なぁ、ジブリのトトロって知ってる? ←それ何の関係があるんだ......
まるでロン○ヌスの槍みたいに俺の心のATフ○ールドをバンバン貫く、かなり痛い視線の数々から逃げるようにして、俺は校舎から脱出した。
しかも、魔王の奴はほっとくとどこかに行きそうになるから、手を繋いで、でだ。
もう死ぬかと思った。羞恥で死ぬかと思った。エ○ァ旧劇場版の二号機を見たとき並みに心がえぐられたぜ。
でもまぁ、取り敢えず校舎から出たから一安心......ん?
「何見てるんだ?」
校庭の方をジーっと見て、固まったようにしている魔王に向け、心ボロボロというかグチョグチョ(二号機的な感じで)な俺は問う。
「あれは何をしているのだ?」
「ん、あぁ。部活だろ」
魔王が指で差したのは、体育祭のとき組み立てをすると土台が悲鳴を上げそうなジャリジャリとした砂の校庭......ではなく、その上で走ったりボールをついたりバットを振っている人たちだった。
多分、自分たちはもう帰るのに、あそこで何かやってるから気になったのだろう。
......はぁ。そういえば、俺も早く部活に入らなきゃいけないんだっけ。
嫌なことを思い出した......
「部活ってのはな、やりたいことをやりたい人で集まってする活動のことなんだ」
まぁ至極簡単に言うと、部活ってこんな感じだよな。
俺みたいに、やりたくないのにやらなきゃいけない人はいるけど。
「楽しそうだな!」
「そうでもないぞ。結構大変だしな」
目がキラキラしてんのが怖い。まさか入りたいとかいい始めるんじゃないだろうな......?
ちょっと魔王が運動部で色々やってるのを想像してみる。
『マーウ、パス! キーパーに目に物見せてやれ!』
『分かっブッ!? っぅ......!! 痛いのだ! ぶっ殺すぞ!』
三つ巴の戦いになりかねんな。
『マーウちゃん! 左手は添えるだけよ!』
『両手で投げた方が飛ぶに決まっているのだぁ――ぁあぁ――!?』
ガラスとか割ってそう。
『マーウ君! しっかりと腰を捻って、ボールをよく見て打つんだ!』
『打ってやゲボォッ!?』
デッドボールでデッドしてる未来しか見えない。
「......さ、帰ろうぜ」
マジで部活入るとか言われたらヤバい気がしたので、再び魔王の手を引いて校門へ向かおうとするが。
するが。
「私、部活やりた」
「かー! えー! ろー! ぜー!」
あれだ。『あーあー聞こえなーい』のアレンジ版。
自分は言いたいことを相手に伝えつつ、相手が言いたいことは無視するっていう自分勝手極まりないテクニック。
しかも強引に手を引っ張ってるから、結構痛いと思う。血管浮き出てるし。
まぁ、俺も青筋浮かべてるけどな。
「ひどいぞ勇者!」
「うるせぇ。お前絶対ロクなことにならねぇんだから、部活やりたいとか言うな」
「痛い痛い引っ張らないで! 行きます! 付いていきますから!」
たまにこいつ、へりくだるよな。魔王なんじゃなかったのか。勇者相手にへりくだる魔王って大丈夫か?
......いやそれ以前に、勇者と同じ中学に転向してくる魔王って方がおかしいか。
思えば、こいつかなり小さいのに、一応十四歳なんだな。十三かもしれないけど。
これはあれだ。将来合法ロリとかいう、ロリコンが絶叫するタイプになる奴だ。
皆もう分かってると思うけど、こいつまな板だし。井蝶様の百分の一にも及ばんね。ハッ。
......こほん。まぁいいじゃない。巨乳が好きでもさ。男なら当然だろう?
「――まったく。成長しろよな」
頭と身長と、あと胸も。
「消進致します......」
「消えるな!」
精を出せ精を!
「消沈致します......」
「ツッコミで落ち込まないでくれ!」
響きは似ているけれども!
