流通在庫

青樹加奈

本編

 私はキディランド(大阪梅田にある大規模おもちゃショップ)のショーケースの中にそれを見つけた時、にーんまりとした。


(ふっふっふ、あった!)


 そこには、私が欲しくて欲しくてたまらなかったゲームソフトがひっそりとたった1本あったのだ。マイナーなゲームソフトの山に埋もれ、まるで私に見つけられるのを待っていたかのように、それはあった。


 ファミコンが発売された当時、既に社会人となっていた私は、ゲームをするまとまった時間がとれなかった。そこで、データをセーブ出来る「ゼルダの伝説」から始めた。私はカセットタイプのゲームでも、データがセーブ出来るようになっているとは知らなかったのだ。

 私が「ゼルダの伝説」をやっている間に、あるゲームソフトが進化を続けていた。私がゼルダをクリアした頃、そのゲームのセカンドが発売された。私はセカンドからそれを初め、ついにラスボスを倒した。しかし、ラズボスを倒した後、私には満足と同時に飢えた気持ちが残っていた。

 もっとこのゲームで遊びたい。未知の世界を彷徨いたい。この剣(コントローラー)でモンスターに斬りつけたい。まだ、開けていない宝箱を開けたい。まだ、使った事のないアイテムを使ってみたい。

 しかし、クリアしてしまったのだ。終わってしまった楽しい時間。

 私は新しいフィールド、新しい謎、新しいラスボスを求めてゲーム会社に電話した。


「次はまだ出ないんですか?」


「ただいま開発中です」


「あの、だったら『1』はどこで売っていますか?」


「弊社では完売しておりまして、現在は流通在庫しかありません」


 流通在庫。

 日本のゲームを売っているお店の、どこかにあるかもしれないシリーズ第1作目。私の頭の中に山口百恵の歌が鳴り響く。

 それから私は、時間があれば、大阪は日本橋(電気店が集まっている町、ゲームを扱っている店もたくさんある)を尋ね歩いた。しかし、なかった。あるわけないのだ。当代一の人気ソフト。あるわけない。

 だから、それをキディランドのショーケースの中に見つけた時、頭の中でメインテーマが鳴り響いた。気持ちは既に荒野を彷徨っていた。

 そのゲームの名は、





「ドラゴンクエスト」





(了)

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流通在庫 青樹加奈 @kana_aoki_01

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