友達っておいしいよね! ←疑問形じゃないだと......
そして明日を迎える。
朝、日の光で自然と目が覚めた俺はカレンダーをもう一度見つめ......やはり今日が始業式の日なのだと確認すると同時に、昨日の時点で時間が変わってないという安心は間違いだと気付き、急いでリビングへ走ってテレビを点け......ホッと一息吐いた。
「あ、焦ったぁ......」
朝からドタバタだったが、おかげですっかり目が覚めた。
いやまぁ、異世界にいる間で身に付けた、自然起床スキルで目覚めれば、まぶたが重い感じも頭がボーっとする感じもないので、そこまで変わったような気はしないのだが。
あ、自然起床スキルって別に魔法とかそういう系じゃなくて、普通に生活で身に付く技能のことだから。
そしてここに来てようやく時計を確認する。
「――六時半......だと......? マズイ、急げ!」
あぁもう、異世界じゃ予定とかに追われることなんか全然無かったから、時間にアバウトな感じだったんだよな......! あーヤバいヤバい。
魔法使えば一瞬で色々出来るけど......それはもうやらないって決めたし......
今から急げば、まだ間に合うよな......!
急いで歯を磨いて顔を洗ってダダダー! と階段を駆け上がり、自分の部屋で制服を引っ付かんで着......たと思ったらバッジ類が付いてなくて焦って、がさごそ探して頭をぶつけて涙目になりつつもどうにかバッジを発見して制服を一旦脱いでバッジを付けて、もう一度着直す。
「――うおぉ――!」
なんというか、帰ってきたって感じ。
こうやって遅刻しないように朝の準備を整えて、学校に向かって、校門をくぐって、靴を脱いで、教室へ向かって、授業を受けて、給食を食べて、眠い午後の授業を受けて、帰宅して......そう、これこそが俺の求めてた平穏な人生だよ。ピースフルなライフだよ。
え? 友達の存在は......って?
..................友達なんていらなくね?
「そんなことより、腹を満たさねば......!」
いや、誤魔化したわけじゃない。ただ、昨日のカレーはあまりに食が進まなかったものだから、朝から腹が減って仕方ないんだよね。
なんか食べたいけど、七時半には出なきゃならないから、作ってる時間は無いし......
――やっぱコンビニだな。今の時代、無ければ日本の半数の人間がショックのあまり立ち直れなくなるであろう、コンビニ。
そしてショックのあまり立ち直れなくなった人達の介護のため、他の仕事ができる者が不足し、日本は崩壊して、いつの間にか外国の植民地に......ブルブル。
おっと、余計な想像だった。どっちかって言うと妄想だけど。
「......って、こんな余計なこと考えてる間にもう七時じゃん......」
うちの学校......月ノ目中学は、財布を持ってくるの許していないが......しかしコンビニは学校に向かう途中にある。
むー......バレなきゃ、いいよな......?
財布を迷いつつ手に取り、二階から持ってきていた通学用鞄に仕込む。
基本持ち物検査なんざやらない学校だから......大丈夫のはず......
ちょっと悪いことをした子供みたいな気分だ。俺、勇者だったはずなんだけどな......
なんだかんだ言いつつ......というより、なんだかんだ考えつつ、俺は順調に進んでいた足を扉の前で止まらせた。
「......思えば、こっちに帰ってきてから外に出るのは初めてだな......」
ここから先に、一体どんな世界が待っているのだろうか......
――みたいな気持ちではないが、そういうのに似た感じ、かな......
うーん、うまく説明できない......なんていうか、どんな場所かは分かるんだけど、何故だか胸が高鳴る、みたいな?
「あーもう!」
自分のことを一番分かってないのは自分......って話はよくあるけど、本当にその通りだな! 気にしても仕方ねぇ! そもそも俺には時間が無いっての!
玄関で外の光景思い浮かべてたそがれる男子中学生とか気持ち悪いだろ! そんな奴いねぇよ! 俺ぐらいしかな!
余計なことを考えていた頭をガリガリと掻いた俺は、ドアノブを勢いよく捻り、蹴破るように外へ飛び出した。
「行ってきます」
誰もいない家に向かって、そう呟く。
俺の平穏な人生は、やっとスタートしたんだ......!
