第18話 素晴らしいかな人生は

日々徒然でございます。

 泣き笑い、いいじゃありませんか。

 そりゃ人間ですもの。失敗もあるでしょう。逃げ出したくもなる日だって。それでもいいじゃないですか。あなたの人生はあなたのもの。私の人生は私のもの。誰彼に気兼ねすることなどいらないと、わたくし、そう思うのでございます。

 だってほら、こんなに綺麗な空。

 わたくしね、思い切って重吉さんに言ってみましたのよ。

 何だか、お友達以上の感情があるみたいって。

 雪乃さんが亡くなり、張り合いを失くしてしまったわたくしの傍に居てくださったのは、重吉さんでございました。

 何を言うでもなく、わたくしの傍らで、そっと微笑みかけていてくれたのでございます。

 俳句の会の帰り道でございます。

 重吉さん、戸惑うように笑って、ということは恋人としてお付き合いをしたいってことでしょうかと。

 「はい」

 夕映えが綺麗で、なんだか映画の一コマに入り込んだような気分で、重吉さん、私で良ければって言って下さったのでございます。

 お若い子のようなお付き合いではありませんのよ。

 手と手を携えて、一緒に同じ景色を見て喜んだり、お芝居を観に行ったり、独り暮らしの重吉さんのために料理を作ったりと。

 でもね、わたくし、重吉さんの家に入り込む気はありませんのよ。亡くなられた奥さんが一番なのは分かっておりますもの。わたくしだって、やはり智蔵さんが一番でございます。

 たった一度しかない人生ですもの。老い先短いもの同士、こんな夢を見てもいいかなって思うのでございます。


 ね、こうして伝わってくる温もりが、幸せな気分にさせてくれるのでございます。

 

 保奈美さんから手紙が届き、長年のアメリカ生活が役立って嬉しいと、書いてあります。真琴君と愛梨もケンカしつつも、仲睦まじくやっているようでございます。

 三浦さん、新しい職場が見つかったと、元気よく自転車を漕いで行きます。平吉さんは、今度は俳句の会の旅行だと張り切って飛び回っております。

 一筋縄ではいかない人生。

 だからこそ、手に入れた幸せが素晴らしく感じられるのでしょう。

 あの葬儀の後、彼が言ってくれていたこと、あなたは知っていたの?

 あの頃の彼、あなたの愛に救われていたんですって。奥さんとは、あの後、別れたそうよ。あなたに会いたくて、探したって話していたわ。それが本当かどうかは、誰にも分からないけど、あなたの人生も、まんざら捨てたものじゃなかったじゃありませんか。

 夕映えがとても綺麗でございます。

 雪乃さん、わたくしまだまだ生きていられそうでございます。

 当分の間は、そこから羨ましがっていて下さいませ。

 

 では、最後に一句。


 きみがすき

 染まるる頬と

 秋の空 

 

 お粗末さまでございました。

   

                (またいつかお会いできる日までさようなら)










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