2033年8月21日午前11時56分
平野裕也が再びの原発震災のショックから立ち直る見込みはまだ無い。それでも、平野は「ご当地にならないで」で取り上げるべき、震災に埋もれたニュースを探し続けている。もう一人の担当者である森島麻衣は、いまだにどう平野に向き合えば良いのかわからない。ただ、あまり頼りにしないほうが良いと思って、平野と同じ作業をしていた。そこにやってきたのは「ご当地にならないで」のアナウンサー、秋吉満である。秋吉は平野の様子をちらりと見て、森島に話しかける。
「森島さん。岐阜県で地震が発生したみたいですよ。NHKを観てください」
森島は早速そのホームページに飛ぶ。屋根瓦の落ちた屋根。一階が潰れた木造家屋。
「これは・・・」
秋吉は、
「だけど、他局を観てよ」
と告げる。震災報道をしない方針の自社はともかく、他の民放も、岐阜県の地震についてはほとんど取り上げていない。
「なるほど・・・うん、分かった、取り上げる・・・かは分からないか。えっと、ヘリ飛ばすね。と、なると・・・」
森島麻衣は平野裕也に報告しないといけない。とにかく事務的に行こうと思った。
「平野くん」
「ふえ、は、はい」
森島麻衣は緊張していた。もう22年付き合っているのに、初めて会う人に話しかけるような気分だった。
「岐阜で地震が起きたの。取材、するね」
そのまま森島は視線をモニターに戻す。平野裕也は
「う、うん、いいよ」
とだけ言った。森島が取材部に電話をかけようとした時
「俺ダメだ」
平野だった。
「もう何も考えられないよ、森島さん。」
平野は唐突に森島に寄りかかって泣く。
「もうあんときの事ばっかり考えちまうんだ。・・・僕はどうしたら良かった。どうしたら、今度のを防げたんだ?」
森島はそのまま何も言わない。相槌を打つだけだ。このまま彼には、すべてを愚痴ってもらおうと思っていた。解決策は出せないけれども。一方の平野は、先ほどと同じようなことを何度も繰り返した。この状態が何分続いただろうか。やがて平野は泣き止んでいく。唐突に、
「やっぱり、語り継がなきゃ・・・」
と言った。森島にしがみついたまま、深呼吸する。ようやく起き上がって言った。
「予定通り、行くよ。行かないと、僕、死んじゃう」
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