俺の足はスキップを始めそうな勢いで、一年ぶりに通る道を辿っていった。
◇ ◇ ◇
「げ」
前言撤回。まだ平穏な人生はスタートしていないようだ。
何故かって? そりゃあ面倒ごとが目の前に転がっているからだよ。それも北海道のホタテ並みの特大サイズの面倒ごとがな!
「――ふんふんふふーん......お、これもおいしそうだな!」
日本ではまずお目にかかることは無いだろう、輝かしい金髪に、そこから生える二本の捻れた黒い角。小学生かと思うほどの低身長と、同じく幼い声......見間違えるはずもない。今回はパジャマではなく、ちゃんとした服を着ているようだが......
魔王。異世界では世界を征服しようと企み、魔王軍を率いて人間を滅ぼそうとした、諸悪の根源。しかしその実態はまだ幼い少女で、ゲートを開放する以外に何もできないただのバカな美少女。
そんな奴が一体全体どうしてここに? ......っていうと、そりゃまぁ、そうなんだけどな。
だってさ、魔王だって俺と同じゲートを通って来たんだぜ? 同じこの世界に転移していたとしても、何ら不思議はない。
むしろ、そうだろうと予想はしていたのだ。多分あのバカもこの世界にやって来てるだろうと......でも、世界は広いんだ。同じ日本のこの場所に転移する確率なんて、幾らほどのものか。下手をすると、この地球ではなく、他の星に飛ばされる可能性もあったのだから。
だから、こういう風に遭遇する事態はまったく想像していなかった......あぁ、どーしよ。
出来るなら無視したいところだが......だけど、コンビニは近くにはここしか無いし......
「――はぁ、仕方ないよな......」
自動ドアの前で何度も行ったり来たりしていた明らかに不審な男、俺は意を決したように顔を上げて一歩を踏み出し、自動ドアを開いた。
「いらっしゃいませー(ジーッ)」
......気のせいだと思うんだけど、なんか凄い睨まれてね? 店員さん目力パネェよ。ってか血走った目してるよ?
何か俺、睨まれるようなことしたかなぁ......?
自動ドアの前でうろちょろと怪しい行動を取っていたせいで、万引きをするのではないか、と疑われているとは露ほども知らない俺は、未だにレジ付近のおにぎり売り場のエリアで商品選びをしている魔王を迂回するように、抜き足差し足忍び足でこっそりパン売り場のエリアに近付く。
今日はおにぎりにしようと思ってたけど、あのバカに見つかったら面倒だし、ここは菓子パン二個で持たせるとしよう。
メロンパンと、あんパン......っと。
「うし。後はあいつが外に出るのを見計らってレジに行けば......」
「お客様」
ビクゥ! と明らかに体を震わせて後ろを見る。そこには先ほどレジに居た店員さんが冷たい笑顔のまま立っており......
「お買いになる商品は決まりましたでしょうか?」
俺が大事そうに抱き抱えているメロンパンとあんパンを指差し、恐ろしい営業スマイルで尋ねる店員さん。
怖い怖い怖い。何この圧倒的恐怖。肉食動物を前にした草食動物ってこんな気持ちなのか......
突然店員さんは今までの笑顔を崩すと......
「――それとも、まさかとは思いますが......タダで手に入れよう、などという浅はかな考えがあったわけでは......無いですよね?」
怖ぇ――!?
ていうか、え!? 俺、もしかしなくても万引き犯だと思われてる!? なんで!?
ちょいちょいちょい、俺そんなんじゃないし! なんでそんな疑われてんの?
俺の今までの行動を振り返って見ろよ。なーんも怪しいことなんか......
「俺、メッチャ怪しい奴じゃん......」
自動ドアの前でうろちょろした後、いざ中に入ると抜き足差し足忍び足でこっそり動き、パンを二つ抱き抱えている......とか。
完全にアウトだよ! 怪しすぎる!
「いや、違うんですよ店員さん! これには深いわけがあってですね......」
「お客様の家庭の事情は知りませんが、どんなに深いわけがあっても、万引きは許されることでは無いのです」
なんなんだこいつ! 名前も性別も出ないモブキャラのくせに、無駄に台詞がなげーんだよ!
