生徒会長の一存! ←確かにそうなんだけどな......
ケルベロス。
魔王軍最強の幹部三人衆の内、最もバカな男であり。
魔王軍最強の幹部三人衆の内、最も忠誠心の高い男。
それは正に、犬のような。
魔王軍の、番犬である。
◇ ◇ ◇
さて、新キャラが登場したからといって、そう急激に物語が進むわけではない。
あくまでも、ケルベロスはゲートを通ってこっちにやって来たというだけのことで、実際にケルベロス自体を見つけられたわけではないのだから。
それに、芽戸やマーウの証言によると、番犬であるケルベロスは、命令なしにはほとんど勝手な行動をとらないらしい。
もちろん信じきったわけではないが、俺も学生。
色々と忙しいので、その時は仕方なく、家で大人しくしていることにした。
正直心配で気が気でなかったけど。だけどまぁ、魔王軍一の忠誠心を持つケルベロスのことだ。
いずれ自然と、マーウの前へ姿を表すだろう。
というわけで、次の日の放課後。
「――さて、ここがあなたたちの部室ですよ~」
「まだ予定ですけどね」
タヌキに連れられて俺たちが入って行ったのは、一階にある学習室だ。
特に普通の教室と変わらない、極々ありふれた教室。部室として使うには少し広すぎる気もしないわけではないが。
各階に一つずつあり、その階の学習室はその階の学年が使用するのだが......ここ一階は、様々な用途の教室(理科室や技術室なんか)があるだけで、学年が割り当てられていない。
必然、誰も使うはずなく......廃れている。見た目上はそうでもないが、細部をよくよく見ると、かなりの汚れやほこりがたまっているのが分かる。
そんな一階の学習室を今回、マーウらかがく部の部室として使おうということになったのだ。
まぁ、教室にしても使って貰えて嬉しいところだろう。
別に教室の気持ちなぞ分からんが。
「つーか、なんで俺も部員みたいな扱いなんだよ。おかしくね?」
「えぇ?
「違うよ!」
まぁそりゃ、部員集めを手伝っていたわけだし、勘違いされてもおかしくはないのかもしれないけど。
そういえば、聖杯じゃなくて先輩に直ってる。よっしゃ。
心のなかで密かにガッツポーズを決めた俺を横目に、いつの間にやらすっかり打ち解け、機嫌を直した様子のマーウが、先のブリットの質問に答える。
「こいつは私の下僕だ」
パシィ!
「い、痛いぞ! 何をする!?」
「なに、頭をちっと叩いただけのことだ。どうせお前には脳細胞が数匹しかおらんのだから、別にいいだろう」
ゴキィ!
「い、痛ぇな
「なに、首をちっと捻っただけのことだ。どうせお前には友達などおらんのだから、別にいいだろう」
「よくねぇよ! 友達いないからって殺してもいいわけじゃねぇんだぞ!」
ぺし。
「む......ブリット、何をする」
「いやぁ、流れ的に、やらなきゃいけないのかなぁと思いましてぇ」
「締まらねぇな!」
......と、本当に締まらないまま、こんな下らん会話は終わる......はずだった。
ポンポン、とブリットの肩が後ろから叩かれる。
「ふぇ?」
「――なに、ちっと気になる部活を見つけたのでな、ちょっかいを掛けに来ただけのことだ。別に私が様子を見ても、構わんのだろう」
あれ?
今ここにいるのって、俺と、マーウと、芽戸と、ブリットと、タヌキ......だよな?
タヌキはこの茶番に参加していなかったわけだし......じゃあこの声の主は一体誰なんだ?
皆が一斉に、ブリットの後ろに立つ者を見る。
長身で、黒い髪をポニーテールに結んだ、モデル顔負けの凄まじいスタイルと美顔を持つ、一見運動系の女子。
その身に纏う制服は......まさに、着ているのではなく、着られている、といった感じ。着こなしている。
着させられてもらっている。制服が。
ニヤリとした笑みを漏らしてはいるが、それさえも一つの芸術作品かのように様になっている、その女性は......
まさか。
「――申し遅れた。私は
「生徒会長ぉ――!?」
びっくり仰天である。
叫んだのは俺だけだけど。
てか、他の奴らは知らないんだっけか、会長のこと。
「誰だ、この人」
「マーウちゃん、生徒会長というものはですね、先生を除けば、その学校内で最も強大な権力を有する者のことなんですよ」
確かにそうだけど、もっと他に言い方があっただろう芽戸。
「ということは私の敵か。がるるるる」
「血の気が多い!」
お前魔王だからって、強大な権力を持ってる奴を直ぐさま敵認定するのやめろ!
