第七掌 遺跡侵入


「ここか・・・?」


 俺は村長の家へと来ていた。

 ここに来るまでに何度か見つかりそうになったが、何とか見つかることもなく到着することが出来た。


「しかし、どういうわけか、さっきから女の人を見かけないな。男ばっかりだ」


 ここに来るまでに見かけることがあったり、見つかりそうになったのは男ばかり。

 どういうわけなんだ?

 森に行く前は普通にいたはずなのに。

 森からここに帰ってくるまででどこかに行ってしまったのだろうか?どうにも怪しいな。


「家の中には誰もいないみたいだし、窓から入らせてもらうとしますか」


 この世界・・・というか、この時代と言うべきか。

 家に鍵などは付いていない。

 街とかに行けば分からないが、少なくともこの村にはそんなものは存在しないようなのだ。

 まあ、おかげでこんなにあっさりと不法侵入することが出来るんだがな。

 俺の中の日本人が「犯罪だよ」と訴えかけているが、今は緊急事態だ。

 目を瞑ってもらおう。


「さてと。今度は家自体を把握して怪しい部分を探しますかね」


 把握をしてみるとビンゴだった。村長のだろうベッドの下に縦穴がある。梯子で降りれるようになっていて結構下まで行くようだ。この縦穴、今の俺の把握出来る範囲よりも長いな。


「ここが怪しいな」


 っていうか、ここ以上に怪しい場所が見当たらないくらいに怪しい。


「それじゃさっそく」


 俺はベッドを退けて床を外す。

 元から外すように出来ていたのか、壊れることなく、蓋のようにあっさりと外すことが出来た。


「行きますか」


 俺はその穴から一気に飛び降り―――――――たりはせず、ゆっくりと下っていった。


 いや、だってさ。

 もし飛び降りたとして、下に罠とか誰かがいたりとしたら危ないじゃん。

 それにそもそもの話、飛び降りるとか普通に無理。

 把握で解っているだけでも結構深いんだよ?

 そんなところに飛び降りれるか!




                   ・・・




「これはまた、まさに遺跡って感じのところだな」


 俺は特に何かが起こると言うわけでもなく、普通に梯子で降り立った。 そして降り立った後、辺りを見渡してみると壁一面に変な絵や文字っぽい何かが描かれている。

 一目で遺跡と分かる。


「それっぽいのばっかりあるな、この世界は」


 俺は把握で辺りを警戒しながらも、壁画を眺めながら進んだ。


「おっ。なんか広場に出たな」


 予想するにここは闘技場みたいなものか?

 俺の来た道以外で道がないな。

 ここで行き止まりか?


 再びキョロキョロと辺りを見渡し出す俺。

 そんな時、ガチャンという音が聞こえた。


「?」


 何かが開いた音っぽかったけど、何だろう?


 しかし、すぐに何なのかは分かった。

 ぞろぞろと俺が来た道以外の道から男の村人が出て来たのだ。

 数にして十人ほどだろうか?