「提灯致します......」
「何故日本に来て数日のお前が、日本に古来より伝わる伝統の光源の名称を知っている!?」
いや、今ではお祭り以外で使っているのは見たことないが。ちゃんと伝わってるかっていうとそんな伝わってないかもしれない。
あ、あとお化け屋敷とかで使うか。
「ちょうちんって、ひらがなだとなんかエロい......」
「その話題、非常に乗っかりたいところだが、そんなにかぁ――っと顔を真っ赤にしてまでボケなくてもいいんだぞ?」
こっちが恥ずかしいだろ! そういう話題はブリットあたりに振っときゃいいんだ。初対面の人に下ネタ話したいとか言うどこかの変態にな!
「つーかさ、いい加減帰ろうぜ」
「むぅ。分かった」
気を取り直して言った俺の言葉に、魔王は不満そうに唇を尖らせつつ渋々といった感じで了承する。
どうしてそんな嫌そうな顔をするんだ。そんなに部活やってる人を眺めたいのか。
今度は手を離し、一緒に校門から学校の外に向かう途中、何度も振り向いては部活動に励む人々を見る魔王を横目に、俺は一人「はぁ......」と溜め息を吐くのだった。
◇ ◇ ◇
しばらく歩き。
「なぁ。俺の家、もうそこなんだけど」
ただでさえ目立つ金髪に、禍々しい角まで付けたロリ体質の少女を連れて歩くのは、案外精神的にキツかった。
いや、『案外』ではまだ弱いな。『以外と』でもまだまだ弱いし......なんて言うんだろう、こういう場面。
俺の語彙力の低さがうかがえるな。もう『めっちゃ』でいいんじゃね? とか思っちゃうから、尚更。
とにかく魔王を連れて町を歩いて帰るのは、おろし器で精神をすりまくって精神おろしを作るような感覚だったということだ。
だがいつまで経ってもこいつ、俺の帰る道で自分のも合ってるとか言いやがる。
なんで俺の家の前まで来ちゃうわけ? なに、俺の家より更に向こうにあんの? それさっさと言えよ。
「ほー。ここが勇者の家なのか。上がるぞ」
「まてまてまて。何故そんな軽いノリで俺の家に上がろうとしてやがる」
「そこに家が(勇者の)あるから」
「残念ながら()内の言葉は聞こえないので、台詞だけ聞くとただの不法侵入だということに早く気付いた方がいいぞ」
いや、俺には分かるけどな。だって文だもの。がっちり()内見えてるぜ。
まぁ勇者の、と付けていたところで、俺の許可なく入ろうとしているので、不法侵入っちゃあ不法侵入だが。
「そこにイエーガーあるから」
「狩人はいねぇよ」
ドイツ語で狩人の意。進撃○巨人で知ってる人は多いかな?
......まさか俺のように、ガン○ムのゲル○グ
「そこに絵があるから」
「ねぇよ」
『い』が消えたぞ。
「そこに『ピー』があるから」
「やめろぉ――!!」
『ピー』は駄目だろ『ピー』は! 人の家の玄関の前でなんてこと言いやがる!
確実に規制入るぞ! 流石に『ピー』はマズイ!
......え、何を言ったかって? そこは皆様の豊富な想像力にお任せします。
「そこに......家が、あるから」
「深く心に染み入るような言い方をしても、お前がさっきやらかした罪は消えんぞ」
心なしかお前、顔赤いじゃん。
なんだよ、恥ずかしいなら言う前に考えろっての。
「つーかさ、もういいからいい加減お前の家教えてくれねぇ?」
なんで俺の歩く道自分のも合ってる、なんだよ。さっさとどこら辺か教えてくれれば楽に行けるのに。
「教えてあげたら何をくれるのだ?」
「菓子パン」
こんなこともあろうかと、その問に対する答は既に用意していたぜ。
下手なお菓子よりよっぽど美味しいよな、菓子パン。一個くらいくれてやるよ。
それで魔王を追い払えるようになるなら、安いもんだ。
「菓子パンってなんだ?」
「お前、提灯とかイエーガーとか知ってるのに菓子パン知らないってなんだよ」
もうそれ、世間知らずじゃなくね? 世間欠けて知らずじゃね?
