第四場面-知識は鳴いて丸くなる
人は、一生のうちに何度他人を救うことができるのだろうか。
その人のためを想い、その人のために、自らを犠牲にすることができるだろうか。
真に他人を救うことは難しい。
真っ白な純粋な心ではなく、色のついたどこか不純な心を持った人間にとって、自らを犠牲にするなんて、他人のためを想うなんて。
しかし、愛する者に対しては出来るはずだ。
自身が愛する者を想い、自身が愛する者のために、自らを犠牲にすることが。
可能ではあるが、問題が全人類となると難しい。
どこかのマントとタイツを身にまとった超人的な男でさえ、敵は人間だ。
人間の心には必ずしも色がある。
そして、その色は絶対に白ではない。
人は心の色を白色に染めることはできない。
どこかに白に近い色があっても、それは白ではない。
白にはなれない。
では、透明ならばどうだろうか。
色がなかったらどうだろうか。
心が無かったらどうだろうか。
心が無い物なら、純粋に人を救うことができるだろうか。
その人を想い自身を犠牲にできるだろうか。
まあ、心がないなら想うことはできないのだけれど。
ああ、またここだー。
鶏の奴、まじで手加減がねー
品もねー
美しくねー
クールじゃねー
ミンチにするなんたて原始人の発想だわなー。
林檎も壊れたのかー。
蛙の奴は生きてやがるのかー。
蛙は逃げ上手だからなーくそー。
猫はカプセルから出ると、ぐっしゃりと濡れた髪をタオルで拭き、お気に入りの「ゲロッパ」と背中に書かれた半袖を身に付け、ズボンを履いて再生所を後にした。
メインデッキに着くと、既に林檎が赤いドレス姿で鯉に餌を放り投げている。
「遅いじゃない、十三支。」
最後のパンの耳を投げながら小馬鹿にするように首を傾げている。
「その呼び方やめろー。穴増やすぞ糞ビッチがー。」
チッ、と舌打ちしながら猫はコタツの上にあぐらを掻いた。
手についたパンカスを払いながら林檎の挑発は続く。
「その増えた穴で慰めてやろうか?童貞君。」
猫はイラついた感情を隠しながら、隠せてはいなかったが、彼なりの落ち着いた口調で返した。
「なんだよ、やけに喧嘩売ってくるなー。生理かー?」
あぁ?と林檎は自身の怒りを、冷えるような美しい首筋に反した声で表現した。
「誰のせいで今回、この私が壊れたと思っているの?あの糞鶏が来た時にお前がもっとましな反応をしていれば、こんなことにはならなかったわ。また私の美しい身体が、一つ無駄になるなんて。どれだけの罪か分かっているの?まあ、毛玉の分際で分かるわけないわよね。」
ごめんなさいね。と林檎が言い終わる前に猫は呟いた。
「斬」
猫が放ったこの言葉は、猫の口からするりと這い出てきて右の掌で止まった。
「もう一回言ってみなー。」
「あらぁ?元気満々じゃない。いいのよ、貴方の全てを受け止めてあげるわ。おいで?可愛い毛玉ちゃん。」
いまこの世界。 じんた @kujiranojinta
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