2033年8月21日午前5時30分

 伊藤未知雄は困惑していた。何故か、審査員が来ないのだ。伊藤に審査員をやると申し出た人は、社内メールも含めて10くらいはいたにも関わらず、である。審査員は誰でも良いのだけれど、番組の上では重要なポジションだ。確保できないと困る。

「みーんな、寝坊してるんか」

 伊藤はため息をつく、そこは責任感を持ってほしかった。細木拓人は

「起こしてきます。リストください」

 と言った。伊藤が手渡す。細木拓人はすぐにスタジオの外に飛び出していった。

 しばらくして細木は帰ってきたが、連れてきたのは二人だけだった。

「番組制作部の人はわかったんですけど、他の部の人はだれが誰だか分からなくて」

 伊藤は

「これで、俺ら入れて4人か」

 と確認する。

「俺ら入るんですか」

「要するに、開いてるやつなら誰でも良いの」

「出演者、緊張しません?」

「するかもな。ただ、いつも見られていて、今後出演させるか品定めされてる感覚は、どうせみんな持ってるんじゃないの」

「じゃあ、関係者でも別にいいんですね」

 細木拓人は辺りを見回す。カメラマンと音声は無理。ADも、カンペを出したりするので難しい。再び二人はリストを見直す。伊藤は

「なぜこんなに人が来ない・・・」

 とぼやく。細木が

「昨日、気が張っていて疲れちゃったんすかねえ」

 と持論を述べて見るが、その声は困惑していた。

「で、安達陽介もまだ来ていない」

 それも大問題だった。思えば、ヘリコプターで迎えに行くのが、思いの外遅れてしまった。到着予定時刻は、番組放送の15分前、午前5時45分だという連絡があったが。足立さんいわく、もともとメイクするキャラじゃないので、準備の時間は気にしないでほしいとのことだった。ふと、細木がハッとした表情を見せる。

「ヘリコプターの運転手ですよ!その人を、審査員にすれば良いんです!」

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