零零零壱•正義の卵







「正義」とは何か。


子供の頃の彼は、真剣に考えた。


何かを守ることなのか、悪を倒すことか、人を助けることか。いくつものヒーロー系の番組や漫画を読み漁った彼は、その全てに偽りを感じていた。


何故なら、どんなヒーローでも「殺す」からだ。


人を殺めるというのは悪いことだ。それがたとえ怪人や怪獣だとしても、それは突き詰めれば怪しい人だったり怪しい獣だったりする。


地球を攻撃してくる怪人や怪獣は悪者で、怪人や怪獣を殺すヒーローは善者。こんな事が正義であるはずがないと、彼は言う。


#


こんな問題を知っているだろうか。


君は、線路の分かれ目を橋の上から見ている。君の横には、線路の方向を変えるレバーがある。線路は2つに分かれており、片方には見知らぬ子供。もう片方には君の友人。


すると、向こうから列車がやってくる。君は、レバーを使いどちらかを助けなければならない。しかし、片方は助かっても片方は引かれて死ぬ。


この問題の意図は、所詮どんなに正義を語ろうと1人しか助けられないのなら、正義の心は自分の思い入れの強い方に傾くということだ。そんなものはただの欲であり、正義ではないと彼は言う。


#


それならば何が正義なのかと僕は彼に聞いた。そうしたら彼は、時折 鶏はこう答えた。


それは僕にも分からないのさ。多分誰も分からないさ。だけど正義は存在するのさ。何故なら、それは悪が存在するからさ。だから、今生きる全ての人類は今のところ悪さ。その悪には確かに、確実に僕は含まれているのさ。僕は、悪なのさ。


#


この世は今、正義を待っている。


溢れるほどの悪を蔓延らせて待っている。


誰も理解してない正義を。

誰も知らない正義を。

誰も持っていない正義を。




僕?


僕は、もちろん正義だよ。


誰もが知っている正義だよ。


君は悪だけどね?






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