宮野京香‡ディテクティブ①

 木杖こづえ町には何かがある。


 私立K高等学校探偵部に所属する少女、宮野京香みやのきょうかは、いわゆる変態と呼ばれる人種である。

 何か気になる事象があれば気がすむまで調べ尽くし、何やら事件を嗅ぎ取れば、飛んで行って調査をする。今はまだ県内に留まってはいるが、その内海外にすら行ってしまうのでは無いかと言われている。本人は甚だ遺憾だと思っているが。

 さて、その京香だが、彼女の調査の対象は多岐にわたる。新聞に取り上げられるような事件からクラスメイトの友人関係、インターネット上のいざこざ、果ては単なる噂話他エトセトラエトセトラ……今回はその中でも、『単なる噂話』に近いものになる。


 事の発端は、京香がよく閲覧しているオカルト情報サイトのとある書き込みだ。このサイトでは、あらゆる人が匿名で、自分の不思議体験を投稿できる。そこでたまたま見つけたものは、いささか他とは趣が異なっていた。

 荒唐無稽でありながら臨場感のある文章で、まるであり得ない出来事が書き込まれていた。いや、そこまでならば文章力のある人が書いた作り話だと断ずる事が出来たのだが、その投稿のコメント欄に、『俺はこんなん投稿した覚えねーぞ?』と言う投稿者によるコメントがあったがために、逆に事実なのでは無いかと疑えてしまった。

 京香は、直ぐにその投稿者へダイレクトメッセージを送った。『例の体験をしたと思われる場所はどこですか?』と。投稿者は、別にそれくらいは教えても構わないと言った心境だったのだろう、簡潔に答えてくれた。その場所の名前が、木杖町。


「という訳で、明日から木杖に行ってきます」


「いや待たれよと」


 何の脈絡も無く唐突に好い顔をしてそう宣う京香に対し、K高校探偵部部長西川めぐるが制止をかけた。


「確かに明日から連休で、木杖に行くのは良いんだけども、どうしていきなり?」


「調査のためですが何か?」


「……何の調査で木杖町に行くと?」


「何か尋常でない事が起こっている気がしたので」


 ……はあ。

 またか、と、めぐるはため息をつきたくなった。何故かと言えば、京香が調査とやらの為に何処かへ出かけるのは別に一度や二度の事では無い。探偵部に入部してからは憶えているだけでも十回以上、単身で市外へ出ているのだ。

 そして毎回、何らかの成果をひっさげて帰って来る。それだけならば、まだ、ぎりぎり我慢なるのだが。


「……もう、行方不明にはならないでよ?」


 京香が単身調査に行く場合、ほぼ確実に三日から十日間ほど行方不明になる。理由は遭難や監禁されたなど様々だが、それはどうでも良い事だろう。いずれにせよ、部長であるめぐるの立場であれば心配せずにはいられない。


「善処します」


 そう言って京香は部室を出て行った。調査の準備があるのだろう。

 それっきり、部室は静まり返る。残り一人の部員清水仄きよみずほのかも慣れたもので、いつも通り依頼書に目を通していた。


「探偵部唯一の一年生がフリーダムってのも考えものだよねぇ……」


「考えものどころか大問題ですよ」


 そして、結局ため息をつき、めぐるもまた部活動に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る