部活、説立! ←違う。若干違う......
へこんでしまったコンクリ壁は、取り敢えず魔法で直しておいた。
本当に、あれほど派手な戦闘を繰り広げておいて、発見者がいなかったのは不幸中の幸いだ。
いや、もしかしたら見た人もいたかもしれないけど。
だけど多分、自分の目の錯覚だとでも思うんじゃないだろうか。俺が現場から戦闘の痕跡は消し去ったわけだし。
まぁいいや。話を先に進めよう。
そんな後片付けを終えた俺は、井蝶に自分の状況を説明した。
きっと驚かれるだろうとか、もしかすると怖がられるんじゃないだろうかとか、そういうのは覚悟の上で。
しかし井蝶は、大して驚いた風もなく、俺の話を聞き終えてしまっていた。
彼女曰く、
「だって詩矢成君、前に世界を一つ救って来たって言ってたし。何となく予想はついてたもん」
だ、そうだ。
......言ったよ。確かに言ったさ。
だけどなぁ。信じるか、普通?
「マーウちゃんだって、魔王・黒の王なんていう分かりやすい名前だったし、角もあるし、メドゥーサまで来ちゃったし、ここまでヒントを出されたら嫌でも分かるよ」
分からねぇよ!
現にお前以外誰も分かってなかったって!
本当にすげぇ奴だな、井蝶......
そんな井蝶と友達な俺って、どうよ。
やっべ。なんか俺の中で一番能力高いステータスになってるぞ、これ。
井蝶の友達ってな。
それはさておき、遂に俺たちの秘密を知ってしまった(何となく気付いてたらしいけど)こちら側の人間ができてしまったのだが......実のところ、俺はそこまで心配していない。
もちろん、井蝶は言いふらしたりなどしないだろうという信頼があるからだ。
何故そんな信頼があるのかって?
そりゃ俺と井蝶、友達だからさ。
友達は信頼できるよ。
後はケルベロスの処理をマーウに任せて、かがく支援部に入れば、ようやくあのバカ親父と母さんにも自信を持って顔向けできるってもんだ。
まだ当分帰って来ないだろうから、電話で伝えるだけだけど。
まぁそんなこんなでその日は井蝶を部活に戻して(心配がなかったわけではないが、井蝶に平気と言われてしまえば俺には止められない)、俺も一旦家に帰った。
もちろん、ケルベロスを連れて......である。
目が覚めそうになる度気絶させてやった。
体をぐるぐるに縄で縛り付けた上に
それで、ちょうどマーウと芽戸が帰ってきたくらいの頃合いに解放して、隣の家に行ってろとケルベロスには言っておいた。
余計なことは言うなよ、と散々に釘を刺してはいたのだが......
あのバカに理解出来たのかが後になって心配になったのは言わずもがな。まぁ大丈夫と信じよう。
あんまマーウに今日の騒動は知られたくなかったけど、バレるならバレるで問題はないか。
ただ何となく知られたくないってだけだったし。
とまぁ騒がしいハプニングが起こった一日ではあったが、何とか無事乗り切ることができたようだった。
正直、もうこんな出来事は起こってほしくない。
ドッと疲れが出たのか、その日は死んだように眠って......次の日。
◇ ◇ ◇
今まで言わなかったが、俺は普段、マーウと芽戸と共に登校している。
一緒に帰ってるのだから、何となく予想はついていたと思うが。
しかし今日は、いつものようにマーウの家に行くと、マーウと芽戸は既におらず、代わりに一人、ケルベロスのみが家の番をしていた。
俺がしたように、全身縛り付けられて。
しかも、嬉々とした表情で。
あまりに気持ち悪かったものだから、俺は何も見なかったことにして扉をそっと閉めた。それはもう、最初から俺なんて来なかったかのように、音を立てず、そっと......である。
そりゃあ思春期のレディー二人だけの家に、男が一人だなんて絶対に状況的にヤバいが、しかし何も、縛り付けることはなかったのではないだろうか。
一応、忠実なんだし。
......まぁその忠実が、縛り付けられて尚笑顔という気持ち悪い状況を生み出しているのだが。
そういうわけで俺は今日、またまた久し振りに一人で登校してくることになった。
俺が教室に入って来るのを見て、不機嫌そうな表情になったマーウに向けて、俺は声を掛ける。
「なぁマーウ」
「ぶっ殺すぞ」
「早ぇよ!」
まだ何も言ってないじゃん!
