前振り! ←なんだそのサブタイトル......まさか本文が無いわけでもないだろうしって、おいおい嘘だろ......
また数日が経ち、五月も中旬。
桜もかなり散り、ようやく一年の始まりも落ち着いてきたかという頃。
俺の日常は全然落ち着かなかった。むしろ、毎日が起承転結の転だった。
もう転がりまくりである。斜面を雪だるまが転がっていく感じにぐるぐる転がっていってたぜ。
そのままの勢いで壁にぶつかって爆発四散するんじゃねぇかとすら思った。
いや、『思った』って過去形じゃないな。今後そうなる可能性もあるわけだし、『思う』っていう現在形の方が正しい。
まぁどんなことがあったかって話したいところなんだけど、これが非常にボリューミーな話で、全て話そうと思えば前振りにするにはとても出来ないって感じのもんなんだよな。
だから、ボリュームを分けて分けて圧縮圧縮した話を少しだけしようと思う。
まず、俺の『お世話係』なんだけど......てっきり
裏から切るのだから、真っ向から裏切るという表現はどうなのかとは思うが、そういう細かいツッコミを入れる余裕がないくらい、俺はビックリして仰天しておったまげて、膝が笑って尻餅をついて唖然とした顔をしてしまった。
目の前が真っ白になって、何も考えられなくなって、なのに口は、どうして、どうしてと声にならない言葉を紡ぎ、まるで死にかけの魚のように唇を一定の間隔で合わせては離し続けていたんだ。
......これだけ表現に工夫を凝らせば、俺が一体どれほどの衝撃を受けたのかがよく分かるだろう。
ま、簡単に言うと、
「『お世話係』は変わらないからこれからもよろしく~」
「な、なんだってー!?」
って驚いただけなんだけどな。
別に、尻餅ついて口パクパクなんてしてないし。
そりゃあ心底驚いたけど、そこまでじゃない。
それはともかく、衝撃の事実を俺に告げた者......そう、あの
「お二人の仲があんまり良くないと聞いたので、親撲を深めるためにですよ~」
......だ、そうだ。
なんだよ、親撲を深めるって。親しく殴るのか? 撲って撲殺とかの撲だぜ? 『なぐる』って変換で『撲る』が出るんだぜ?
殺し合いさせる気かよ、あのタヌキ。恐ろしいこと考えてやがる。
あんなんでよく先生になれたもんだよな、まったく。数学の先生だけど、国語の能力だって必要だろうに。
だがな、それ以前にだぜ?
なんで仲悪いって知っててお世話係を続けさせるんだよ。本来こっちにツッコむ予定だったのに、さっきの親撲の件で後回しになっちまったじゃないか。
ああいうボケは鮮度が大事だからさ、早めに
俺、前にもタヌキに言った......っていうか思ったんだけど、どうしてあのタヌキは一文の間に二ヵ所もツッコむポイントを入れてくるんだろうな。
捌き切れねぇんだって。俺はちっとばかしツッコミが上手なだけで、別に売れてる漫才師でもないんだしさ。
おっと、またもや話が逸れた。最近こんなのが多くて困るな......コホン。
で、一生懸命抗議したけど、全て宙を落ちる木の葉のようにヒラリヒラリと避けられ、魔王やメドゥーサにも言ってみたはいいが、魔王は別にどうでもいいとか言うし、メドゥーサに至ってはこれだぜ?
「私の目の届かないところでも、魔王様がお前を監視してくれるというのなら万々歳だ」
はぁ? はぁ!? はぁっ!?!?
......はぁ......
うん、俺の気持ちを『はぁ』と記号+αだけで表してみたけど、まぁ大体ご想像頂けただろう。
そのときの俺の驚きようと沈み込みようを。
てっきりメドゥーサは反対してくれると思ってたんだがなぁ......
そもそも、俺が魔王をどうこうするかもしれないとか思わないの? って聞いたらさぁ......
「そんなことがあれば、このクラス中にお前がマーウちゃんにあんなことやこんなことやいやらしいことをしたと言いふらすぞ」
やめてぇ――!! あんなことやこんなことって感じでオブラートに包んでいたのに、最後にいやらしいことって言っちゃったせいでどんなことをしたのかが即座に分かるその文面で言わないでぇ――!!
いやまぁ、何もしないからそんなことは起こらないし、そもそも、あんなことやこんなことって言葉自体が既にいやらしいことを指しているのだから、いやらしいことと言わなくても同じなのだけど。
だけど「ぐへへお前のおっぱい触らせてもらうぜ」より、「ぐへへお前のパイ乙触らせてもらうぜ」の方が若干優しい感じがしないこともないんだけどな。
詩的にすると、「ぐへへお前の豊かな
私的にすると、「ぐへへ井蝶のおっぱいを触らせてもらうぜぐへへへへ」へへへ......あれ、括弧の外に出てる?
