第7話 彼女の言い分

目が覚めたらそこはいつもよく見ている自宅の天井があった。また、戻ってきた。そういう考えはもうない。今は戻れたことに喜びしか感じない。自分はやっとやるべきことを知れた。彼女のためにしてきた事、使った時間、味わった気持ち全てが無駄なんかじゃなかった。こうなったら居ても立っても居られない。そう思った俺は支度を済まし直ぐに家を出た。息を切らしながら向かう先は彼女の家。彼女がいるかどうかなんて考えなくてもいい、そこに彼女は必ずいる。今はそう確信が出来るくらいこの出来事についての自分なりの解答を得ている。



彼女の家に着き、インターホンを鳴らす。細々と彼女の声が聞こえた。

「入って。」

了承を得たので俺は扉を開けた。目の前には彼女が凛と立っていた。俺は尋ねた。

「君は、全て知っているんだろ?」

「うん。」

「単刀直入に言うよ、君が俺をループさせているんだよね。どう言うことか全て説明してくれないかな?」

「説明も何も、私から言うことはただ一つだよ。」

「え?」

「いい加減に目を覚まして。」

「目を覚ますも何も、君が原因なんだから君にどうにかしてもらわないとこっちが困るんだけど…。」

「違う、違うのよ。あなたは何もわかってないのね。原因はあなた自身、自分がループを起こしているの。」

「だから、何を言ってるんだよ。君は俺に助けを求めているからループを起こしているんじゃないのか?」

「巻き込んでいるのはあなた。助けていたのは私。」

「いや、違う。そんなはずないだろ。俺がどれだけループを重ねてきたか君にわかるか?」

「わかるわ、あなたの無責任なループのせいで私は勝手な行動は出来ないもの。だいたい、あなたはわたしの名前を言えるの?」

「きみの名前?そんなの…」

何故だろうか、今思い返すと不思議なことに、俺は彼女の名前を一度も発したことがない。どうなっているんだ?じゃあ、何故俺は彼女のために動いたんだ?

「いつまでこの世界にいるの?」

「どういうこと?」

「現実的にこんな体験できるわけないでしょ。もしかして本当にループしてると信じていたの?」

「そうだよ、違うとでもいうのか?」

「じゃあ思い出させてあげるよ。私とあなたは交通事故にあったの。ここはあなたの夢の中、なんでか知らないけど、私もあなたの夢の中にいる。だから早く現実に戻りたいわけ。」

「交通事故?確かに、車にひかれかけた時にループが始まったけど…、えっ?てか、俺の夢の中?」

「そう、いつまでたってもループばかり、だからあなたに気づいてもらうために長い時間かけて誘導したってこと。」

「じゃあ、今までの行動は意図的なものだったってことなのか?」

「そうよ、だから早くこの夢から出してよ。」

「そう言われても、そんな方法わかるわけないじゃない…」

その時、頭に痛みが走った。するとまたループの予兆が襲ってくる。ここまで来たのにまたやり直しなのか?いや、起こしてしまうのか?そう考えた時、ループのきっかけとなった事故の記憶が走馬灯のように頭に浮かんだ。

「違う、やっぱりおれじゃない。これは君のループだ。」

「何を…?」

「俺たちは、事故にあったんだ。病院で入院して当たり前くらいの事故だ。そりゃ、夢なんかに逃げたくなるわな。」

「だから、これはあなたの…」

「そう、これは俺の夢の中でループも俺が起こしている。でも、そのきっかけは君なんだろ。」

「わたしが何をするって言うの?」

「君は、俺に知って欲しかったんだろ?君自身の事を。」

「あなたがわたしについて何かを知ってどうなるって言うの?」

「ここにたどりつくためだよ。現実の俺はたぶん、昏睡状態なんだろ?今もこの世界にいる限り現実の俺が目を覚ますことはない。君は俺を助けに来たんだろ?目を覚まさないと死んでしまうから。そして、」

「それ以上もう言わないで。」

「じゃあ。」

「そうよ、わたしはあなたを助けたいの、こうなったせいはわたしの父が原因だから。あの日わたしの父が私たちを弾かなければ、あなたを死に追いやることはなかった。だからわたしはこうしてここにいるの。」

「だから、前のループでこの家を…、あと、ループごとにヒントとなるものを情報として差し出していたんだね。」

「そう、そこまで理解してもらえたなら早くここから出ましょう。」

「それは出来ない。それは君のやることじゃないのか?」

「いや、だってここは…」

「ここは俺の夢の中でも、ループさせているのは君なんだろ?じゃないと情報とか伝えられないでしょ?あと、まだ伝えたいことあるんじゃないの?」

「それは、本気で言っているの?あなたは何もかもわかったの?」

「いや、わかってない。でも、これだけは言わせてほしい。君が望もうが望まないが俺は君のために動いたんだ。」

すると彼女は泣き出し、こう言った。

「ごめんなさい、本当はここまでするつもりはなかったの。」

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