会長も少し困惑気味じゃねぇか! お前のせいだぞ!
「でもぉ、なんだか強大なボスっぽい雰囲気はありますよねぇ~」
「ぐ......」
お、マーウが悔しがってる。珍しい。
「わ、私だってまお」
「それ以上は言わせんぜマーウ!!」
あ、危ねぇ......俺が慌てて声を被せなければ、どうなっていたことか。
「そうですね! マーウちゃんはとっても可愛いボスですよ! 私が保証します!」
「そ、そうだな! 私は可愛いボスだな! あはははー!!」
芽戸、ナイスフォロー。さすがだぜ。
「......というか皆さん、先生の存在忘れてないですか~?」
「「すっかり」」
全員口を揃えて。
妙な部分だけみんな気が合うのな......
......とまぁ、いつもの調子でコントを続けていると、何故だかまったく分からないが、突然会長が腹を抱えて笑い出した。
「はっはっは!」
随分と男らしい笑い声である。
「ど、どうしたんですか会長?」
ワライダケでも食ったのかな?
「いやぁ、実に面白い面々だと思ってな! うん、面白い! はっはっはっは!!」
「そうですか......」
地味に俺の肩めっさ叩かれてるんですけど。痛い痛い。
なんか小学生に太鼓○達人やらせた時の連打~ばりに肩叩かれてるんだけど。
どんな腕の筋肉してやがんだ。
それにしても......
「この前壇上に立っていた時とはまた、だいぶイメージ違いますね。ボーイッシュというか」
あの時は結構清楚な感じだったと思うんだが。
キレた時も一応敬語使ってたし。
「む? やはりそうか? いやぁ、みなにもそう言われるのだが、幼少より仕込まれたこれは中々治せんでな。ああいう場では意識しているのだが、気を抜くと直ぐこれだ。いっそのこと、普通の生活ではこのままでいこうと割り切ったのだが......変か?」
「いえ全然」
幼少から仕込まれたって何だよ。
忍者の家系だからなのか? くの一はみんなそんな口調なのか?
さっぱり分からん。つか忍者の家系のくせに、天才発明家なんだろ?
もう設定がメチャクチャじゃねぇか。
とかいうことを実際に口に出すわけにもいかないよな。
だって会長だぜ? ヤバいって。絶対ヤバいって。
「それで、一体どうして九条さんはこんなところへ来たんですか~?」
ゆるーい感じで、タヌキが聞く。
「うむ。先に言った通りだが、この部活が気になったのだ。かがく支援部......とかいうのだろう、ここは。発明家であり、言い換えれば科学者でもある私にとっては、かなり興味をそそられる内容であったのでな。そうだ、良ければ......」
「へーそうなのかーふんふん」
てきとーに相づちをうっていたマーウだが......
「――私をこの部に入れてくれても構わんのだぞ」
「ほえー、それはすごい......へ?」
今、なんつったこの人?
「え?」
思わず俺も、驚きの声を漏らす。
「どうした。言い方が悪かったか? なら言い方を変えよう......」
いやそういう問題じゃないんですけど。
待て。何故こちらに頭を下げる。マジで? これマジでなのか?
「――私を、かがく支援部に入れて下さい!」
「「えぇ――!?!? すぅ......え、えぇ――――!?!?」」
俺とマーウ、息継ぎからの二段階の絶叫。
いやもう、びっくり仰天なんてちゃちな言葉では表せんぞ、この驚きは。
ラピ○タを発見したパ○ーより驚いてる自信がある。
もう今日一日何があっても驚かないね。この驚きが衝撃的過ぎて、他の驚きなんかもう驚きじゃねぇ。
大体『へぇ』くらいの言葉でいける。
テスト0点なんか全然余裕で『へぇ』だぜ。
ラ○ュタなんて『ラピュ○は本当にあったんだ。へぇ』だぜ。
って、そんなどうでもいいこと考えてる場合じゃねぇだろ!