「あれだよ。前にお前に俺があげたやつ。あんな感じの」
「あそこが私の家だ」
「早ぇな! ......って、はぁ?」
魔王の示した方向にあったのは、一軒の家だった。
極普通の、人間であればどんな者が住み着いていようと特に疑問は抱かない、至って、そして極めて普通な家。
そりゃ、前の世界では超ビッグな城で過ごしていた魔王からすれば、それは普通ではないのかもしれないけれど。
まぁそれをいい始めれば、魔王がこの世界に来た時点で、他の追随を許さぬほどにイレギュラー......異常な事態なので、今さらそんな異常、大したことではないと思うが。
家そのものにはなんの問題もない。真に問題なのは、その家が建つ場所だ。
かといって、別に家の下には昔墓があったとか、百鬼夜行のルートど真ん中に建っているだとか、そういうのではない。
厳密に言ってしまえば、その場所で問題だと思うのは俺だけなのだ。住居人である魔王やメドゥーサは問題ではない。というか、好都合でさえあるだろう。
しかし。
俺にとってはこの上なく不都合だ。迷惑どころではない。ノイローゼになってもおかしくないような状況なのだ。
......一応、あの家じゃなくてあの方向だという可能性が無いわけではないので、本当に一応、つまり念のために聞いておくとしよう。
「あっちに家があるのか?」
「違う違う。お前の家の」
「あーもういい。分かった、分かったから......」
俺の僅かな希望すらも粉々に粉砕し、粉を砕き、粉すら残さず。
希望の粉すら残らなかった。
あるのは塊の不安と、それを覆い隠すベール状の絶望。
「お前の家、本当にあそこなんだな......」
「そうだぞ」
「あぁ......」
ようやく、現実を受け入れる準備ができました。
せーので行こう、せーので。あと、三、二、一、もいるぞ。
つまり、三、二、一、せーの! で真実を明かす。オケー? オケー。
三、二、いゲホッゲホッ。
おっと、なんだこの咳は。心のなかでも随分とリアルな咳が出るもんだな。
それじゃ気を取り直して。
三、二、一、せー......んと千尋の神隠し!
思わず伏せ字無しで言っちゃった!
なんというミス!
......そろそろ、ガチで行くぞ。
三、二、一、せーの!
「――俺の家の隣がお前の家ってどういうことだぁ――!?!?」
うん。はい。
もう説明とか要らないよね。
俺の気持ちの描写とか要らないよね。
もういっそ魔王の台詞とかも要らないんじゃね。
あぁ、俺、良いこと思い付いた。次の一話、罰として魔王は台詞の描写をされないことにしよう。
俺、なんて名案。
メタってなに。
ってか、それ自分で言うかみたいな感じだけど、これって凄く面白い罰だな。
PV稼げるぜ。
段々エッセイになってるって? 知らん。俺は俺だ。
作者じゃない。
「......逆に考えるんだ。『隣にあって良かったじゃないか』と」
移動の手間が省けるし。魔王が何かやらかさないか、普段から監視できるし。
良いことずくめじゃないか(涙目)!
そういや最近妙に隣が騒がしかったのも、お前らのせいだったのかよ! まぁ、俺も近所迷惑になるほど電話で叫んだりしてたけど。
もういいや。ああだこうだ言っても仕方がない。俺の目的達成のため、迅速に行動を起こすとしよう。
「なぁ魔王、俺、今からメドゥーサと会いたいんだけど」
「」
なんと。既に罰は執行されているのか。
えげつない。容赦なくえげつないぜ。
まぁ、あくまで台詞の描写が消えるだけであって、俺には聞こえているわけだけどな。
「あぁ、それなら後で買ってやるからさ」
だからと言って、俺が魔王が何て言ったかを伝える、なんてことはしないぞ。
それじゃ意味がないし。
「」
「......よし、じゃあ突撃だ!」
こうして俺は、遂に魔王の根城を発見し、その中へと突入するのだった!
果たして俺は、魔王の手から自分を救い、平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
つづく......
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