第11話

「勝者、レオナール・フォン・グリューゲル!」


訓練場内の静寂が神官の一言により破られる。

一同が一斉にレオナールに視線を向け、そのままアスラに視線を移した。


「な、何だ…⁉︎あの青いファイアーボールは?いや、そもそもファイアーボールなのか⁉︎青い炎なんて聞いたことも見たこともないぞ…。」


口髭の立派な貴族が驚きに包まれながら声を漏らすと、それを皮切りに続々と意見が飛び交い始めた


「私も生まれて此の方50年になるが知らんな。青色・・の炎…鋼鉄の壁をいとも簡単に溶かすとわ…。いったいどれほどの熱量だったのか検討もつかんな。」


「いや、待ってください‼︎それよりも、レベル5の…しかも、召喚士の職業ジョブの者が無詠唱を発動させたのですよ⁉︎これは、王国…いや全世界における大発見ですよ‼︎レベルが低かろうと、無詠唱は本人の器量によって発動できる…それに魔術師でなくても恐らく発動可能だということも証明されたのです‼︎これは、大々的に世界へ発表すべきです‼︎」


「お前も落ち着け‼︎無詠唱の件もそうだが…まず青色の炎について考察すべきだ!ブリューゲル卿…これは、一子相伝の術式か何かなのですか⁉︎」


ジークとソフィアに、この場にいた貴族から視線を向けられる

しかし、ジークやソフィアに関しても初めて見た光景であり、心の整理が追いつかない状況であった


「も、申し訳ありません…。私達も…レオが…レオナールがあのような魔法を使うなんて思ってもいない状況でして…。」


ジークは、動揺を隠しきれない表情で貴族達に向け謝罪した。


それを聞いた貴族は、一同に顔を合わせ驚愕した


「…ということは、10歳になったばかりの子供が新術式を発見したというのか⁈天才どころの騒ぎじゃないぞ…。」


「そ、そうだな。これは王国始まって以来の天才…いや鬼才が現れたと陛下にお伝えせねば…。」


貴族達の論争が繰り広げられている中、訓練場内に一人の声が響き渡る


「ふ、ふざけるなーーーー‼︎」


…………。


盛り上がっていた場は凍りついたように静まり返った。


一斉に怒声の聞こえた方向へ視線を向けると、グラエス卿が我が子を抱き上げ怒りに震えていた。


「貴様、下賤な分際でアスラを…息子をよくもやってくれたな…。其奴そやつを引っ捕えろ‼︎生かしておけん即刻打ち首だ…いや、親子共々コケにしてきれた礼をせねばな…国家反逆の罪で全員打ち首だ。お前達さっさと動かんか‼︎即刻捕らえよ‼︎」


ドスの効いたような声で身近にいた私兵に命令すると、慌てたように私兵達が両親とレオナールを羽交い締めにする


「グラエス卿‼︎これは、どういうことですか⁉︎約束と違うではありませんか⁉︎」


ジークが羽交締めにされながらもグラエス公爵にくってかかる


「約束?知らんな?そんなこと、下賤な者共とした覚えなどないわ。そうだよな…?貴様ら…。」


グラエス公爵が観戦していた貴族や神官に向けて威圧すると、皆揃って視線をそらした。


は⁈いやいや、神官までおかしいだろ⁉︎神に誓うだの何だの言ってたのはお前だろ⁉︎そんなんで神だの何だの言えるのかよ⁉︎


周囲にいる貴族や神官達に怒りを覚えながら見回す


グラエス公爵は、視線が合うとニタリと笑みを浮かべた


「残念だったな。誰も約束なんぞ見ていないようだぞ?それに決闘もしていない。貴様がアスラを気絶させたという事実のみ残っているようだ。いい逃れできまい?…ふ、フハハハハ‼︎」


踏ん反りながら高らかに笑うグラエス公爵。


あっこれダメなやつだ。詰んだな。どうすればいいんだ?


『おい、主。俺たちも怒りが頂点にきてるんだが、あいつら焼き殺していいか?』


『温厚なおいらでもムカつくんだな〜。地割れで沈めてやるよ〜。』


『…………殺る?』


おぅ…。お前ら落ち着け…そんなことしたら本当に打ち首になるわ……でも、そうするしかないか?



そんな中、審判をしていなかった仮面をつけた神官が進み出てきた。



「私が証人だ。グラエス卿、決闘の結果グリューゲル家が勝った。対価は貸し1でも2でもといっていたな。間違いないはずだ。」


場が更に静まり返った。


あいつは、何を言っているんだ?と言ったような目で周囲の貴族は神官に視線を向け…グラエス公爵は顔を真っ赤にして目を見開いていた


「貴様、私に歯向かうとは良い度胸だな?神官だから大丈夫だとでも思ったか?貴様ぐらい握り潰すこともできるのだぞ?私の聞き間違いだよな?先刻、何をいった?」


「だから、アスラにレオナールが勝ったと言ったんだ。耳でも遠いのか?なら、さっさと隠居したらどうだ?公爵閣下様?」


神官は更に捲し立てる。

その光景に周囲は好奇な目を通り過ぎて青白くなっていた。


そして、それは俺や両親も例外ではない。俺たちの為に身体を張ってくれているのにもかかわらず、言い過ぎなくらい俺らの気持ちを代弁してくれたのだがこのままでは間違いなく不敬罪で打ち首になるだろう。


グラエス公爵は、怒りでワナワナと拳を震わせながら右手を前に翳した。


「もう良い。ここまでコケにされたのは、些か久しいわ。この場で焼き殺してくれる。」


右手の前にアスラとは比にならない程巨大で濃密な炎が出現し、瞬く間に神官に向け放たれた





………はずだった。



仮面の神官に当たる直前で炎が四散したのだ。当然、仮面の神官は健全であり被害を被っていない



「なっ⁉︎貴様何をした⁉︎」


グラエス公爵は慌てふためき声を荒げた


「あーあ。私に手を出してしまったな…。父上には貴様の方が国家反逆罪だったと進言してやろうか?」


「何?」


神官は微笑みながら顔を覆っていた仮面とフードを取り外すと、そこには金髪で蒼眼の容貌が整っている青年の姿があった。



「な、ななな何でこちらに殿下が⁉︎」



俺は初見であったため気付かなかったが、周囲を見渡すと驚愕した面持ちで全員がこうべを垂れていた。



…この出会いが、いずれアーリナル王国にて『王の懐刀』、『絶対なる右腕』、『龍王之統率者ドラゴンロード』、『龍皇』等と呼ばれる存在になるなど、今は誰も知る筈もなかった…。

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