「なんだなんだ⁉」


 村人が出て来たことに驚いたわけではない。

 把握していたから来るのは分かっていた。

 俺が驚いたのはその表情だ。

 誰も彼もが焦点が合っていない目で、まるで死んでいるかのような表情をしているのだ。


 そんな様子の俺が固まっているのを隙だと判断したのか、村人たちが俺に襲い掛かって来た。


「おわっ」


 捕まることだけは回避しないとと考え、村人たちから距離を取る。


 一応、ステータス的には十人程度なら何とかなりそうなんだけど、流石に「操られています」感ハンパない人たちに手は出せないわ。


「ここは戦わないが俺的に正解だ」


 俺が出来る最大範囲を把握しながら村人たちが出て来た道を駆け抜ける。

 流石は常人の十倍のステータス。

 あっさりと村人たちを引き離すことに成功した。


 異世界に来て、ゲームみたいな世界だっていう時点で人を殺さなきゃいけなくなることは分かっていたけど、流石に最初に殺すのが何の罪もない村人って嫌過ぎるからな。


 把握して、多くの人間の反応があった。

 人数からして村にいなかった女性たちだろう。

 外にいた男たちとさっきの男達とで結構な数の男達がいるのに地下の一か所にこんなにいるのはおかしい。

 明らかに男女比が偏ってしまっている。

 つまり、女性の可能性が高いってことだ。

 リリアスもここにいる可能性が高い。

 言ってみる価値はあるな。


 俺はスピードを緩めることはせず、そのままの猛スピードで駆けて行った。


 そしてその反応がある場所に到着するまでに時間は掛からなかった。

 反応がある場所の前に扉があった。

 結構重たそうな扉で、あからさまにここは牢屋ですよって言っているような見た目の扉だ。

 この遺跡を作ったやつは分かりやすさでも重視したんだろうか?


 今はそんなことはどうでもいいか。

 そんなわけでサクッと開けましょうかね。


 俺は扉を開ける。

 やっぱりかなりの重たさだった。

 引き戸だったのだが、かなり力を入れて引いた。

 何故か引いた瞬間、運動会の綱引きを思い出した。


「予想通りだったな」


 そこには村の女性らしき人たちが牢屋に閉じ込められていた。

 一部屋に五人か。

 一人に一部屋っていうのは流石に牢屋の数が足りなかったんだな。


 俺が来たことに女性たちが気付くと思っていたんだが、どうやら何かされて眠らされているみたいだ。

 俺的にはリリアスを探さなきゃいけないからここで騒がれなくて好都合なんだけど・・・。

 リリアスもどこにいるか分からないな。

 小まめに探していくか。


 一部屋一部屋じっくりと探す。

 しかし、リリアスはここにはいなかった。


「どこか別の場所に閉じ込められているのか?」


「正解」


 俺の呟きに誰かが言葉を返してきた。


「誰だッ」


「こんにちは。私、ドンナーって言うの」


 ドンナーと名乗る女がニコニコしながら俺に近づいて来る。


「これからよろしくね?」


 ニコリとより一層笑い、次の瞬間、目を開いた。

 その目は何故か光っており、吸い寄せられるような感覚になった。


「はい。これであなたも私の僕よ」


 ドンナーは俺に抱き着き、囁くように言ってくる。


「意味が分からんな」


 俺はドンナーを引き剥がし、距離を取る。


「なッ。どうして⁉」


「いや、どうしてって言われてもな」


 目が光ったところを見ただけで特に何ともないんだけど。

 むしろそれだけですか?って感じ。


「例え効かなくても当分は動きを封じることが出来るのよ!なのに何であなたはすぐに動けるの⁉」


「え~?そんなこと言われてもな~。見た目で判断するけど、あんたってサキュバス?」


「そ、そうよ」


 なるほどね。

 村人たちのあの性急さ、こいつの仕業だったのか。


「俺を虜にでもしようとしたんだろう?」


「そうよ!」


「それじゃ多分、原因は一つしかないな」


 俺のMNDの異様な高さだ。

 精神力の高い奴には洗脳とかの精神攻撃はあんまり効かないって誰でも想像出来るからな。


「教えなさいよ!」


 自分の洗脳が効かないのに焦っている様子のドンナー。

 この焦り様から見て、他に有効な手立てはないようだな。


「どうして敵っぽいあんたに教えなきゃいけないんだ?」


「ぐっ」


 自分でも馬鹿なことを聞いたと思ったのだろう。

 言葉に詰まっている。


「悪いけど、俺に何の手立ても持たないならサッサとこの村の人たちを解放して去ってくれ」


「そう簡単にここを手放せるか!私はここを拠点とし、この国を支配するんだ!」


 また大きく出たな。

 国を支配するとは。

 無理だと思うけどな~。

 そこまで国って言うのは甘くないと思う。


「まあ、勝手にしてくれ。俺の邪魔さえしないんなら特に気にしないから。それじゃ」


「あっ、待て!」


 俺はさらに牢屋の奥へとドンナーを置き去りにして進んだ。


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