「いや! いやいやいやいやいやいやいや!!」
酷いことされてる女の子みたいな台詞だが、もちろんそんなのじゃあないぞ。
俺が言ってるわけだし。
「まず先に言っておきますけど会長! この部活科学と全然関係ないですよ!?」
「そうなのか?」
頭を上げて、きょとんと首を傾げる会長。
俺は振り返ってマーウに目線で『例の紙を見せてやれ。いや見せろ。今すぐ!』との伝達を送り、即座に返って来た『イエス、サー!』という返信を受け、サッと再び会長に向き直り、後方のマーウを指差す。
「――見てください会長! これが、この部活の内容なんですよ!?」
「この......魚の骨が?」
はぁ? 骨?
もう一度振り返り、マーウを見ると......
「いやぁ、今日の給食の『さばのみそに』は実にうまかったな!」
「お前は何を出しとんじゃボケぇ――!!」
「だ、だってお前が、『最近食べたもので一番美味しかった物を出せ』って目で言うから......」
「そんなピンポイントなアイコンタクトがあるかぁ――!!」
「マーウちゃん。洗濯が大変になるので、胸ポケットに色々仕込むのはやめて下さい」
「あ、私もよくありますぅ~。何かポケットに入れたままにしててぇ、そのまま忘れて洗濯に出したら、お母さんに怒られちゃうんですよねぇ~」
「ねー」
「『ねー』じゃねぇぞマーウ! なんであるあるトークで和んでんだ! そもそも、美味しかったからといって鯖の味噌煮の骨をポケットに仕込むのはおかしいだろうが! つか、上手く作ればあれって実は骨まで食えるんだからな! 覚えとけ!」
地味に豆知識。
家庭スキルとツッコミスキルの高い俺だからこそできる芸当である。
「――あっはっはっは!! いやはや、やはり面白い! 実際部活がどんな内容であろうとも、この部はよいものになりそうだな! はっはっは!」
「会長の感性ヤバいですよ!」
この部は奇人変人の集まりなんですぜ!?
いやまぁ、どうやら会長も凄まじい奇人のご様子なので、案外加入には相応しいのかもしれないのだが。
それでもやっぱ、生徒のリーダーなんだから、こんな部活に入部するのはマズイだろう。
「そもそもぉ、会長はどうして部活に今まで入ってなかったんですかぁ~?」
『ぽけー』っとした、つまりいつも通り......に若干プラスで不思議そうな感じを加えた口調で、ブリットが会長に問う。
「めんどくさかった!」
「「部活入らねぇ奴が大体言う台詞だ!」」
おぉ。
ブリットとツッコミが被った。珍しい。
そうか、ツッコミもできるブリットとなら、俺と一緒にツッコめる場合もあるのか。
やったぜ。
俺が一人で感動中なのをよそに、会長は重そうに再び口を開いた。
「――しかし最近、部活に入らないというのは成績に響くらしいと知ってな。急いで部活に入ろうと思ったのだが、流石に三年生ともなると、承諾してくれる部も少なく......正直、ここが最後の希望なのだ」
肩を落とし、若干潤んだ目で言う会長。
最近知ったって......逆にどうして今まで分からなかったんだ?
もうどうしてあんたが会長になれたのかまったく分からねぇよ。
「詩矢成......君か? 頼む! 私をかがく部に入れてはくれないだろうか!」
名札を見たのだろう。名前を呼び、会長はそう俺に懇願する。
でもなぁ。そもそも俺、部員じゃないし。
困ってしまったので、ここは一応、そこら辺を総括しているマーウに視線を送る。
「最初とだいぶたいど違うなぁ。どうすればいいとおもう?」
「別に、入れてあげたらよいのではないでしょうか。今は何より、部活動設立のためにも部員が必要なのですし」
「そうですよ。顧問の先生としても、生徒会長が部員にいるのは非常に頼もしいですし」
「私も賛成ですぅ~」
「うーん、そうだな!」
ポン、と手を叩き、思案気だった顔を笑顔に染めて、マーウは会長を示しながら言った。
「――生徒会長、九条......なんとかさんを、かがく部の新たな部員として認める!」
「九条......