......ごほっごほっげふんげふん。忘れてくれ。いや、忘れろ。忘れろぉ――!!
さて。
では次の話へ行こうか。
これはさっきの話より少し時間が遡るんだけど......えーと、メドゥーサが入学してきて少し経った後だったか。
ふと思い出したっていうか、どうして今まで疑問を覚えなかったんだっていうか、本当だったらまず最初に思い付くだろっていう、そんな感じのこと。
つまり、魔王達が引っ越してきた家の、前のお隣さんはどうなったんだ? という話だ。
隣が空き家になったという話を、魔王の口以外から聞いていないことを思い出したのだ。
これは思い付いた後、直ぐに疑問として口には出せなかった。
だってさ、別に仲が良かったわけじゃない......というか顔も名前も覚えてないようなお隣さんだったんだけどさ、でも、今そこに住み着いているのは、かつて世界に混沌と絶望をもたらそうとした魔王と、その部下なんだぜ?
どうやら魔王は人を殺すのを嫌っているらしいけど......じゃあなんで魔王なんかやってんだって話だけど......でも、メドゥーサは違う。
躊躇いなく、人を殺せる女だ。俺はそれをしっかりと、この目に、焼き付けている。
焦げるほどに、焼き付いている。
忘れるはずもない。俺が初めて、人が死ぬところを目撃したときの記憶なのだから。
初めて、人が殺されるところを目撃したときの、記憶なのだから。
悪魔。最初はそう思ったか。俺は彼女らの仲間をそう思うことで、殺すことができていた。
無惨に、悲惨に、凄惨に、殺していた。
なのに今はどうだ。彼女らのことを、かつては悪魔だと思っていた者らのことを、人間だと思っているのだ、俺は。
『彼女』と呼ぶし、『女の子』とも、『乙女』とも思った。
いつの間にか、同じ人間として見て、生活していたのだ。
それが壊れるのが怖かったのかもしれない。もう一度、悪魔だと思いたくなかったのかもしれない。
もう既に俺は、彼女らを殺したくないと、思ってしまっていたから。
だから、聞けなかった。
メドゥーサが魔王に空き家だと嘘をつき、住人を殺した後、魔法で事後処理を行い、のうのうと引っ越してきた風に生活しているという可能性を、捨てきれなかったから。
しかし、それに気付いた次の日、俺は覚悟を決めて聞いてみたのだ。
いわゆる、臨戦態勢というやつで。
もしも俺が望まない答えが返って来た場合、即座に殺さず捕らえられるように。
やっぱり、聞かないでいるのは逃げだと思ったから。
しかし、返って来たのはいささか拍子抜けするようなもので......
「あぁ、元の住人か。魔法で操り、引っ越してもらった。記憶に若干の改竄はあるが、まぁ今頃、特に生活に支障もなく暮らしているだろう。魔王様に嘘を吐いたのは、お優しいあの方のことだから、気分を悪くされるかもしれないと思ってのことだが......なんだ? お前、お隣と仲が良かったのか? だとしたら......はっ、ざまぁないな」
ざーんねんでした、別に仲なんて良くありませんでしたよーだ。べー。
ちぇっ、せっかく人間として見てやってるのに、なんだその言い草はよぉ。
......まぁ、少し安心はしたけどな。
拍子が抜けたし、杞憂だったりもしたが......だけどなにより、胸を撫で下ろせた。
いや、魔法で操っちゃってたり記憶改竄しちゃったりしてる時点でどうなの? っていう話もあるけどな。
だけどまぁ、良かったさ。死んでいないなら、きっと幸せにやっていることだろう。
そう信じて現実逃避しとこう。
さてさて。これでようやく長い長い前振りが終了致しましたのですが......おやおや。
かなり分けて圧縮して小さいボリュームでお話したつもりが、かなりの字数となってしまったようだ。
これでもまだ話したいことの半分の半分を小さくしたくらいだと言えば、この数日がどれだけ大変だったかが分かるだろう。
うーん、しかし、困ったなぁ......これだけ前振りが長かったのだから、どうせ本文は短いのだろう? というと、そういうわけでもないし。
どうしようかなぁ......このまま書くのはいささか気がひけるし......
あぁそうだ!
本文の最初の台詞だけをこの話で書いておき、次回からはその台詞から始まるストーリーを書いていく、というのはどうだろう。
うん、我ながら中々のナイスアイデア。
と、いうわけなので。では。
◇ ◇ ◇
「部活を作ろう! ......なんてね!」
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