話を変な方へどんどん引っ張っていく店員さんに、そろそろガチでムカつき始め、完全に逆ギレを起こそうとした正にその時......
「――店員さー......はっ!? お前はまさか、牛車!?」
「俺は牛じゃねぇ――!!」
「牛車は牛じゃねぇ――!! 牛が引っ張る奴のことだぁ――!!」
「「あんたは一体何者なんだぁ――!?」」
怖いよ店員さん! まさかこんなとこでツッコミを貰うなんてまったく予測して無かったよ! おかげで魔王と実際は中々被らないであろう台詞が思いっきり被ったじゃないか!
「......コホン、何かお買い求めになる商品はお決まりになりましたか、お客様?」
こ、ここで何事も無かったかのように営業スマイルだと......?
しかもさ、俺は怪しい行動とったから万引き犯だと思われてるわけだけど、なんか凄い角生やしてる魔王は別に大丈夫なの? ねぇ、これって理不尽じゃね? ねぇ!
万引き犯と勘違いされた勇者(笑)がバカ魔王に嫉妬する様である。
「あ、あー、うん。この『つなまよ』っていうのが欲しいんだけど、それよりも!」
魔王はタタタっと俺に駆け寄り、つい最近俺がしたように、キッと俺を見上げて睨むと、
「――なんで万引き犯勇者(笑)がこんなところにいるんだ!!」
「やめてくれぇ――!!」
「じゃあ略して万者()!!」
「妙にカッコよくなったけど()の存在価値が!!」
「万者(!!」
「両方消して差し上げろ!」
「!!」
「全部消えたぁ――!?!?」
「」
「エクスクラメーションマークゥ――!!」
!!
「地の文にまで進出するなぁ――!!」
はぁ、はぁ、はぁ......
な、なんで出会い頭からこんなにツッコまねばならんのだ......しかも非常に分かりにくいボケを......俺以外の人間ではツッコめねぇぞ?
「――お取り込み中のところ申し訳ないのですが......早く商品を......」
「「あ、はい。お騒がせしてすみませんでした」」
まぁ詳しい話をするのは、コンビニの外でもいいだろう。それに俺は急いでいるのだったし。さっさと買って学校に行かなければ......
◇ ◇ ◇
「――で、お前はどうしてここに居るんだ?」
俺がこの世界のこの場に居ることを粗方説明し終わった俺は、今度はお前の番だと促す。
ちなみに、現在俺は学校に向かいながらこの話をしているため、もちろん魔王もそれに付いてくる形で歩いている。
俺と同時期にこの世界にやって来たのであれば、魔王は昨日からこの世界にいるはずなので、地理やらにはまだ疎いはずなのだが......こんな遠出して大丈夫なのだろうか。
だけど何だかんだ言って、魔王はちゃんとお金を持っておにぎりを買っていたからな......
バカそうに見えるが、適応力はすげー高いのかもしれない。いや、適応力が高いからと言って、たった一日でお金が手にはいるのは明らかにおかしいけど。
「んーとなー、ゲートを通ったらこの世界に来たんだけどなー」
「あぁ」
ガブ、とメロンパンにかぶり付きつつ、話を聞く。
「最初はまったく意味分からん世界だったんだけどー、後でメドゥが来てくれたから、なんとかなった!!」
「ゴホッゴホッ、め、メドゥってメドゥーサか!?」
あいつはあっちじゃ魔王軍最強の幹部三人衆の一人なんだぞ!? 俺も最初に戦った時はメッチャ苦戦したような、かなり強い奴なのに......そんな奴が、この世界に!?
マズイ......あいつは魔王とは違って超強い上に、人を容易に殺せる残忍な奴なんだ......この世界にいるのなら、今すぐ倒さねぇと......!!
「そーだぞー。こっちでもメドゥはな、私の面倒を色々と見てくれたのだ! この世界での生き方を必死にべんきょうして、メドゥは私に教えてくれたのだ! ははは、すごいんだぞ、メドゥは!」
「へー......で、そいつは今どこに居るんだ?」
メロンパンを再び口に入れて、何でもない素振りをしつつ、俺はメドゥーサが今どこで何をしているのかを聞き出そうとする。
初日から遅刻になりそうだが、しかし俺の求める平穏な人生を手にするには、近くに災いの種を撒いておくわけにはいかんのだ。
ってか、そもそもメドゥーサはなんでこの世界に来れたんだ? 俺、ちゃんとゲートを閉め......てねぇ――!!
