第15話 恋の真相
とは言ったものの、軽はずみに口にできる問題じゃありません。どうしたものでしょう。
俳句の会の集まりを終え、重吉さんとひと時を楽しんだ後、商店街を歩くわたくしの目の前を、三浦さんが通り過ぎて行くではありませんか。今日は、お仕事はお休みなんでしょうか。
「あら、こんにちは」
声を掛けるわたくしに三浦さん、少し驚かれたような表情を見せましたが、すぐに笑顔になって、返事を返してくれたのでございます。
「今日は仕事はお休みなの?」
「仕事、辞めたんです」
「またどうして?」
すっとんきょな声を出すわたくしに、いろいろあってと答える三浦さん。
「ねぇ、新しく角に出来たケーキ屋さん知っている?」
三浦さん、唐突に話題を変えられ戸惑った表情で、はあと答えます。
「一度あそこで食べてみたいんだけど、今から行ってみない? 奢るわよ」
強引に腕を掴み、にっこりほほ笑むわたくしに、三浦さん、苦笑でございます。
さて、準備は整いました。
フルーツが綺麗に飾られたケーキを一口。
「おいしい」
二人で声をそろえて言うと、自然と笑みがこぼれます。
早速、わたくしは、愛梨の可愛らしい恋の話しをし始めたのでございます。
ご飯が食べられなかったことや、恋の力で何とか乗り切ったことや、それはそれは面白おかしく、重くならないように話したのでございます。
そんなことがあったんですかと、三浦さん深刻な顔で頷きます。
「ちっともそんな風には見えなかったわ」
三浦さん、コーヒーを飲み干してから、女の子は難しいですよねと付け足したのでございます。
齢を取ってからのわたくしは、どうも回りくどいのが苦手で、その言葉を受けて、例の話を切り出したのでございます。
「こんなことは、他人のわたくしが言うのも変なんだけどね、愛梨からちょっと気になる話を聞いたから、怒らずに聞いていただけるかしら?」
何だろうと言いながら、三浦さんが頷くのを見て、一呼吸を入れてからさらりと話したのでございます。
「誰か、好きな方でも出来たの?」
「何ですか突然」
「綺麗になったみたいだから」
「お上手ですね。主人に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」
三浦さん、明るい笑顔で言っているけど、旦那さんには相当苦労させられているのは、有名な話でございます。酒が好きで、毎晩飲んでは管を巻き、時には手を上げることもあるらしいと、近所に住んでいる重吉さんから話は聞かされておりましたし、実際に顔にあざを作っているのも何度か見かけております。
「相変わらずなの?」
遠い目をした三浦さんが、曖昧な笑みを見せます。
派手な音を立てて騒ぐこともあり、心配した近所の人が、警察を呼んだこともあったようでございます。
わたくしが知っていてもおかしくないと思ったのでしょう、三浦さん、素直に頷いて見せたのでございます。
ああなんて最低なことをするのでしょう。
美穂子さんと、三浦さんが重なり、わたくしの腹わたは煮えくり返ったのでございます。
ここで立ち上がらなければ、いつやるのでしょう。
もうわたくしの中で、論点は大幅にずれておりました。
もしわたくしが三浦さんの立場なら、誰かに優しくされただけでほろりといってしまうでしょう。それでも、一児の母親。軽はずみなことは出来ないはず。ましてや生真面目な三浦さんに限って、そんな事はないはずと思う反面、仕方がないこと。すべては暴力をふるう夫が悪いのですもの。どちらにしても、わたくしは全力で三浦さんの味方をするつもりでございました。
しかし、ナイーブな問題には違いありません。ここは慎重に、話を進めなければなりません。
しばらく悩んだわたくしは思い切って、愛梨から聞いた話をありのまま、伝えることにしたのございます。
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