第4話「デジャヴは繰り返し起こることもない」

俺はしばらく歩いた頃に腕時計で時間を確認すると、最初の位置(俺たちが気がついた場所)から既に2時間くらい経っていた。


道中、ウサギのような耳に角を生やした6本足の生物や、羽が生えているのに飛べないデカい芋虫などを見かけたが蛇狼と違い、戦闘には至らなかった。


疲労は少ないにせよ2時間・・・徒歩の速度が時速4km・・・・いや足場が悪いから時速3kmくらいか・・・とゆうことは6kmは進んでいる。そこまで歩けば当然喉が渇くわけだ。

結構進んだはずなのだが、中々森の終わりが見えない。

既に大学ではありえない距離を進んでいる。

この時点でここが大学の何処かとか言う戯言は頭から消え去っていた。


それにしても、この森は相当デカイな・・・・


「ねぇ兄ちゃん、喉渇かない?」


先に声をあげたのはコウだ。


「確かにそうだな。川とかありそうか?」


「わかるわけないじゃん!」


ッチ!野性的な勘でどうにか見つけてもらおうと思ったのに!


さて、どうするかなぁ・・・植物を潰して水分を調達することもできるが、何が毒かも分からない。

このままだと後2~3時間で日が暮れそうだ。マズイな・・・


「あ!」


そこからしばらく進むと、急にコウの足が止まった。コウの視線の先に目をやると、そこには丸い赤い果実が幾つか実っていた。横の木には黄色の果実も実っている。


おお!!やはり野性の勘あるんじゃないのか!?

その木に近づきよく見ると、果実のいくつかは既に何かに食べられているものもある。

毒の可能性も鑑みて辺りを見回してみるも、木の下や付近に生物の死体はない。

もしかすると食べれる可能性があるな・・・・・

だがこんな森なのに果実の減りが少ない気がする・・・・


「うわ!すげー良い匂いだね!これ食べれるんじゃない!?」


確かに・・・ゴクリッ・・・喉が鳴ってしまった。


いや待て、コアラ的なことはないか?

コアラの主食ユーカリ。

含有成分の中にはシアン化水素がある。これは世に言う

「青酸」

ただコアラの腸にはシアン化水素を分解する微生物がいるため問題ない。


まだ安全に食えるか確定してないな。

もう少し調べてみるか。


落ちた果実の中でも、半分食べられている果実を見て触らないように匂いを嗅いでみる。


甘い匂いだ酸味もありそう。赤の果実はなんとゆうかパインのような匂い。

黄色の果実は・・・ブドウっぽいな。


次に食べられている果実の歯型を確認する。

コアラのように特定の生物でなければ食べれない物かどうかを判別するためだ。


・・・・・・・・・・・これは危険な予感がする。


歯型は2、3個別だが、後はほとんんど同じ歯型。それも歯のサイズが異様にデカイ・・・・

果実の腐敗が一定。並べるとグラデーションのようになっている。

一定期間毎に食べているようだ。

肝心なのは一番新しいであろう残骸。

それは既に腐敗が始まっていた。


そして極めつけは地面の大きな足跡。


「コウ!すぐここから離れるぞ!!」


「え?なんで?うまいよコレ!!」


なっ!!!?すでに食ってやがる・・・・・木に登ってモリモリと・・・・


「お前なぁ毒とか考えないわけ!?いいから早く降りてこい!」


見る見る青褪めるコウ。

デジャヴですね。


「まぁ恐らく大丈夫だろう・・・・恐らく・・・・」


ドスン・・・・・・・


「え?」「兄ちゃん、なんの音?」


・・・・・ドスン!ドスン!ドスン!

徐々に近づく音に一気に汗が噴き出す。


キターーーーーー!!!!!!近づいてきた!!!!


「コウ!行くぞ!!!!」


「うぇ!?」


「グォォォォォッ!」


走る!とにかく走る!まだ姿は見えない。

追いついてきたコウが「え?なに?どうゆうこと?」とか聞いてくるが今は無視だ!!無視!!


バキバキ!ズザァアア!と木々を折り地面を穿ちながらついてくる音。


木々を折って進めるような体躯からしてあの歯型の持ち主であろう。

恐らく、あの果実は今追ってきている奴の食料だったのだのだろう。


全部は食べず期間を開けてゆっくり食べていた。

だから腐敗が一定だったのだ。

まぁずっとそこに居るわけではないので別の生物も食べていたようだが、減りが少なかったのはその為だ。

そして正に俺達のタイミングは最悪だったようだ。


「グォォォォォォォォォォッ!!」


徐々に音が近づいてくる・・・・・・バキバキバキ!!


徐々に・・・・・・ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


見えた!!!!・・・・・

泥で汚れたピンク色の肌。人型で頭から肩にかけて緑色の太い毛、2本の角・・・・・

ってか、あの・・ピンク巨人じゃないか!!!!


「兄ちゃん!やばい!あいつだ!!どうする!?」


追いつかれたと言うことは速度的にも逃げ切れない。

もしまともにやり合ったとしても、サイズ的に拳が掠っただけで大怪我確実だ。

だがこのままではジリ貧。

覚悟を決めるしかないな・・・・

あちらも生物。目や鼻、口もある。

人体に近い。大学で目の前で倒れていたのも首の切り傷が弱らせていた原因であるのは分かる。


恐らく、生物としての弱点は一緒のはずだ。


辺りの地形を確認すると前方に見たことない程の2本の並んだ巨木が目に止まった。


「コウ!この先の一際デカイ2本の木が見えるか!?」


「見える!」


「俺がこのままピンク巨人を引きつけて、あの右の木の周りをぐるぐる回る!その間に左の木に登れ!ピンク巨人の目線より少し高いとこで止まって合図!長野の熊だ!後は分かるな!?」


