第14話 それって本当?

 愛梨が浮かない顔をして帰ってきました。

 友達と喧嘩でもしたのかと思い、わたくし、余計なお節介をして訊いたのでござします。

 何でもないと言う声に、力がありません。心配でございます。

 そこでわたくし、今日、商店街にオープンしたばかりのケーキ屋さんから買ってきたモンブランケーキと紅茶を持って、愛梨の部屋をノックしたのでございます。

 「入ってもいいかしら?」

 ドアを半分だけ開けて言うわたくしに、愛梨は仕方がないなと言わんばかりに、一つため息をついて、招き入れてくれたのでございます。

 「真琴君とは、連絡取っているの?」

 切り口には、丁度良いのでございます。

 嬉しそうに頷き、真琴君から送られてきたという、写真を見せてくれたのでございます。

 こちらに居る時よりも、少し日に焼けたように思え、それを言うと、また笑みがあふれ出したのでございます。

 愛梨の話では、真琴君、どうやらサーフィンに目覚めたそうでございます。

 この男っぷりにサフィーンなんて、わたくしが思っていることも、愛梨も思ったようでございます。

 「困るんだよね。これじゃ、心配で痩せちゃうじゃない」

 生意気なことを言うようになった愛梨を、わたくしは笑って見詰めたのでございます。

 「本気で怒ったらね、今度、こっちに遊びにおいでって言うんだけど……」

 元気がないのはこれが原因かと思い、わたくし、学校がお休みに入ったら、一度行ってみましょうと言ってあげたのでございます。

 「本当?」

 「本当よ。和歌山は何があるかしら、楽しみね」

 嬉しそうに、あっという間にケーキを平らげたところを見計らって、元気がなかったのはそのせいだったのと、さりげなく聞いてみましたの。

 「ううん」

 途端に顔を曇らせ、紅茶が入っていたカップをじっと見詰めるのでございます。

 その仕草は、大人顔負けでございます。

 ただ事ではないと悟ったわたくしは、居ずまいを正したのでございます。

 「いじめにでもあっているの?」

 「おばあちゃん、誰にも言わないって約束できる?」

 何でございましょう。小学生とは思えないほどの表情に、少し緊張した面持ちで、もちろんよと答えたのでございます。

 「おばあちゃん、不倫ってヤバいよね」

 「不倫?」

 コクンと頷く愛梨に、あらまぁと、驚いて見せたのでございます。

 「お母さんが不倫しているかもって、ミっちゃんが言うんだ」

 三浦美穂子ちゃん。愛梨の幼馴染でございます。お母さんとも何度かお話をしたことがありますよ。確か、質素な感じで、とてもそんなことをする人には思えません。

 「めったやたらに、そんなことを言うものじゃないわ。誰かに聞かれたら、大変なことになっちゃうでしょ」

 子供の言うことでも、やはり軽はずみに口にすることではありません。ましてや友達の母親のことなど。これで、友情にひびが入ってしまっても困りものでございます。

 「私も言ったのよ。ミっちゃんのお母さん優しいし、絶対そんなことをしないって。でも、ミっちゃん、見ちゃったって言うんだ。男の人の車に乗って、楽しそうにしているところを」

 「何かの間違いじゃないの。三浦さん、確か、お勤めされていたわよね。仕事仲間とたまたまってことじゃないかしら」

 「うん。私もそう言ったんだけどさ。ミっちゃん、泣き出しちゃったんだよね。うちは、他所と違うからって」

 どういうことでしょう。

 愛梨の顔が、ますます曇ったり、わたくしの顔をじっと見つめたのでございます。

 その言葉に、わたくしには心当たりがございます。

 どうしたものでございましょう。

 迷うわたくしに、愛梨は思いつめたように言うのでございます。

 「おばあちゃんから、確かめてくれない?」

 他所様の家庭に、首を突っ込むのはどうかと躊躇しましたが、愛梨の切なる頼みに根負けしたわたくしは、引き受けることになってしまったのでございます。

 やれやれ、どう切り出したらいいものでしょうか。そのことを考えると胃のあたりが、きりきりと痛むのでございます。

 可愛い孫の友人の為、一肌脱ぎますか。

 フー。

 一瞬、智久のしかめっ面が目に浮かんだのでございます。

 お節介は、年寄りの特権でございます。 

 そうそう息子の忠告ばかり、聞いておられません。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る