「ふん、マーウちゃんに気安く話し掛けるな、裏切り者が」
芽戸......俺ってそんな認識だったのか?
すげぇ精神的にキツイんだけど、裏切り者って。
まぁこの二人の反応だと、ケルベロスは昨日の出来事をバラしていないようだな。
ちょっと安心。
「おはようございまーす。あれ、喧嘩ですか~?」
と、一方的に俺が罵倒され続ける戦場に、ニュープレイヤー、タヌキが参戦してくる。
あれで。格ゲー的なノリで。
「駄目ですよ、詩矢成君。女の子をいじめちゃ」
→→↓↑←←+Pで《
「先生は眼科に行ったほうがいいですよ」
もしくは公式サイト。
弱体化受けやがれこん畜生。
「でも、何かあったのは確かみたいですね。どうしたんですか?」
「まだ何もなかったのに、勝手にマーウと芽戸がキレてるだけですよ」
言って、俺は二人に流し目を送った。
「「ふん」」
同時にそっぽを向く。
どんだけ俺嫌われてんだよ。
そんなにマーウの部活作るのを諦めたのが大きかったのか?
「――おやおやぁ。どうやらうまくいってないようですな、詩矢成殿」
中々例の話に持っていけず、困り果ててしまっていたところに、タイミングよく井蝶が登校して来た。
流石は俺の友達。なんてナイスタイミング。
口調はまぁ、浮かれてるってことで。
俺も合わせるとしよう。
「そうなのですよ、井蝶殿。一体如何すればよろしいのでしょうか?」
「どれ、任せてみたまえ」
てくてく、と俺に代わってマーウらの前に出ていく井蝶。
明らかにおかしい俺と井蝶の態度に、芽戸が不審な目を俺に向ける。
マーウは井蝶に。
「二人の間に何らかのフラグが立ったような気がするのだ......」
「......!」
マーウの呟きを聞き、井蝶はピクッと動きを止めた。
うん、俺も内心冷や汗が凄い。
どうしてこいつは変なところで勘がいいんだ。
それよりどうしてお前はフラグなんて言葉を知っているんだ。
「――こほん、ど、どうやら詩矢成君がお困りの様子なので、私が手助けをしようと思います」
「蓮ちゃんが、バカの?」
あいつとかこいつとかいう代名詞が消えちゃった。
俺の固有名詞がバカになっちゃった。
「そうそう」
「認めんなよ!」
「へたれの」
「固有名詞がまたもや書き換えられた!?」
井蝶はボケサイドに回るのか!
俺の仕事が増える!
「うーんとね、詩矢成君、部活に入るんだって」
いきなりぶっちゃけた井蝶の言葉を聞いて、マーウはますます不機嫌そうに顔をしぼめた。
「......知ってる。蓮ちゃんの陸上部、入るんでしょ」
「あ、違う違う。詩矢成君ね、私のとこに入るんじゃないの」
「じゃあニート部にでも入るの?」
「え? そんな部活なかったと思うんだけど」
あぁ、駄目だ。井蝶にツッコミはできねぇ。
人が良すぎてツッコめないなんて、憐れ過ぎる......!
