわけにはいかない。

周りを見渡すがキミヒサとアスナの姿はやはり見えない。

俺たちと同じ状況なら近くにいていいはず・・・・やはりこれは夢なのか？

もし死後の世界だとしても、あの時二人ともピンク巨人の射程圏内だった。

逝くなら一緒だ。

まさか俺ら兄弟だけ地獄・・・・・とか？

「二人共いないね〜もっと奥かな？もしかして俺らと同じで此処から離れたのかな？」

コウが俺を確認し続けれる範囲で、辺りを枝でガサガサと探りながら一周回ってきた。周囲に手がかりすらないらしい。

「あ！携帯！」

ポケットからスマホを出し、確認するが案の定、圏外だ。

ここはどこなんだ？GPSすら使えない・・・・

こんなことならコンパスとか持ち歩けばよかった。

確か腕時計と太陽の位置で・・・・・・って覚えているわけが無い。

インドア研究者の定めかぁ・・・・

「とにかく目印を立てながら進んでみようか。どちらにせよ此処では安全の確保が困難だ」

「りょーかい！」

周囲から枝を集め小脇に抱え、一定の間隔で地面に刺して行く。

それは自然ではありえない枝の連なりなので振り向くと結構わかりやすい。

枝を刺していない、もう一人が進みながら新たな枝を回収し、無くなったら交代して刺して行く。

ここが大学、いや日本だと信じて、影の位置を確認し西へと進むことにした。ここが日本、いや北半球であれば、蛇狼の亡骸が出発地点から東に位置していたことになる。と思う・・・・・・・

亡骸の付近には別の生物が臭いに釣られ寄ってくるだろうから反対に進むことにする。

キミヒサとアスナは大丈夫なのだろうか・・・・

見ず知らずの深く薄暗い森の中を馴染んだ顔と歩いて行く。

不安感と劣等感と少しの安心感が混じる心の中で微かにでも輝く光を探して・・・・