2033年8月20日午後10時00分

 むちゃブリバトラーズの本番前、maicoと秋中レイは、スタジオの裏で妙に不安そうな顔をしている。愛川由美は、そんな不安そうなレイ様を見ているのがいたたまれなくなって、声をかける。

「あの、すみません。秋中さん、大丈夫ですか」

「実は・・・空気に負けるなと言っておいてあれなんだが、俺が空気に負けそうな気がしてきたんだ。」

「私もよ」

 maicoが同意する。

「震災の曲しか書けそうにないわ」

「うへへ、まあ、アーティストですから、いいじゃないですか~」

 渕川まみが、三人に声をかける。

「そろそろ本番です。スタンバイしてください」

 本番5秒前!3,2,1!

 そして、対決が始まる。ふたりとも神妙な面持ちである。その顔を見ていた愛川は、おもむろに、

「レイ様、震災の曲しか書けないかもしれないと言っていたけど、大丈夫かな」

 と、つぶやく。

「・・・え」

 渕川まみは絶句した。そろそろ、対戦する二人のプロフィール紹介ビデオが終わる。次は、作曲のテーマの発表である。ADが、テーマを教えろと急かしてくる。―このテレビ局のマニュアルには、大災害が起きているときに災害を彷彿とさせる内容を避けろということが書いてある。それに、秋中レイさんの言葉、努力、あのヘリコプターの運転手のこともある。ふたりとも震災の曲を作るという事態は、なんとしても避けたい。そう考えた渕川まみは、ひたすら固まる。渕川が何を考えているのか探るため、愛川は渕川の顔をひたすら覗き込む。彼女が代わりにADのもとに向う。ADは戸惑う。彼女がADに告げたテーマ、それは、

『電波ソング』

 だった。

「はあああああ?」

 そのテーマが告げられて渕川は叫ぶ。

「作詞の速さを見せたいんじゃなかったの?いい詩を速く書くところを見せたかったんじゃなかったの?て、いうか、なんで愛川がしゃしゃり出てんのよ!これじゃあ、歌詞に意味がないじゃない!」

「うあああああ、そうだったそうだった。ごめん。時間なかったから、つい・・・」

 渕川は反論できない。確かに、あのまま迷っていたら、番組の進行が危うかった。それに、電波ソングに意味がない以上、それっぽいワードを避ければ、災害ネタは回避できるだろう。しかし、これでよかったのだろうか。渕川は愛川をじっと見つめていた。





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