宮野京香‡ディテクティブ③

 昼食を終えた後、京香は玉音の買い物に付き合う事になった。木杖町の調査の一環としてでは無いが、折角の現地人との交流の機会、無駄にはできない。

 因みに昼食の支払いは、玉音に「私が払います」と言われて押し切られた。近所のおばちゃんたちが歓談のために来た喫茶店での支払いで「私が払うから」と言い合っていたのを思い出した。閑話休題。

 現在、京香は玉音と共にショッピングモールに来ている。


「玉音さん、何買うんですか?」


「そうですね〜、化粧品とシャンプーの詰め替えと、あと石鹸です。京香ちゃんは何か買いたい物はありますか?」


「いえ、特には」


 買い物に付き合うと言うか、ただ付いて来ているだけのような気がして、少しばかり気まずい気持ちになる。

 京香のそんな思いを他所に、玉音は化粧品売り場に行き、カゴの中に商品を入れた。日用品も同様に。


「……悩まないんですね」


 余りに淀みなく品物を選んでいく玉音を見て、基本的に女性の買い物は長いものだと思っていた京香は、素直に疑問を口にした。


「……私が、いつも使っているものなので」


 一瞬の間を置き、答えが返ってくる。

 京香はその一瞬の間が気になったが、詮索するような事でもあるまい。深くは聞かない事にした。


 †††


「ところで、京香ちゃんはこっちに、一人で来たんですよね?」


 会計を済ませ、玉音がマイバッグに商品を詰めたあと、唐突にそう訊かれた。訊かれた、と言うよりは確認のようだったが。

 昼食の時に話した事だ。隠す必要は無い。


「そうですけど、何か?」


「日帰りですか? そうで無いのなら、泊まる場所に当たりは?」


 そう言えば。

 今まではホテルや民宿に泊まらせてもらってたり、ホームレスのおじさんのダンボールハウスで寝たりしていたから、今回も問題ないと思っていた。

 だが、木杖に民宿は無いだろうし、ホテルもチェックインには少々遅い。

 結論。


「ありませんね」


 やっぱり。とでも言う風に玉音は頷く。そして、京香にある提案をした。


「では、私の家に泊まりませんか? 今日はお客さんが来る予定もありませんから」


「良いんですか?」


「もちろんです」


 これは、棚からぼた餅とか言う事か。もしかしたら路地裏で野宿も考えられたが、それはしなくて良さそうだ。

 聞く限りでは、玉音の家は、住宅街にある一戸建てのものらしい。基本的に一人暮らしだが、よく友人、知人を入れるため、孤独と言う事は無いようだ。

 そこまでは良い。ただ、玉音の考えが分からない。今日知り合ったばかりの、友人でも無い人物を家に泊めようとする者がいるだろうか。

 献身が美徳の日本人だ。頼まれれば、或いは一晩くらいは泊める者くらいいるだろう。しかしだ、数時間前まで見ず知らずだった人を自分の家に泊めようなどと言う聖人が、果たしてどれだけいる事か。

 玉音の家への帰路について行く中、京香は思う。私を家に上げる事に、どれだけの意味があるか、と。


「……」


 確かめてみよう。思い立って、少し歩速を速める。

 玉音の足元から伸びる影に、足を踏み入れようとした、その時。


(……殺気?)


 影からまるで針のような圧力を感じ、京香は思わず歩を止めた。それを感じ取ったか、玉音は顔だけを京香に向ける。

 その目は、酷く闇を帯びたように見えた。


「どうしました?」


「…いえ、何も」


玉音このひとは、私を知っている?)


 分からない。

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