俺の世界に戻れる嬉しさでド忘れしてた......あー、災いの種撒いたの俺じゃん......
「メドゥは今、えーと、どこだっけ? でも、住む場所を用意してくれたのはメドゥなんだぞ! お金も何とかして稼いでくれたし!」
「はぁ......まぁそうだろうとは思ったけどさ......一応聞いとくけど、人を殺したりしてないよな?」
俺が撒いた災いの種が本当に災いを呼んでいないか気になって、遂に切り出してしまう俺。
それを聞いた魔王は怒ったような顔をすると、俺を叱るように怒鳴り始める。
「メドゥはそんなことしないぞ! メドゥはな、凄い優しくて、私の言うことならなんでも聞いてくれるのだ!」
メドゥーサはそんなことしない? 馬鹿な、あっちじゃあいつ、村を一つ滅ぼしたりしてたってのに......それじゃああいつ、改心したのか?
「メドゥはな、『こっちは勇者の世界なのだから、下手な行動を取るとボコボコにされますよ。ここは大人しく、この世界のルールに従うとしましょう。チャンスは、いつか来ます』って言ってた!」
「お、おぉ......」
すげぇ! メドゥさんすげぇよ! 別に俺が支配してる世界じゃないのに、勝手な勘違いで勝手に大人しくなってるよ!
「でも、それじゃあお金とか住む場所とかどうしたんだ?」
「魔法でお金をふくせーして、空き家を買い取った!」
「おいぃ!?」
かなり社会のルールに背いたことやってんな! しかもお金だけじゃ空き家は普通買えねーぞ! そこでも何か魔法使っただろ!
「でも、こんなことするのは最初だけだって言ってた! こんなずるい技は、いつか勇者に目を付けられるって!」
「お、おう、賢い奴だなメドゥーサ......」
なんなんだメドゥーサ!? メッチャ色々考えてんじゃん! ......って、あぁそうか! 魔王は戦えないから、下手に目を付けられると魔王を守りきれないからそんなに慎重なのか!
とすると、魔王への忠誠心はかなりのものだな......これは、上手く使えるかもしれない。
最後の一口分のメロンパンを口に放り込み、俺は魔王にお願いをする。
「なぁ魔王、そのメドゥーサにさ、『もう一生人を殺さないでくれ』って頼んでくれないか? これ、やるからさ」
まだ手を付けていなかったあんパンを片手に、俺は微笑みつつそう言う。
ふっ、さっきから物欲しそうな目でこっちを見ていたのには気付いていたんだよ!
「おぉ、本当か!? 分かった! メドゥに言う!」
「おぉそうか。良かった良かった」
うし。後はこいつを家に帰すだけだな......さて、どうしたものか......
「――なぁ勇者!」
「ん?」
「私、お前が嫌いだけど、お前結構いい奴だな! 友達になってやってもいいぞ!」
友達、ねぇ......嫌いな奴と友達になるってどうなんだろう? まぁいっか。
俺、友達いないし。
「嫌だ」
「えぇ!?」
言ったろ? 友達なんざ、平穏な人生に必要ないって。
俺は友達なんて居るだけ無駄って思ってるんだ。
友達? なにそれ? おいしいの?
いやいや......
「友達っておいしいよね!」
「友達って食べられるのか!? 知らなかったぞ!?」
「本気にするな!」
こいつ相手にボケるとボケで返されるって気付いたよ! もうボケねぇぞ!
「な、なんで嫌なのだ!? この私が友達になってやるって言ってるのだぞ!?」
「友達なんざいらねーからだ! 俺はな、小学生の頃から友達ってのに良いイメージを持ってないんだよ!」
ただただ面倒な奴らとしか思ってなかったよ!
「お......」
「お?」
顔を真っ赤にして、魔王は俺を見上げ......
「――お前なんか、大っ嫌いだ!!」
そして、ダダダーっと走り去って行った――
「いてっ!」
電柱にぶつかるのかよ。
「き、嫌いだ――!!」
電柱にも言い残して行ったな......あ。
「......やっべ、学校に遅刻しちまう!」
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