「オッケー!!!さすが!!」


そのまま目的の巨木に差し掛かり、右の木の周りを幹に沿って回り始める。

近づくと思ったより幹が太い。屋久杉より太いぞこれ。


「こっちだ!ピンク巨人!」


隙を見てコウが横に逸れた。

途端、どちらを追いかけるか迷ったピンク巨人は速度を落としていた俺に目がけ走ってきた。


こいつは案の定、ガタイは大きいが脳の発達は弱いな。


たのむ、何とかなってくれ・・・・・


巨木マラソンの2周目に差し掛かるあたりでコウが隣のもう一本の巨木登っているのが確認できた。

速度的にあと3周回ればといったところか。


だが、だんだん俺のペースが落ちてきた・・・・

マズイな・・・蛇狼での消耗が効いている。


4周目に差し掛かりコウを確認すると、見たことのない猿っぽい何かと戦っている・・・


マジカヨ!!!作戦失敗!!!想定外!!!

甘かったか・・・・

いや、ここはコウを信じるしかない。

あいつの強さは俺が一番知ってる。


俺が武道をやめた理由。


努力で埋まらない「才能」と言う壁を俺に叩き込み続けた奴。

自分で言うのもアレだが俺だって多少は戦える。

それは武道バカの父親の元に産まれた事による鍛錬の蓄積だ。

でもコウの剣はなんとゆうか・・・・先がある。

伸びしろ、変化。

アイツは打ち合えば打ち合うほど強くなっていく。

その点、俺はテンプレートを作ってしまう。

いわゆる必勝法ってやつだ。


最初うちは勝てた。

でも必勝法って固まってしまったら必勝法じゃないんだ。

いずれ必勝法に勝つための対策が生まれる。

俺がこれならと新しく練っても3日後には崩れる。

また作る。崩れる。

そんな物は必勝法必ず勝つ方法でも何でもない・・・・


そんな鼬ごっこに俺が先に折れてしまったのだ。

コイツには意味がないと。


だからムカつくぐらい知っている。そして信じている。アイツの強さを!弟の強さを!


俺はコウを確認する事も出来ないほど必死に走り、ようやく6周目に差し掛かった。


そして遂に幹でコウが見えないタイミングでアイツの声が聞こえた。


「兄ちゃん!!!待たせた!!!!」


「遅い!!」


疲労困憊でも微笑んでしまう。やっぱりコウは凄いな。


「行くぞぉぉっ!!!!!!」


回らない!この周は回らずそのまま左の木へ走る!涎をグチャグチャに垂らしながら追ってくる卑猥な顔のピンク巨人を引き連れて、コウの立つ巨木の枝の下を走り抜ける!


今だ!!!


「うぉりゃああああああ!!!!」


コウがピンク巨人の頭に目がけ蛇狼を倒した枝を逆手に持ち、落下の速度に合わせ振り下ろす!

ピンク巨人はコウの叫びに驚き、コウを視界に入れ止まった・・・・・・


タイミングがズレた!!?マズったか!?


ゴス!!!!!!


「ギャォォォォォォォォォォッ!!」


枝の半分程の長さがピンク巨人の目に一気に食い込んだ。恐らく眼窩は貫いただろう。

コウが素早く枝を離し飛び降りると、ピンク巨人は鼓膜を破るような大きな叫び声をあげ倒れた。

目を貫くことでの脳へのダメージ。

小学生の頃、バカ親父に長野の山奥でほっぽり出された時に遭遇した熊を倒した時の作戦をそのまま使わせてもらった。


俺の所に駆けつけたコウと無言のハイタッチ。

俺たちはその場から動かなくなったピンク巨人を見つめていた。

まだ息があるかもしれない。油断をしないように、スタミナの回復も含めてピンク巨人の動きを見る・・・・


「一瞬飛び降りのタイミングが合わないと思ったが成功だな!」


「うん、俺も思った!でもなんとか成功したね!んじゃこれでピンク巨人は終わったの?」


!!?フラグだ!言うな!言うんじゃない!!


「ゴガァ・・・・・・」


案の定、ピンク巨人は動き始めた!!!


ック!!生命力が半端ない!

もしかしたら怒らせただけかもしれない・・・・


だがピンク巨人は立ち上がろうとするも様子がおかしい。

フラフラしながらようやく立ち上がるも、先ほどの勢いはない。


「ゴガァッ!?ゴガ!ゴボ・・・・・」


そして急に泡を吹きながら首元をガリガリ搔きむしり出した。

強く掻いた首から血が滲んでいる。

それでも掻く手は止まらない。

次第にピンク巨人の首が自らの手で抉れていく・・・・

俺たちはその異様な光景に、後ずさりをしながら何時でも逃げれる体制をとりながら見ていた。


「ゴボァ!!!!」


途端、紫の血が一気に噴き出し、そして・・・・


「!?」「なんだー!?」


ピンク巨人は二、三歩進んだ後、大きな音を立て倒れた。


ピクリとも動かなくなったのを確認して、安心した。

生体の常識すら通じなければ対処のしようがない。

助かった・・・・・・


ただ、あの倒れ方はおかしいな・・・・もしや・・・


「さっきの木の上でやり合っていた6本足の猿みたいな奴らはどうやって倒した?それ以外とは戦ってないよな?」


「うん、あの猿だけだよ!蹴ったら落ちて気を失ってたよ!」


「そうか・・・・そうゆう事か・・・」


「え???兄ちゃんなんなの?どうゆうこと?」


「歩きながら話すよ」


スタミナの尽きた足が重い・・・・・


俺とコウは再び歩き出した。


命が助かったと言う安心感と未だ出口の見えないと言う不安を胸に。

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