「とにかく、詩矢成君はね......」
「井蝶、ありがとう。もういいよ。やっぱそれは、自分で言わなきゃいけないだろ」
危うく本題を言いそうになった井蝶を手で制しつつ、俺は言った。
自分で決めたことなのだし。
この話にどうやって持ち込むかが難しかっただけだから。
笑顔で「うん、頑張れ」と言って下がった井蝶と代わるように、俺は再びマーウの前に立つ。
やはり、こうなるとマーウはそっぽを向いてしまったのだが......話の重要さを何となく悟ったのだろう。
今度は何も言わず、ただ黙っている。
「――マーウ」
「なに」
「俺......かがく支援部に入ることにしたから」
「そ......え?」
アーモンド添えとか、そういうのではなく、ただ純粋な驚きの表現として、意味の分からない言葉を発するマーウ。
マーウだけではなく、芽戸も目をまん丸にして驚いている。
タヌキは笑っていた。
まるで、こうなることを最初から分かっていたかのように。
俺がかがく支援部を作るのを認めた時から、俺はこいつの手のひらで踊らされていたってことか。
いや、まさかケルベロスのことを予測していたわけではないだろうし、手のひらで踊らされていたってのは違うか。
最終的にはこうなると確信していたといったところ。
「それと......ごめんな」
「な、なにが」
「お前が必死に部活を作ろうとしてるって知ってて、諦めちまったことだよ。本当にごめん」
頭を下げて、俺は言った。
そんな俺を見て、マーウはようやく正気を取り戻したかのように喋り出す。
「そ、それより! お前がかがく支援部に入るって......嫌だったんじゃないのか?」
「嫌だった」
「じゃあどうして?」
「頑張ってるお前を......放っておけなかったってだけだ。俺が入れば、部活は設立できるんだろ? なら、俺はお前のお世話係だからな。面倒見てやんなきゃいけないんだよ」
便利な言い訳だ。
だけど、お前が羨ましかったからなんて、言えるわけがない。
「そうか......勇、そうか......」
感無量といった感じで、芽戸は俺の肩を叩く。
こいつも、マーウが必死に部活を作ろうとしてたのを知ってたから、嬉しくてたまらないのだろう。
「本当に、本当になのか!?」
「本当だ。俺はかがく支援部に入るって」
徐々に、マーウの顔にも笑顔が現れ始めた。
あそこまで必死に頑張った甲斐があったと、そう思っているに違いない。
それを感じ、俺の顔も自然と笑顔が零れて来た。
「部活動設立、おめでとうございます」
タヌキがマーウにそう言って、遂に糸がプツンと切れたかのように、マーウは叫びを上げた。
「やったぁ――――!!」
それは教室中どころか、三階中、あるいは校内中に響く叫びだった。
正直、近くにいた俺たちは耳が痛い。
「うるせぇうるせぇ。少し小さく」
「やった! やった! やったった!」
教室を跳び跳ね回りながらリズムを刻むように言わんでも、お前の喜びは充分分かったから。
頼むから落ち着け。
「おいマー」
「勇!」
なんと。
信じられるか?
マーウが、俺の名前を呼んだのだ。
勇......と。
ダンプカーに生身で衝突していくより、衝撃的だ。
いや、ダンプカーに生身で衝突したことなんてないけど。
取り敢えず、それくらい衝撃的だったってこと。
「私、お前のことが大嫌いだけど、ちょっとだけ好きになったぞ!」
マーウは、赤い瞳をキラキラと輝かせながらそう言う。
近いです。すっげぇ近いです。
超至近距離で、背伸びまでされながら言われてるから、顔と顔がくっついちゃうくらい近いです。
「そ、そうか。うん、それなら良かった」
サッと一歩距離を置きつつ。
ふぅ。焦るぜ。お前みてくれはいいんだから、ちょっとドキッとしちまったじゃねぇか。
もういっそあのままの勢いでキスの一つでもやっと
「詩矢成君?」
ごめんなさい。そうだったそうだった。俺の所有権は井蝶にあるんだった。
大嫌いな奴とキスとかありえないよな、うん。
「よし、マーウ!」
「なんだ!」
「よろしく!」
「こちらこそ!」
「「あはははは!!」」
二人して笑う。
なんだろうな。
俺は確かに、マーウを面倒で迷惑な奴だとは思ってるけど。
嫌で大嫌いだと思ってるけど。
羨ましくも思ってるし。
一緒にいるのは、けっこう楽しいかもしれない。
こうして俺は部活に加入し、『快適な学校生活を苦労しつつ支援する部活動』......略してかがく支援部は、設立されたのだった。めでたしめでたし。
......なんて風に物語が終わるわけじゃないぜ。
言っておくが、全然めでたしじゃないからな。
だってさ、俺ら部活の件ですっかり忘れちまってたけど......
一週間後、中間テストがあるんだぜ?
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