言って、会長はマーウに向けて手を差し出した。
すげぇ。
トラウマのはずの下の名前を名乗った。
ちゃんとしてるなぁ。
「よろしく!」
ニッと笑い、マーウはその手を叩く。
いや多分、それ握手して欲しかったんだと思うぞ。
そう思ったが、声に出すほど俺も野暮ではない。
それはともかく、部活動設立まで、あと一人。
◇ ◇ ◇
後で気付いたけど、会長ってマーウの角についてまったく触れなかったよな。
疑問に思わねぇのか疑問なんだけど。
いやまぁ、マーウの角ってもう校内じゃ結構有名っぽいから、生徒会長も当たり前のように知っていたってだけかもしれないけど。
そんなことをつらつらと一人考えつつ、そして部活動設立まであと少しとはしゃいでいるマーウと、それに構っている芽戸の姿を横目に見ながら、校門から出て家への帰路を辿ろうとしていた時だ。
今日は放課後のかなりの時間を学校で過ごしてしまっていたためにかなり沈んでいた夕日の奥から、一つの人影が現れた。
せっせっせっと走り、徐々にこちらに近付くその影は......
「――あれ、詩矢成君? 今帰るとこ?」
「い、井蝶?」
もはやその超人的なステータスの説明は不要であろう、
汗が出ているせいか、体にピッタリフィットした部活用のTシャツがヤバい。
くっきりパイ乙の形をかたどってる。
しかも走ってたからさ。もうね。もう、ね。それが揺れてね。
え、エロすぎる......
「うん? どうしたのかな詩矢成君、その目は......? さては君......」
「いやぁお前って運動部だったのか意外だなぁ!」
「え、うん、そうだよ。今は外周中」
と言いつつ、まったく息を切らしていない井蝶。
しかし......危なかった。バレるところだったぜ。
いやまぁ、疑いはかけられているのだけれど。
というかもはや、確信していらっしゃるのだろうけど。
だけどな、こういうのは知らないフリしときゃいいんだよ知らないフリしときゃ。
「そういえば詩矢成君、君ってマーウちゃんの部活ができた後、入る部活って決めてるの?」
「いや、決めてないぞ? 俺は何も見てないぞ?」
うわ、すげぇテンパってんじゃん、俺。
心のなかはすげぇ落ち着いてるのに。なんでだろ。
俺の視線、全然泳いだりしてないのに。一点のみを集中して見てるのに。
「そ、そう。私の胸ばかり集中して見てる気がしないこともないんだけど」
「そんなこたぁあるわけございませんぜ井蝶殿ぉ!」
おっと、時代が遡ってしまった。
「――ふーん、そう。まぁいいけど」
「うっしゃ」
小声で。
お心が広い......広すぎるぜ......!
「それで、詩矢成君は部活、決めてないんだよね? じゃあさ、私が入ってる陸上部、入らない?」
「陸上部?」
ほー。この井蝶様の神秘を生み出す部活は陸上部なのか。
うん、陸上部の服って露出多いよな。太ももとか。なにこれ最高じゃん。
チラッと下の方見てみると、なるほど確かに、井蝶様は美しい足を惜し気もなく晒していらっしゃる。
これで眼鏡が無かったらパーフェクトなんだけどなぁ......眼鏡好きはコア過ぎるんだよ。
「そう、陸上部。個人競技だし、途中から入る運動部には適してるんじゃないかなぁ?」
なぜニヤニヤしてるんだ。
まさか、気付いたのか? 俺のチラ見に?
鷹の目かよ。
「――それに、陸上部に入ればこんな私を沢山見られるよ?」
「よし決めた。俺陸上部入る」
瞬殺である。
ハメられたぜ。ハニートラップに。
だけどまぁ、蜂の巣の中に潜り込めばハチミツ食べ放題なんだけどな! 見放題だぜ!?
イヤッホゥ!
「ほんと? やた!」
恐らく『やだ』から濁点を取ったのではなく、『やった』から『っ』を取ったのだと思われる、喜びの声を漏らす井蝶。
しかも、ガッツポーズである。
可愛い。
そんなこんなで俺と井蝶が和んでいたところに。
「――おい勇! さっさと帰るぞ!」
何故だか若干ふてくされているマーウの隣で、芽戸が俺を呼んだ。
まぁ確かに、時間も時間だ。そろそろ帰るとするか。
「分かってる! じゃあな、井蝶。また明日」
「うん、また明日」
別れを言い、俺は井蝶に背を向けて歩き出した。
この、俺と井蝶が放課後偶然会ってしまったことが、まさかあんな事態に陥る切っ掛けになるとは、この時の俺はまだ、まったく気付いていなかった。
という、フリを入れてみた。果たしてこれが本当にフリなのかどうか、現時点を読んでいる読者はまだ、誰も知らない......
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