2033年8月20日午後2時15分

 秋元ひかりの昼食は、本人が思っていたよりも更に遅れた。南海トラフ巨大地震のせいである。このテレビ局の社屋は防災設備が多く、被害は小さく済んでいるが、それでも、非常時なので、社員にとって予想しやすいところに居ないといけないと考えた。そして戻ってきたデスクにいきなり電話がかかってきた。それに答え、そのあとうなだれ、今やっと昼食を食べ終えたのである―食べるのは速いのだ。

 彼女は、他局の状況を確認するために、報道センターに行く。多数のモニターがあるこの部屋では、他局の番組を一度に観ることができる。だから、普段からこの部屋に行って、他局の概況を眺めていることがある。社員にも広く知られていることだった。まして、今回の非常事態である。行かないというわけには行かなかった。だが、そこには人だかりができていた。

「どうして、みなさんはここに来たのですか」

 秋元ひかりはそのへんの数人に質問した。

「ここならいろんなテレビ局の情報が集まりますからね」

「いま、インターネットが使えなくなっているんですよ」

「え。」

 秋元ひかりは、手持ちの小さなバックからスマートフォンを取り出していじり始める。しかし、クロームは起動した。検索者が少なさそうな単語を調べてみようとしたが、思いつかないので「ああああ」と検索窓に入れてみたが、結果が出ない。しかし、自社のホームページには繋がった。他局のホームページにも繋がった。

「あの」

 秋元ひかりは叫んだ。

「インターネットのテレビ配信は、使えます!」

 驚きの声と歓声が上がる。一気に半数くらいの人が帰り始めた。秋元ひかりは、ようやくモニターの前に立つことができた。残っている人に言う。

「君たちも携帯端末で良いんじゃないの?それとも、他局の状況をつかみたいのかな?仕事熱心だね」

 残った群衆のひとりがぼそっという。

「いや、そういうわけじゃないんですけれども・・・でも・・・会社の電気を、情報収集に使うのは・・・気が・・・」

「大丈夫だよ。・・・大丈夫です!」

 秋元ひかりは告げる。

「確かに、本音を言うと情報収集ではなく、仕事に使って欲しいけれど・・・気になって仕事にならないっていうんなら、仕方ないかなあ。うん、情報収集に使っちゃっても良いよ。ただし、締切に間に合うようにね!」

 秋元ひかりはそのままモニター側に向かい、総務部に電話を掛ける。一分後、社内放送でも同じような旨が伝えられた。秋元ひかりはふうっと溜息をついて、モニターを眺め始めた。概況が分かればいい。通常放送に戻るタイミングが分かればそれでいい。それ以降はここには来るまい。前回みたいなことになるから・・・そんな覚悟を、固めながら。

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