第11話 恋は盲目
今日は、珍しいお客様でございす。
就職がやっと決まったと、真琴君を引き連れて、保奈美さんがやって来たのでございます。
和華子さんとは初面識なのですが、お互い子を持つ親であり、年齢も近いことも手伝って、すぐに打ち解けた様子で、ありきたりの世間話に花を咲かせ始めております。年寄りは、ここで退散した方が良さそうでございます。
「じゃあごゆっくり」
立ち上がったわたくしに、保奈美さんと和華子さんが口をそろえて、まだいいじゃないですかと引き留めてくれます。
二人ともわたくしを仲間外れにしてしまったのじゃないかと、気遣ってくれているのでございます。
全然そんなことはないのですが、ここは二人の気持ちを汲んで、そうと、座り直したのでございます。
「だけど参ったわ。まさか自分が、バツイチになるとは思わなかった」
お茶を一口飲んで保奈美さん、ポツリと呟いたのでございます。
事情は、それとなく平吉さんから伺っております。どんな顔をしたらいいものやら。
「やだー、そんな暗い顔をしないで。もうすっかり吹っ切れて、すっきりしたものなんだから」
明るく振る舞う保奈美さんに合わせて、わたくしと和華子さんも笑って見せます。
「優しい人だったんだけどなー。やっぱり私には、男を見る目がなかったのかな?」 留学生だったアボックさんが帰国するのに合わせて、保奈美さん、半駆け落ち状態でついて行ってしまったのございます。
平吉さん、あんな優男、すぐにぼろが出るとよく零していたのを思い出されます。
「でも好きになってしまったら、あばたも笑窪って言うから」
新しいお茶を注ぎ直しながら、和華子さんが言います。
「私、親に逆らって出てきちゃったから、本当に彼が変貌しだした時には、どうしようかと思っちゃったわよ」
保奈美さんの目が、わたくしに向けられます。
「仕方ないわ。子供を心配しない親なんて、どこにもいないんですから」
勤めて明るい声で言うわたくしに合わせて、そうよと和華子さんが相槌を打ちます。
「それでもね、こっちにも意地があったしね。自分の非を認めるのも嫌じゃない」
少し声の調子がおかしくなった保奈美さんを心配して、居間で遊んでいた真琴君がそっと顔を覗かせます。
「何でもないから、あっちに行ってなさい。愛梨、これそっちで食べていいから」
和華子さん、保奈美さんが持って来てくれたクッキーを愛梨に持たせ、真琴君はこれお願いと、ジュースを持たせ、そつなく追い払います。
保奈美さんもにっこりほほ笑んで、零さないでよと言い、安心させて見せます。
二人とも、本当に良い母親でございます。
そのあたりの経緯は、わたくしたちは知っておりましたの。
平吉さんが相談されに来た時は、驚きましたが、本当に無事で良かった。
人生、失敗はつきものでございます。
その失敗を、どう乗り越えて行くのかで、その人の価値は変わるものでございます。
チラリ、わたくしは真琴君を見ます。
この親子なら、きっと大丈夫でしょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます