第10話
神殿にいた貴族や神官達の観戦希望者と共に公爵家の地下訓練場に到着した。希望者とはいえ、貴族は全員で神官が2名…うち1名が仮面をつけた神官が立会人となった。
「ふん、実戦練習をしてきた私に抜かりはない!それに私の魔法の師匠は王国筆頭宮廷魔術師だ!貴様の薄汚い冒険者風情の両親とは違う。まぁ負けて終わったあとの心の準備でもしてるんだな!」
高らかに笑いながらアスラは訓練場の奥へと歩み…そして対峙する。
この世界では、一般的にはレベルが上の者には敵わない…といった固定概念がある。しかし、実のところでは、魔法レベル=強さが完全に成り立つわけではない。…というのも、確かにレベルが高い程威力や攻撃範囲が広い、魔力の量が多い等といった効果があるのだが、極一部の中にはレベル3の初級者がレベル4の同じ属性魔法の中級者相手に勝つといったことも可能なのだ。
主な家庭では、特に魔法の場合…魔法の師を見つけることから始まる。中には、独力で新たな魔法をイメージし術式を作成し、魔力の構築方法を発見する者もいるのだが…それは所謂天才という者だ。一般的には前者の方法で師匠から魔力の構築方法、術式等を伝授され初めて魔術師と呼べる存在となるのだ。
世間一般では、火魔法の初級魔法といえばファイアーボール等の攻撃魔法が挙げられる。その他にも、それぞれの流派や師匠の良し悪しによって魔法のパターンが多かったり、ファイヤーボールのみだが威力を増す方法を用いている人々もいる…千差万別と言ったやつだ。つまり、人それぞれ成長スピードが異なるらしい。
魔法も剣術も何のスキルでも言えることだが、レベルが上がるタイミングは、神のみぞ知るところの為本人の才能の有無や死線を越えた先の境地に至れる等様々な憶測が今尚飛び交っているのだ。そして、それはスキルレベル3から4へと上がる初級者の壁、5から6へと上がる中級者の壁…といったように上級者、達人、神域にもそれぞれの境目においてより一層高い壁が存在するのだ。
ちなみに俺の場合…魔法の習得は前者も後者も当てはまる。最初は、実際に俺も母さんから一般的な
静まり返る訓練場内…神官の1人が、俺とアスラの間に割って入り宣誓する。
「これより、アスラ・フォン・グラエス対レオナール・フォン・グリューゲルの決闘を執り行う。気絶、もしくは降参により勝敗を決することとする。また、勝敗による各々の取り決めを両者共に神に誓い守ることを誓うか?意義があるものはあるか?」
「問題ない。貴様如き、私に刃向かったことを後悔させてやる。牢屋ででも泣いて詫びるのだな。」
アスラは蔑んだ目で俺を見下した。今更ながら、鑑定によるとアスラの装備は、全て一級品のAランク防具や杖であった。イメージ通りのローブで魔術師の様相を呈している。対する俺はと言うと…言わずもがなである。
「私も問題ありません。よろしくお願いします。」
両者睨み合う中…神官の声が響き渡る。
「では、これより決闘を開始する。…始めっ‼︎」
開始の合図と同時にアスラは詠唱を開始し、彼の周囲には火の球…いや、真っ赤に猛々しく燃え上がる火炎の球が3つ浮かび上がる。
ニヤリと笑みを浮かべると共にアスラは火炎を放った
「死ねーーーーーーっ‼︎」
凄まじい勢いで目の前に飛び込んでくる火炎球。あっと言う間に着弾し、激しい爆音と熱量が訓練場内を埋め尽くす。
…訓練場内は、一瞬にして更に静まり返った。現在は土埃で視界は遮られているが、完全に直撃したため訓練場内にいる全員が息を呑んだのだ。
誰もがアスラの勝利を確信し、ソフィアでさえ我が子の安否を確認しようと今にも駆け出しそうにしているところをジークに止められている。
アスラは、余裕綽々と…勝ったと言わんばかりに腕を組み、土埃が舞っているレオナールの立っていた場所を伺っている。
…だが、次の瞬間青褪めることとなった。
土埃が終息すると、そこには傷一つつかず…レオナールが立っていたのだ。
一同驚愕し、レオナールの両親でさえも口を開けて呆然と立ち尽くしている。
「な、何が起こったんだ…?あれだけの爆発…ファイヤーボールなのか…⁈威力からしてレベル4なのは伊達ではないということか………だが、それを…その爆発をいったい…。」
貴族の一人が呟くように声を漏らす
アスラも例外ではなく、信じられないといった形相で呆然と凝視していた
「レベル4だとこんくらいか…上手くわざと服焼いてギリギリいなした感じにしようと思ったのにミスったな。もう少し手加減を考えないとな…。」
皆が気づかないくらい小さな声でボソッと呟き考察する。
アスラは、その間に我に返りレオナールに問い詰めた。
「き、貴様‼︎何をした⁉︎私の火魔法は、師匠からお墨付きをもらっていたのに…何故貴様は無事なんだ⁉︎」
「何をしたって言われても水魔法で守っただけですよ?何故無事かって言われても…これが私の実力としか言いようがありません。それにしても…これがアスラ様の全力ですか?」
「ふ、ふざけるな‼︎様子見の初手の魔法を防いだくらいで思い上がるな‼︎」
アスラは、怒り心頭の様子で罵った。…しかし、アスラの内心では、十分に詠唱し初手で勝負を決しようとしていたため困惑していた。
(「何なんだこいつは⁉︎私の本気を…本気の一撃をいなした⁉︎しかも、無詠唱だなんてふざけるな‼︎魔法レベル5の魔術師が無詠唱なんて前代未聞だぞ‼︎どうする…どうすれば……………。」)
実際、レオナールとの実力の差は明白であった。
10歳という若さで魔法レベル5にもかかわらず…さらには、召喚士が
そして、観戦していた周囲の貴族は、畏怖の眼差しでレオナールを見つめていた。
そもそも、無詠唱が使えることは魔術に関連する
実際のところ、レオナールの魔法のレベルは6であり上級者の域に達しているがステータス偽装しているため誰も気づいていないのだ。
「そうでしたか…分かりました。では、次は此方からいきます。」
右手を前に翳した次の瞬間…拳大程に圧縮された濃密な
アスラの放った火魔法とは段違いのスピードでアスラに迫り、右頬を掠めてそのまま少し離れた訓練場の壁に着弾する
アスラを含む全員が、着弾した壁に視線を向ける
分厚い鋼鉄で覆われていたはずの壁は、拳大の大きさの穴が開きドロドロに溶けていたのだ
「な、な、な、な……。」
アスラは、膝から崩れ落ち…自分に当たっていた場合を想像した途端に気絶した。
「勝者、レオナール・フォン・グリューゲル!」
こうして勝負は終わりを迎えた。
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