第9話

場の雰囲気が固まって数秒経った頃…ジークが我に返り再び俺のステータスを見入って話し掛けてきた


「レ、レオ…お前、これはいったいどういうことだ⁉︎大剣術も盾術も火魔法も習得しているだろうということは気付いていた。……だが、俺はてっきりソフィアとの子供だから魔法剣士の職業ジョブかと思ってたのに…召喚士だと⁈いやまて、召喚士だとするならば、何故大剣術も盾術も火魔法も…さらには知らぬ間に水魔法も10歳になったばかりなのに習得出来てるんだ‼︎しかもレベル5だと⁈」


ジークは、捲したてるように俺に詰め寄る。さらには、余程驚愕したのか貴族になってから他人がいる時には、一人称が私だったのに冒険者時代の口調に戻っている。


「父さ…父上落ち着いて下さい!水の魔法の件は、申し訳ありません!父上と母上を驚かしたくて黙ってました。レベルについても、恐らく中級者の域になっているだろうとは感じていました。」


やっぱりこうなるよね。ステータス偽装をした時に覚悟してたよ。そういえば、母さんは何も言ってこないな?


疑問に思い母さんのソフィアに視線を向ける


「ふふふ…レオは、天才なんだわ!流石、私の子供ね!いや、ジークの子供でもあるのか…私達の結婚は大成功だったのよ!ジークを見つけた私って最高!…」


延々と笑顔になったり真面目な顔になったりを繰り返し、完全にトリップってました…。


うん、置いておこう…。


そんな身内の対応は、さておき…周りも周りで大変なことになっている。


「なんだこれは⁈10歳の子供がレベル18⁈レベル18といえば学園にいる子供たちクラスだぞ‼︎」


「そ、そうだな。ダンジョンに入ることが出来ない歳だし…いったいどうやって上げたんだ⁉︎」


「いやいや、レベルの話ではないだろ!召喚士というのが問題であってだな…まだ我が国にも100人もいないだろうし…。それに、彼奴らは様々な剣術をしようにもひ弱で、魔法をしようにと魔力が魔法使いと比べると遥かに少ない……魔法なんか長い長い年月をかけて良くてレベル6が関の山の奴等だぞ⁈魔力弱いから召喚獣がいると言っても捨て石にしかならないのに…。」


「こ、これは…王国始まって以来の大事件だ。」


「あぁ…アスラ様が霞んで見える……」


…みんなやたらめったら言いやがって。こりゃ収拾つかないな…。


溜息を吐きながら眺めていると、ふと視線の右端から邪悪なオーラが二つ溢れてきたためハッと視線を向けると…グラエス公爵とアスラが歯軋りしながら顔を真っ赤にして睨んでいた…


あらソックリ‼︎…って、何故こうなる…泣いちまうぞ…。


「一度ならず二度も私を愚弄するなんて…‼︎父上‼︎こいつと決闘させて下さい‼︎必ずやグラエス家の方が有能であることを証明してみせます‼︎」


アスラは父…グラエス公爵に訴えかける


「そうだな…。此奴にステータスが及ばないともなれば、我がグラエス家の恥だ。許可する…実戦にて此奴に格の違いを見せつけてやれ‼︎」


グラエス公爵も完全に怒り奮闘だな。蛙の子は蛙ってやつか…。


「お待ち下さい‼︎決闘を許可するとはどういうことですか⁈決闘は15歳まで出来ないという国法です‼︎公爵自らが破られるおつもりですか⁉︎」


ジークが国法を盾に食ってかかる。


「そのようなこと…お前達が黙っていたらすむことだ。貴様ら全員他言無用‼︎言えばグラエス家の名の下に制裁を加える!」


なっ⁉︎そんな、無茶苦茶な‼︎


驚愕の表情を浮かべる面々…そんな中、唯一仮面を付けている神官が割って入る。


「場所は、どうなされるのですか?決闘場は使えませんよね?」


そうだ!決闘場も15歳からしか使えないじゃん‼︎やるな神官‼︎


「ふん、そんなものどうとでもなるわ。我が屋敷の地下訓練場を使えば良い。バレることはない。」


はい、解決しちゃいました…。

それにしても…決闘をやるにしてもわざとでも負けないと公爵家に何されるかわからないよな…でも、癪だな。


周囲は、もう決闘を行う雰囲気になっているためジークに耳打ちし確認する


「父さん、もし決闘するにしても公爵家にわざと負けないといけないですよね…?公爵家の方の顔を潰してしまう可能性がありますし、後で何をされるか分からないですよね…。」


ジークは、顎に右手を添えて眉を顰めた。


「いや、待て…。非公式とはいえ、多くの貴族が見るんだ。ここで上手いことレオの力を見せつければ将来何かしらの糧になる可能性がある……。少しあのバカ親子をからかってみるか…。」


ジークは、思案顔からイタズラを覚えた子供のように頬を緩ませた。


完全に屋敷で冒険者時代の話をする時の素の父さんに戻ってる…。俺としては、こっちの方が好きだからいいんだけどな。


『ハハハ!なんか、主のお前に似てるな!』


イグニス…それは父親なんだから似るところもあるだろ。


ジークがグラエス公爵に対し歩み寄り片膝をつきながら申し開きをする。


「グラエス公爵、決闘の件はグリューゲル家当主として了承致しました。しかし、不躾な質問構いませんでしょうか?」


「ん?……構わん。何用だ?」


グラエス公爵は、顎髭を撫でながら明らかにジークを蔑んだ視線で問いに答える


「ありがとうございます。公爵閣下の御子息と言えど、ステータスの差は歴然…決闘と言えど結果は明らかではないでしょうか?」



……………………………。


場が一瞬で凍りついた。


『あはは、やっちゃったのね。』


脳内でテラが呟き、イグニス達も笑っているが無視…今は、それどころじゃない。

父親の言動にその場の全員が冷や汗をかきながら呆然と流れを見守る。


「ほ、ほお〜…グラエス家が下賤な名誉貴族風情相手に負けるだと。……いいだろう、ステータスでは負けていようとも、我が近衛兵相手に実戦訓練し続けた息子に対しハンデの一つでも付けてやろうと思っていたが、気が変わった…。実戦も知らん若造が言ってくれる‼︎もし万が一我が息子が負けようものなら我がグラエス家の金でも何でもくれてやる‼︎」


グラエス公爵は、額に青筋を浮かべながらジークに激昂し罵った


絶対ハンデつける気なかっただろ…。てか、実戦訓練ならうちの両親の方が凄い気がするんだが…何せ元Aランク冒険者だぞ。


内心ツッコミながら考えていると、ジークは俯き頬を緩ませたあと、真面目な表情で返答する。


「畏まりました。レオナールが胸を借りるつもりで精一杯健闘させていただきます。もし万が一、レオナールが勝つようなことがあれば…お金は要りません。将来、グリューゲル家に対して貸し一つでどうでしょうか?」


淡々と語る父…ジーク。対して、公爵は…………言うまでもなく、噴火寸絶…。


「構わん‼︎貸しの一つや二つくれてやる‼︎但し、貴様等が負けた際には私に逆らった罪で投獄、貴族の称号を剥奪してやる!ここに居る皆が証人だ‼︎」


「ハッ!その条件で問題ありません。よろしくお願い致します。」


こうして、父親同士の前哨戦は終結した。

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