2033年8月21日午前3時00分

 番組制作室の打ち合わせ用デスクに広げられた、施設の利用予定表を見ながら、伊藤未知雄、細木拓人、秋元ひかりの三人は頭を抱える。この時間になると、どんなに社会的に大変なことが起こっていて、これからこの国がどうなるかという不安に包まれた状態でも、免震装置付きの安心感あふれる社屋の中では、大半の人が寝ていた。少なくとも、3人にはそのように見えた。施設の利用予定表をみる限り、3時間以上避難者を受け入れられるようなスペースが見当たらない。もともと、少ない設備をローテーションして使っている会社だった。それでも、なんとか6時間以上何処かを空けることができないかと思案する。社長は

「唯一空いているのは、玄関の待ち合わせスペースかなあ」

 と言った。伊藤は

「しかし、避難者の内何人を、受け入れられるというのでしょう。大体、入り口なんですよ。出演者の方が入れなくなったらどうすんですか」

 と、言った。社長は、防災設備に力を入れるあまり、土地代に予算を振り分けることができなかったことを少し後悔した。しかし、こんな暗い気持ちになったときに、考え方を変えることを秋元は習慣化していた。今回は、防災設備に力を入れていたからこそ、こういう議論ができるのだと思い直す。しかし、受付から廊下を挟んで、ソファーと机のワンセットが2つと、立って使うテーブルが2つというスペースで何ができるだろう。

「あー!」

 今度こそ、社長を激しい後悔が襲う。

「社食や!もっと速く気づけばよかった!ああ、もう午前3時だよ。社食開くの7時だよ!ああ、11時の段階で気づけば、そこに泊めることができたのに!」

 後悔は細木と伊藤にも伝播する。どうして思いつかなかったのか考えた。おそらく、社員のためのスペースだという固定観念が強すぎたのだ。今時、社食を社外に開放している会社なんていっぱいあるにも関わらず、この会社では開放していなかった。社長は、自社のエレベーターが混雑するのを嫌ったのだ。

 かくして、避難者の受け入れをしないという結論に至った。三人ともしょんぼりしていたが、結論が出た以上、やらなければならない仕事がある。

「プランBですね」

「えっと、ヘリコプターで司会者迎えに行くんだっけ。運転手起こしてきます」

「えっと、僕らは、出演者を起こすんですよね」

「ああ、楽屋に居ると思う」

 3人は、午前6時からの生放送に向け、ついに動き出した。




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